新しい楽器:8.バシェの音響彫刻とジョー・ジョーンズの創作楽器
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nakagawa09
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まずはバシェの音響彫刻から。近年(2010年代以降)の日本では、大阪万博で展示されたバシェの音響彫刻を修復復元するプロジェクトが進行中です。|Baschet Association of Japan – バシェ協会〜大阪万博EXPO70 フランソワ・バシェ音響彫刻の世界〜 baschet.jp.net
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演奏会や展覧会が行われてきましたし、実物を見る機会にも恵まれ、資料も増えてきました。バシェの音響彫刻といえば1970年の大阪万博の思い出話を聞くばかりだった、中川がバシェのことを知った20年前とは大違いです。
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リンク先は、コロナ禍で開催が危ぶまれつつもなんとか開催できた岡本太郎美術館での展覧会でのコンサートの様子です。 youtu.be/KeTeM9tOYsc バシェ協会、Baschet Sound Sculpture Performance:「Ensemble Sonora」Jyoji Sawada
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バシェについてはたくさん話題があるのですが、まず概観から。バシェの「音響彫刻」は1950年代から作られ始めました。「音響彫刻(sound sculpture)」の歴史を語る際によく言及される代表的な4人のうち一人です(兄弟なので、もちろん正確には二人です)。
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また、ニューヨークのMoMAで開催されたバシェの音響彫刻の展覧会(1965年)は、初めて「sound」という言葉がタイトルに含まれる展覧会でした。|readyfor.jp/projects/geida… 関東でも音響彫刻が演奏される機会を(横浜国立大学 中川克志) / 未知の音を奏でるバシェの音響彫刻。 40年の時を超え、復元へ。
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そもそもバシェはその音響彫刻を作る前に、まず、楽器の発音体、振動伝導体、共鳴部分などを1から考え直して楽器を刷新したいと考えたそうです。新しい楽器を作ることで新しい音楽を生み出したかったようです。
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ということは、Baschet, François. 1963. “New musical instruments.” New Scientist 337: 266-268 (May, 2. 1963) という記事を読んで知りました。こちら、Google Bookで該当記事を読んだのですが、今回探し直したところ、うまくリンクを貼れません。
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また、バシェは初めてMoMAで展覧会を開催した時、自分のバンドで北米ツアーもしています。これはMoMAでアーカイヴ調査をして知ったのですが、今やその資料はオンラインにあります…!|Structures for Sound - Musical Instruments by Francois and Bernard Baschet | MoMA moma.org/calendar/exhib…
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つまり、バシェが作ったのは、「展覧会で展示される(主として視覚的に鑑賞される対象としての)彫刻」ではあるけど、そもそもは「楽器」としての用途を念頭に作られたものだったらしい。1970年にバシェの音響彫刻が日本に輸入された時も、「楽器彫刻」「彫刻楽器」など、表記はぶれています。
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次に、フルクサスのジョー・ジョーンズの創作「楽器」、あるいは自動演奏「楽器」について。このようなものです。|youtu.be/JEJI2x49z6o, abnet75, Joe Jones' Instruments by Anna Battista
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あるいはこちら。youtu.be/iqKF0G4pHaw Joe Jones 1977, Installation_Gitarre, Kinetische Kunst, Gruppe FLUXUS
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ジョー・ジョーンズといえばカウント・ベイシー楽団でドラムを叩いたパパ・ジョーや、マイルス・デイヴィスのマラソン・セッションを叩いたフィリー・ジョー・ジョーンズと同名ですが、こちら、「フルクサス」という1960年代後半以降のアートムーブメントに関連するアーティストです。
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この人はこの自動演奏楽器で有名で、要するに、モーターに取り付けた紐や棒を回転させて弦楽器や打楽器を「演奏」する楽器をたくさん作ったことで有名です。
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こちらについてはこれだけで済ませておきます。そのうえで言いたいことは、ジョー・ジョーンズの自動演奏楽器は「楽器」とか「music machine」とか形容されることが多いですが、人間による操作可能性はあまり高くないのだから、「音響彫刻」とも呼べそうだ、ということです。
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〈バシェの音響彫刻は「音響彫刻」と呼ばれがちだが、おそらくその主たる用途は楽器である〉と〈ジョー・ジョーンズの自動演奏楽器はmusic machineと形容されるが、操作可能性はほとんどないのでこちらこそ「音響彫刻」と呼べるのではないか〉ということが、とりあえず言っておきたいことです。
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すぐさま付け加えておきますが、別に呼び名は何でもどうでもよいと思います。厳密に定義することが重要ではないし、できるわけでもないし。なので、述べておきたいことは、正確には〈創作楽器と音響彫刻はその操作可能性で区別されるような気がする〉と〈呼び名はあまり気にしなくて良い〉です。
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両者の事例は、音響彫刻とか創作「楽器」の代表的な事例とされがちです。「新しい楽器」というテーマで何か言うとすれば、何だろう。音の出るものであればなんでも楽器と呼んでみると面白いかも、とか? チクタク音のするアナログ時計も楽器だし、蛇口を捻って演奏する楽器もあるだろうし。とか?
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あるいは、普通は「楽器」と呼ぶものを「音響彫刻」と呼んでみるのは面白いかも、とか。音楽は凍れる建築だという考え方もありますが、スウィングするジョー・ジョーンズのドラム・スティックは「動く彫刻」なのかもしれません。これはこれで陳腐な発想かもしれないけど。
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ジョージ・シーガルの石膏人体彫刻をsoundingさせる発想などにつながれば、けっこう面白い気もします。|ジョージ・シーガル - Wikipedia ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8…
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最後に宣伝。『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』というタイトルでナカニシヤから本が出ます! サウンド・アートと呼ばれるタイプの視覚美術と音楽とメディア・アートとサウンド・インスタレーションについて、その歴史をまとめています。よろしくお願いします。
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バシェはこの本の系譜学における重要人物です。サウンド・スカルプチュア小史としても読める「第二章 音のある美術 視覚美術の文脈から出現した系譜」で、音響彫刻の先駆者4人の一人として語っています。他の三人はハリー・ベルトイア、ジャン・ティンゲリー、ロバート・モリス。
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第三章でもバシェに〈便宜的にそう呼ばれるサウンド・アート〉としての創作楽器の事例として言及しています。ジョー・ジョーンズの創作楽器もここで。音響彫刻と創作楽器という呼び名は、対象の性質によってではなく、その操作可能性や文脈によって変化するのではないか、といったことも述べています。
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