日本脳炎ノート

近年の日本脳炎はヒトにおける患者数は少ないが、患者数の1000倍程度の不顕性感染が推測され、主要な増幅動物であるブタの感染も続いている。ここでは日本脳炎の生態に焦点を当てて知見をまとめてみる。
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今井長兵衛 @medanjin

引用:熊本県は22日、玉名郡の70代男性が日本脳炎に感染したと発表した。男性は意識障害などがあり、有明保健所管内の医療機関に入院中。今年に入り感染者が確認されたのは全国で初めて。 news.yahoo.co.jp/articles/d2ee1…

2023-09-24 21:11:05
今井長兵衛 @medanjin

伝染病統計・IDWRより、1964年以降の日本脳炎患者数の推移を下図に示す。2023年は9月10日までのデータ。患者数は1970年代に減少し、1991年以降はさらに減少して0~14人の範囲で推移している。 pic.twitter.com/alxZp2ci0E

2023-09-24 21:21:17
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今井長兵衛 @medanjin

IDWRによると、府県別の日本脳炎届出患者数は、2012~2022年の合計で、茨城1、千葉2、石川1、山梨1、静岡1、三重1、京都3、奈良1、和歌山7、兵庫2、島根3、岡山4、広島5、山口2、徳島1、長崎6、福岡1、熊本7、大分2となっている。

2023-09-25 22:33:07
今井長兵衛 @medanjin

日本脳炎ウイルス(JEV)のライフサイクルの簡略を下図に示す。ブタはイノシシを家畜化したもので、日本では弥生時代からブタの飼育がそれなりに本格化したようだ。イノシシは自然サイクルにおけるJEVの増幅動物なのだろうが、家畜も含めれば主要な増幅動物はブタである。 pic.twitter.com/yLto4lxWYQ

2023-09-26 22:18:26
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今井長兵衛 @medanjin

日本脳炎ウイルスの増幅動物であるブタのHI抗体、とくに 2-ME感受性HI抗体(IgM抗体)の保有状況は、ヒト流行の先行指標として、各都道府県で調査されている。感染研による最新の速報は9月13日現在のものが公表されている。 niid.go.jp/niid/ja/je-m/2…

2023-09-27 21:02:45
今井長兵衛 @medanjin

2-ME 感受性抗体は宮崎(8月21日)、大分(9月6日)、熊本(8月21日)、佐賀(6月6日)、福岡(8月21日)、高知(6月27日)、愛媛(9月5日)、香川(9月4日)、島根(7月21日)、三重(8月3日)、茨城(8月28日)で検出(括弧内は直近の検出日)。この地域ではJEVがブタで流行しており、要注意。

2023-09-27 21:29:57
今井長兵衛 @medanjin

このように、コガタアカイエカ♀成虫は、水田等の淡水性広域止水から発生し、1km程度の範囲でウシ、ブタ(イノシシ)、ヒトなどから吸血したのち、発生源の水域に産卵する。吸血嗜好性に差がないとすれば、どの動物からどの程度吸血するかは、各吸血源動物の相対的空間分布のありようで決まるだろう。

2023-10-01 15:43:41
今井長兵衛 @medanjin

日本脳炎の主要媒介蚊コガタアカイエカは広い水域から発生し、狭い水域から発生する蚊より発生源と吸血源の距離が相対的に長い。それでも、和田義人さんによると長崎での分散実験(標識再捕法)では 7日間の最長移動(飛翔)距離は 8.4km、平均移動距離は 1.0kmにすぎない。 jstage.jst.go.jp/article/jjaez1…

2023-09-29 23:08:17
今井長兵衛 @medanjin

Wada et al. (1970)Tropical Medicine, 12 (2) :79-89 によると、コガタアカイエカの吸血嗜好性は、ウシ>ブタ>ヒトと推定される。少なくともブタをとくに好むということはないようだ。

2023-09-29 23:49:39
今井長兵衛 @medanjin

下左図に戦後日本におけるブタの飼養状況を示す。飼養戸数は1960年ころまで増加したのち減少に転じているが、飼養頭数は1990年ころまで増加を続け、多頭飼育が増加している。下右図は1戸あたりブタ飼養頭数の推移で、1946年の1.4頭から2022年の2493頭に激増している。 pic.twitter.com/MrjSbQqLo4

2023-10-01 16:03:07
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今井長兵衛 @medanjin

つまり、ブタの飼養形態は集落内家族経営から集落から離れた場所での多頭飼育へと変化し、日本脳炎終末宿主たるヒトと主要増幅動物たるブタとの空間的「隔離」が経年的に進行したものと思われる。

2023-10-01 16:12:44
今井長兵衛 @medanjin

下図は全国の水田面積の推移で、1969の343.6万haから2022年の235.2万ha(1969年の68%)に減少している。主要発生源たる水田の減少が日本脳炎媒介蚊コガタアカイエカ個体数の減少を引き起したことは明らかだ。 pic.twitter.com/mAFUwRZpN9

2023-10-01 22:33:18
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今井長兵衛 @medanjin

それに加え、上村(1998)などが述べているように、停滞水を多く含む淡水湿地の減少、中干法の導入による水田の乾田化などがコガタアカイエカの減少に関与している。 jstage.jst.go.jp/article/mez/49…

2023-10-01 22:46:48
今井長兵衛 @medanjin

ヒトへの屋内吸血を減らすには住居への蚊の進入を抑制することが重要で、網戸を備えたアルミサッシはその有効なツールである。下図にアルミサッシの出荷額の推移を示す。1960年代からの急増は住宅等でのアルミサッシへの転換の過程で、1990年以降の推移は新築・建て替え時の過程と考えている。 pic.twitter.com/rHGeDUzwHr

2023-10-02 22:59:08
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