夜行列車の窓からは暗闇の中にポツリポツリと民家の明かりが所々見えた。しかしこの明かりの下に人が住んでいるとはなんだか信じられない気持ちだった。明るい列車内のガラス一枚隔てて深い深い闇が広がるこのコントラストがそう思わせるのかもしれない。遠くの恋人に会うために夜行列車に乗りそんな事
2011-12-26 21:11:59を考えていた。気がつくといつの間にか電気は消され車内とガラスの外の夜が同じになっていた。いつの間にか眠っていたらしい。と同時に大きな音、今まで味わったことのない衝撃に襲われ、また意識を失った。どのくらい経っただろうか瞼をやっとの思いで開けると明るい真っ白な部屋にいた。目が眩み周り
2011-12-26 21:12:05に何があるのかよくわからない。体は重く指一本も動かせない状態で目玉だけをキョロキョロ動かしてここがどこなのか、どうしてこんな所にいるのか考えた。あなたは死にました。唐突に女の人の声が聞こえた。あなたは列車の事故にあい死んだのです。一体何が起こっているのか、何を言われているのか混乱
2011-12-26 21:12:13して理解できずにいた。声のする方をゆっくりと視線を移すとおぼろげだけれど女の人がベッドの隣に座っているのが見えた。どういうこと?そう問いかけると先ほどと同じ、あなたは列車の事故で死んだのです。という答えが帰ってきた。轟音と凄まじいい衝撃が何となく思い出された。あぁ確かにそうかもし
2011-12-26 21:12:28れない。とすごく他人ごとのように思えた。すると女の人が僕の額に手を置き、残された人たちを見てみたいですか?というので、コクリと頷いた。と同時に頭の中に鮮明な映像、いやもっとハッキリとその現場に瞬時に移動したかのように場面が変わった。天井からベッドに横たわる僕の様なモノの周りに家族
2011-12-26 21:12:31恋人、友人、親戚が集まり涙を流しながら何かを叫んでいるようだった。ホントに死んでしまったんだな。とまた他人ごとのように感じたのは本当はまだ実感がないからなのかもしれない。どうです?女の人が言った。どうです?と言われても困る。自分が死んだのかも実感がないしそもそもこれが現実なのかも
2011-12-26 21:12:40わからない。しばらく考えてこう言った。まぁ死んだのが僕でよかった。多分この時は本心だった。よかった?自分が死んで?少し驚いたように女の人が言った。まぁそのうちいいこともあるだろうし、死ぬよりも生きてた方がいい。僕の事だって、今はあんなにみんな悲しんでくれているけど時間が経てば忘れ
2011-12-26 21:12:47るだろうし。死んだらそれで終わりだからね。強がりだったかもしれないけれどこの時本当にそう思った。大切な人の人生が終わるなら自分の人生が終わったほうが100倍ましだ、と思った。次は終点大岡~終点大岡~。車内放送で目が覚めた。重いまぶたを開けると座席は同じだけれど、窓の外は夜とは違い
2011-12-26 21:12:56太陽に照らされた明るい町並みが見えた。あぁやっぱり夢だったのか。なんか気分悪い夢だったな。そう思いながら荷物棚からトランクを下ろし電車を降りた。ホームから彼女に電話をした。数回の呼び出し音の後に彼女とは別の女性の声で聡さん?と聞こえてきた。思いがけない事態に一瞬固まりはい。とだけ
2011-12-26 21:13:03なんとか答える事ができた。友美の母です。友美が、今朝亡くなったの・・・。どのくらいの時間携帯電話を耳に当てたままホームに立っていただろうか聞き覚えのある声が頭上から聞こえた。どうです?うーん、私が死んでよかったかな。ハッとして声のする方を見上げると青空が高く高く広がっていた。
2011-12-26 22:50:40