「2531佐藤さん問題」はよくできたエイプリルフールネタだった

今年のエイプリルフールに選択的夫婦別姓を推進する団体ThinkNameProjectが投稿した「2531佐藤さん問題」が、思ったより精巧に(たくさんの)嘘が仕込まれていたので、備忘録としてまとめました。みなさんの選択的夫婦別姓への理解が深まることを願っています。
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存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

500年後の日本は全員「佐藤さん」になる!? 選択的夫婦別姓を導入しない場合を東北大教授が試算:東京新聞 TOKYO Web tokyo-np.co.jp/article/318487 この記事、元の推定方法(think-name.jp/assets/pdf/Sat…)見ても支離滅裂なことやってるようにしか見えないんだけど、手の込んだエイプリルフールってこと?

2024-04-01 08:45:31
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

佐藤姓の人の割合が増えると佐藤姓同士の婚姻が無視できなくなる、みたいな当たり前の話すら考慮せずに一定割合で増加すると仮定している時点で何の意味もない数字だからまともに取り合う価値はないと思うんだけど、そもそも婚姻の苗字分布への効果って中立的だよね?(エントロピー減らしたりする?)

2024-04-01 08:57:21
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

マイナーな苗字が絶滅すると復活しないからいずれは(といっても指数時間かかる)単一名字に収束して、マイナーな苗字の絶滅速度は夫婦別姓の方が遅いのか(あってる?)

2024-04-01 09:00:58
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

@minefy_fenglong この分析はそういう理論的なシミュレーションではなくて、 1. 佐藤姓が年に0.83%増えている(観察事実) 2.増加数を苗字が増減するイベント(婚姻・離婚・出生・死亡)の発生件数で比例配分 3.夫婦別姓の場合は婚姻の分の増加率を割り引く 4. 佐藤率×(1+増加率)^n=1を同姓と別姓それぞれで解く をしてる

2024-04-01 09:24:30
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

@minefy_fenglong 4が間違いなのは明らかなんだけど、2も間違っていると思うんだけど、これだけ何もかも間違ってそうなものを自信満々に出されるとよくわからなくなってくる

2024-04-01 09:31:43
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

昨日も言及した#ThinkNameProject (@ThinkNamePJ) の元の分析 (think-name.jp/assets/pdf/Sat…), きちんと読むと思った以上に何から何までデタラメな怪文書で驚いた。これを元に選択的夫婦別姓を喧伝している人には、論理的思考力と知的誠実性の少なくとも一方に著しい欠陥があるとしか思えない。(1/n)

2024-04-02 18:34:25
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

ただ、後述するように分析中にはきちんと読む人向けに「これは嘘ですよ」ということを示唆するヒントが散りばめられているので、(依頼元の団体はともかく)分析を依頼された東北大の先生はエイプリルフールの軽い冗談のつもりで書かれたのかもしれない(それにしてもやや悪趣味だと思うが)。(2/n)

2024-04-02 18:34:46
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

この分析は 1.佐藤姓の割合の増加率の推定 2.増加数を名字が増減するイベント(婚姻・離婚・出生・死亡)の発生件数で比例配分 3.夫婦別姓の場合は婚姻の分の増加率を割り引く 4.佐藤率×(1+増加率)^n=1を同姓と別姓それぞれで解く から構成されるが、なんと1〜4の全てのステップが誤っている。(3/n)

2024-04-02 18:35:06
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

まず1. の佐藤姓の増加率という一番簡単な計算すら怪しい。増加率ρ=0.83%は2022年と2023年のデータから推定したそうだが、本文には「佐藤姓の占有率x(t)は2013年の1.480%から2023年の1.530%」に増加ともあり、こちらから計算される増加率は(1+ρ)^10=(1.530/1.480)より0.33%と半分以下になる。(4/n)

2024-04-02 18:35:16
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

さらに、2023年の占有率1.53%という数字も再現されない。「名字由来net」で公表されている2023年10月時点の佐藤姓の人数は183万人、同サイトの網羅率が99.04%。同月の総務省「推計人口」による総人口は12435万人なので、本文の記載通りに計算すると占有率は183/(12435*0.9904)=1.49%となる。(5/n)

2024-04-02 18:35:24
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

「名字由来net」の過去データは一般公開されていないが、2015年9月の記事(resemom.jp/article/2015/0…)の情報から同様の計算を行うことができる。ここでは佐藤姓の人数189.3万人、網羅率98.83%、総人口は12709万人より占有率189.3/(12709*0.9883)=1.51%と、佐藤姓の割合は僅かに減少している。(6/n)

2024-04-02 18:35:32
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

2018年の明治安田生命の調査 (meijiyasuda.co.jp/profile/news/r…) でも佐藤姓の占有率は1.58%と報告されており、そもそも佐藤姓が増加傾向にあるという以降の議論の前提条件自体が事実に基づかない。誤差の範囲の変動を恣意的に切り取った推定値に基づく砂上の楼閣のごとき分析としか言いようがない。(7/n)

2024-04-02 18:35:42
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

次に2.も完全に誤り。各姓の人数の増減を婚姻・離婚・出生・死亡に分解し、佐藤姓の増加率(1)を比例配分して婚姻の影響を推定しているが、出生・死亡が常に+1/-1されるイベントなのに対して、婚姻・離婚では増減両方が起こる(平均では0)ので両者の1件あたりの効果は全く異なり通算できない。(8/n)

2024-04-02 18:35:51
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

なぜか申し訳程度に離婚に関してだけ「結婚前のメジャーな苗字が佐藤であれば、当然、佐藤姓に復する場合が多くなる。」という但し書きがつけられているが、佐藤姓から旧姓に復する場合も同様に多いため打ち消し合う。婚姻に関しても全く同様で、原則として佐藤姓の割合は変化しない。(9/n)

2024-04-02 18:35:58
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

2. の婚姻の効果が無意味なので3.の夫婦別姓による影響の計算も無意味なのだが、さらに「夫婦別姓の場合は年と世代を重ねても佐藤姓の占有比率に変化はない」という誤った仮定(後述)が追加されている(orこの仮定を認めるならば夫婦同姓でも平均的な苗字構成が変化しないと想定すべき)。(10/n)

2024-04-02 18:36:24
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

最後に、既に多くの人が指摘している通り佐藤姓の「割合」(「人数」ならまだしも)が一定率で増加するというモデリングは非常識すぎる(さすがに気まずいのか「仮定のシナリオで機械的に計算したもの」と言い訳している)。正直、この部分だけでこの分析に何の意味もないと気づくべき。(11/n)

2024-04-02 18:36:32
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

この4. の部分の滑稽さを指摘する方法は色々あるが、「この理屈ならこの1年で増加した名字が全て将来的に100%を超える」というのがわかりやすかった。他にも「佐藤姓の割合が100.796% 」(表2)とは?、とか、別に高度な数学を知らなくても少し考えればいくらでもおかしな点に気づくはず (12/n)

2024-04-02 18:36:41
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

では名字の構成は理論的には変化しないのか?というと、そうではない。Galton-Watson分枝過程というモデルが古典的で、実は「名字を継ぐ子供の数の期待値が1以下ならばほとんど必ずその家系は絶滅する」。この効果は「一度0人になった名字は復活しないから」と考えると直感的に理解しやすい。(13/n)

2024-04-02 18:36:53
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

この設定での家系の生存時間の近似値は、名字を継ぐ子供の数の期待値をm(<1)・現在の人数をNとすると概ねn=ln N/(-ln m)世代程度となる。1名字以外が絶滅する時間も(やや煩雑だが)同様の値になり、これはN=10^8人・m=0.63・1世代=30年として1200年後くらい(≒日本の人口が1人になる時)(14/n)

2024-04-02 18:37:03
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

最後に、当初の論点だった夫婦別姓の効果を考える。まず、子供の姓が戸籍筆頭者の姓に固定される場合(多くの導入論者の想定)では、次世代の姓の分布が同一なので何の影響もない。しかし、子供の名字を毎回ランダムに選ぶ場合、父親と母親が各々子に姓を残す機会があるため、変化が生じる。(15/n)

2024-04-02 18:37:12
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

仮に父親と母親の姓を継ぐ子供の出生が独立に生じるとすると、元の分枝過程での人数Nが2Nに増えたとみなせるため姓の消滅が遅くなる効果がある。ただし、この効果はNに関して定数の差しか寄与せず、先述の試算の条件ではln 2/ln m≒1.5世代=45年程度の延長となる。(16/n)

2024-04-02 18:37:23
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

したがって、もし「名字の多様性」の維持を求めるのであれば、選択的夫婦別姓の導入も効果ゼロではないが、出生率の改善のほうがずっと効果が大きいという結論が導かれる。そもそも人口が0になれば名字も0になるわけだから、わざわざ難解な確率過程の解析をするまでもない結論とも言える。(17/n)

2024-04-02 18:37:31
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

ちなみに類似のシミュレーション(x.com/toshchy/status…)では名字が1種類になるのに60億年(2億世代)かかっているが、これは出生率を2(m=1)としているから。このとき家系の消滅や名字の独占にかかる世代はO(N)になるので、2億世代というのは理論的予測とよく一致している。(18/n)

2024-04-02 18:37:39
としゅきー™ @toshchy

「将来、名字って減る一方なんじゃないの?」という長年の疑問を解決すべく、非常に単純化された婚姻-出生-世代交代モデルによる乱数シミュレーションを実行したところ、  約61億年後、日本人は全員 #佐藤 になる という結論が得られた。 全国の佐藤さん、おめでとうございます。 pic.twitter.com/rZpH1gmuaU

2022-06-18 15:06:52
存在の耐えられない重さ @genkinanodesu

結論: ・Think Name Project (@ThinkNamePJ )が喧伝する #2531佐藤さん問題 は一から十まで分析のほぼ全てのパートが誤りであり、選択的夫婦別姓の導入とは何の関係もない ・出生率が2以下ならばすべての名字は消滅する運命にあるが、選択的夫婦別姓を導入すると消滅が1-2世代伸びる (19/19)

2024-04-02 18:44:16