高校世界史教科書の古代イスラエル史記述(長谷川修一 2018)についてのメモ
長谷川修一・小澤実編. 2018. 『歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏』勁草書房. amzn.to/3UVnfhO 読んでる。
2024-02-29 12:58:19編者の一人であり第1章執筆者である長谷川修一は、論文ほか中公新書等でも「歴史としての(=非ユダヤ教・キリスト教者の観点から神話を取り除いた)“古代イスラエル”史を書いてる。たとえば 長谷川修一. 2013. 『聖書考古学』. 中公新書/中央公論新社. amzn.to/3P2fv9X
2024-02-29 12:59:27この観点から、2019年ごろまでの(つまり2022〜2023年ごろの「新課程」になる前の)高校検定教科書において、あまりにユダヤ教の言い分で“古代イスラエル”人の言い分をそのまま書き過ぎではないか、という指摘を『歴史学者と読む高校世界史』第1章で指摘している。
2024-02-29 13:00:49長谷川は、具体的に「“ヘブライ人”という呼称」「ダビデ・ソロモンの活躍から南北分裂」までの記述は、現存する史料から論証できず、典拠は旧約聖書にしかないこと、にもかかわらず、多くの高校教科書が旧約聖書の記述をそのまま無批判に載せていることを指摘している(長谷川, 5—12)。
2024-02-29 13:08:56言ってみれば、これは他国の世界史教科書が、日本のセクションで「ニニギノミコトがヤマト民族を率いて……」などと無批判に書いて、それを日本の歴史として教えてしまっている、というような状態に近いのだと思われる(長谷川2018ではこういう説明はしていないが)。
2024-02-29 13:11:31長谷川は、2010sの高校歴史教科書の“古代イスラエル”節がこうした状況に陥っている理由として、4つの要因を挙げている:(1) 教科書採択に係る保守性 (2) 学習指導要領の射程が、(2a) 狭義の史実とはまた別に (2b) 広義の“そのように了解された史実”(一神教思想等の背景がここに入りうる)にもあること
2024-02-29 13:15:02(3) 歴史教科書の分担執筆を担うべきは聖書学者ではなく、あくまで“イスラエル”史の歴史学者である方が良いが、実際は歴史学の訓練を受けていない聖書学者が担当してきたこと (4) 単に教科書執筆者がこの節の信頼性を吟味してこなかった可能性が高いこと (長谷川2018, 13—15)
2024-02-29 13:18:50長谷川はこのあと、「史実」にも2つのレベルがあることを述べつつ、どうにか教養としての、伝承としての“古代イスラエル”史を、狭義の史実ではないものとして、各関係者(教科書執筆者/出版社/現場教員等)がその都度アナウンスしてゆけないか、と、3点の指摘を通じて提案している(同, 18—19)。
2024-02-29 13:21:52先日私(tricken)は、2024年(令和6)時点における歴史学び直しに高校世界史教科書が未だに有効である旨の話をしましたが、歴史学者によって色々アップデートの必要が提案されていることは、気にしておいて良いと思います。note.com/falettinsouls/…
2024-02-29 13:25:01長谷川修一さんは、『岩波講座 世界歴史02:古代西アジアとギリシア ~前1世紀』amzn.to/3Iicwq5 の分担執筆者としてもクレジットされているようなので、一度そこでの“古代イスラエル”史の内容を確認してみようかしら。
2024-02-29 13:36:34(私が“古代イスラエル”に毎度引用符をつけてるのは、古代イスラエルという言い方自体が現代イスラエルとの関係において微妙という主張があるため)
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