『とはずがたり』を読む

『とはずがたり』には光文社文庫からよい現代語訳が出ている。最初はあまり信用していなかったが、必要な情報をうまく訳文の中に入れて、古文の分かりにくいぼかした書き方をしているところをずばり補足しているが分かったので推薦したい。 『とはずがたり』の古文は和歌の文体であり、古文の達人でも現代人には難解である。うわさの性描写を目当てに読もうとしても、そんなものはない。前後のいきさつがあるだけだ。 鎌倉時代後期の皇室は御所があちこちにあるなど、予備知識が必要で、そういうのをネットで仕入れながら読む必要がある。
3
前へ 1 2 ・・ 5 次へ
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『とはずがたり』の写本は、改行に見えるところが和歌なので、それをたよりに該当箇所を探すとよいらしい。

2023-08-24 20:33:05
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

光文社文庫の訳は最新の小学館版を参考にしているのか、一巻二章の「紅の薄様八つ」を鳥の子紙八枚としている。しかし、この薄様は襲(かさね)で色が徐々に違っていく八枚ものの袿(うちぎ)であるとする解釈も多い。

2023-08-25 10:41:36
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二条は後嵯峨法皇の臨終にも立ち会うが、僧侶の諭しに対して法皇は何も答える力がないのを、「現世に執着して、懺悔の言葉もしっかり言うことも出来ず、改心もせず亡くなった」と悪口を書いている。 「…懺悔の言葉に道を惑わして…翻し給う御気色なくて」(33p)は分かりにくいが、そういう意味だろう。

2023-08-25 16:51:56
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

後嵯峨法皇が死ぬと次は二条の父親が病気になり、いつ死んでもいいと思っている。それでも、二条が気分が悪がるのを、自分の病気のせいだと思うやさしい父親であるが、娘の様子に「ただならずなりにけり」(36p)と娘の妊娠に気づき俄然生きたいと思うようになって祈祷などを始めるのである。

2023-08-26 01:16:37
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

父の死まで読み進めて、やっと男女交際の話になる。父の葬式の後に二条のところに「雪の曙」が来て、二人は話に花が咲く。ただし 「そうだ、もともと父はこのひとと夫婦にするつもりだったのだ…」(光文社70p)は原文にはない。 プレイボーイは「あらぬさまなる(変な)朝帰り」と言って何もせずに帰る。

2023-08-27 02:17:04
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

この時の和歌のやり取り(岩波文庫47p)  別れしも今朝の名残をとりそへて…(二条)  名残とはいかが思はん別れにし…(雪の曙) ここで別れは父との死別、名残は男との別れを意味する。  その後の「夜もすがらの名残も、誰が手枕にか」の名残は名残惜しさ。誰とも共寝していないのにと独り言。

2023-08-27 10:34:29
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

すると、この独り言に答えるかのような和歌が雪の曙から送られる。  忍びあまり(=気持ちを抑えかねて)ただうたたねの手枕に(=朝まで長居しただけなのに)、露かかりきと人やとがむる(愛しあったと見咎める人がいるだろうか)。 さっき和歌の「露」は涙、この「露」は「愛情の比喩」(久保田234p)。

2023-08-27 10:51:54
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「愛の露」と言う雪の曙に対して二条はとぼけて見せる。  草木の露ならあちこちにあるのに、袖の露だけ気づかれるわけがないと。  同時に、二人のことは気付かれていない、心配せずにまた来て欲しいと言うわけである。

2023-08-27 11:35:08
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

朝には鏡を見る折も、誰が影ならむと喜び、夕べに衣を着るとても、たが恩ならんと思ひき(『問はず語り』43p)。 モーパッサンのベラミも廊下の鏡に写った自分の姿の惚れ惚れしていたが、この二条も自分の美貌が気に入っていて、恋の冒険に向かうのである。

2023-08-27 11:42:42
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

雪の曙は二条に会いたかったが後深草院の使いが二条のもとに通っているので、「頃とも知らで[と]や思し召されん」(49p)、自分との交際を院がお気付きになっては困ると控えていた。 「末の松山波越さじ」は「心変わりはしない」→「波こゆる頃とも知らず末の松」は「心変わりする頃とも知らず」

2023-08-27 13:58:55
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

いよいよ出産したのが男子だった(岩波文庫60p)ので院からはこっそり佩刀を贈られるなど周囲は大騒ぎだが、本人は父親が死んで自宅で産めなかったことや、「千万人に身を出だして見せしこと」(久保田の解釈252p)が嫌だったとか、幼さぶりは抜けない。日本でも皇子の出産は公開されていたことになる。

2023-08-28 11:40:29
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

小夜衣(さよごろも)とは? 意味や使い方 - コトバンク kotobank.jp/word/%E5%B0%8F… 一般に寝具のことだが、比喩的に相手の女のことも指す

2023-08-28 13:22:31
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二条は皇子の母になったのに自覚もなくまだ雪の曙と浮気を続けていて、後深草院に感づかれてしまう。最中に むばたまの夢にぞ見つる小夜衣(=お前が)あらぬ(=別の)袂を重ねけりとは(62p) という院の和歌が来るが、空とぼけて過ごしてしまう。 ちなみに「抱き合ったり」(光文社95p)は原文にはない。

2023-08-28 13:35:09
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

二条は貴族なので、モーパッサン『女の一生』のジャンヌと同じく、働かないし子育てもしない。皇子は手元を離れて叔父が育てていたが、二歳にならずに「しぐれの雨のあまそそぎ(=雫)、露とともに消えはて給ひぬ」(68)と聞いただけ。これも自分の浮気のバチが当たったからに違いないと涙に暮れる。

2023-08-28 19:23:36
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

この段に、二条の西行のように生きたいという望みが書かれている(68p)。これは名文である。 難行苦行はかなはずとも、我も世を捨てて、足にまかせて行きつつ、花のもと、露の情けをも慕ひ、もみじの秋の散る恨みをも述べて、かかる修行の記を書きしるして、亡からん後の形見にもせばやと思ひしを、

2023-08-28 20:56:51
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

さても二つにて母に別れしより我のみ心苦しく、あまた子どもありといへども、おのれ一人に三千の寵愛もみな尽くしたる心地を思ふ。笑めるを見ては百の媚ありと思ふ、愁へたる気色を見てはともに嘆く心ありて、十五年の春秋を送り迎へて、いますでに別れなんとす(40p)。 娘への父の言葉も名文。

2023-08-28 23:37:26
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『とはずがたり』は、こういう述懐の文章は当時の文語調なのか分かりやすいが、出来事の叙述の部分は当時の口語が入ってくるのか分かりにくいところが多い。英語でも口語文は難しいが、それと似ているのかもしれない。

2023-08-28 23:40:58
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『とはずがたり』には、 「いふかひなき」は「幼い」 「かなふまじき」は「助からない」など同じ意味で使われているフレーズが多い。

2023-08-29 14:53:57
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

斎宮といえば葵祭のヒロインの美女だが、その女性が役目を終えて御所に挨拶に来たのを後深草院は放っておけない。「明日は嵐山でも行かれるますか、今宵はもうお休み下さい」と自室に帰ってきた途端に、二条に「いかがすべき、いかがすべき」と相談して、文を届けさせるが、相手は赤面するばかり。

2023-08-29 18:58:29
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「ただ寝たまふらん所へ導け導け」と二条に先導させ、「まづ先に参りて御障子を、やをら開けたれば、ありつるままにて」お休み中なので、「小さらかに這ひ入らせ給ひぬる」。二条はそこに残って斉院の侍女の横に寝ると、侍女が目を覚ましたので、「宿直の補充に来ました」と言って寝たふりをして待つ。

2023-08-29 19:07:04
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「御几帳(きちょう)のうちも遠からぬに」聞き耳を立てていると、斉院はあっさり院を受け入れてしまった。「心づよくて明かし給はば、いかにおもしろからむと覚えしに」朝までがんばって院に抵抗したら面白かったのにと、悔しがる二条に、「枝もろく折りやすき花」だっと自慢する院(問わず語りp74f)。

2023-08-29 19:15:51
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

その斎宮を迎えての管弦今様の遊びと酒宴の段は酒についての「申す」「参る」のオンパレードで、どれが酒を勧めるのか酒を注ぐのか酒を飲むのか見分けが難しい。「院に参る」が院に勧めるだったり、院が飲むだったりするのである(岩波文庫p75以下)。

2023-08-30 10:52:05
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

しかし、この岩波文庫『問はず語り』の本文は簡単な言葉も全部を漢字に変えずにかなのまま残していて読みにくい読みにくい。角川文庫が先に出たからあわてて出したのではないかと疑ってしまうレベル。これを放置したのは怠慢でしょう。そろそろ徒然草みたいに改訂すべきでは。こんなに面白いのに。

2023-08-30 17:20:21
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

籤を取る(くじをとる)とは? 意味や使い方 - コトバンク kotobank.jp/word/%E7%B1%A4… 籤(くじ)を引くことを、古文では 籤を取るというらしい。

2023-08-30 23:21:55
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

粥杖(かゆづえ)とは? 意味や使い方 - コトバンク kotobank.jp/word/%E7%B2%A5… 『枕草子』や『狭衣物語』『弁内侍日記』などにその記述がある。粥杖で女の尻を打つと子供が生れるという習俗 『問はず語り』84頁以下の、院が男を集めて女たちの尻を打たせたのを二条たちが仕返した話はこのことらしい

2023-08-31 00:55:40
前へ 1 2 ・・ 5 次へ