「的は射るもの」なので「得る」は誤用である、とされることもあったが、もとを辿れば「不失正鵠」すなわち「正鵠を失わず」という慣用句であり(正鵠=的の中心)、それが「正鵠を失う」と肯定形で使われるようになり、その対義語として「正鵠を得る」という言葉が生まれ、そして明治末には「的を得る」や「的を射る」といった表現が出てきた、といった変遷があったもので、「的を得る」が間違っていて「的を射る」が正しい、といったような単純な話ではない。

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飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

「的を射た意見」も「的を得た意見」も、特に戦後広まったと『三省堂国語辞典』第8版にありますが、戦前はもっぱら「正鵠(せいこく)を得た」でした。「正鵠」は的の中心の黒点。「得る」はうまく捉える意です。「的を得た」はそのバリエーションです。国会図書館の資料から時代的変化が分かります。 pic.twitter.com/uJWh4cHhJ8

2023-07-09 19:37:08
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飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

国会図書館の資料では、「的を〈得た/射た〉」でなく「的を〈得る/射る〉」を検索すると「射る」の例が増えます。これは文字どおり矢で的を射る例が多くなるためと考えられます。検索する形によってグラフが変わることは注意すべきですが、ここに掲げたグラフは変化の特徴を捉えていると思います。

2023-07-09 19:37:23
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

「『的を得る』は本来は『的を射る』だった、でも最近は『的を得る』も認められた」というのは誤解で、「本来」を言うならば「正鵠を得る」でした。戦後、「的を射る」がやや先行して増え、「的を得る」が追う形ですが、どちらか一方が正しい、間違いとは言えません。このことは強調しておきます。

2023-07-09 19:37:41
k@migaki.be @k_migaki

@IIMA_Hiroaki 突然の質問を失礼します。類型に「当を得る」もあると思いますが、これらとの関係はどの様にご認識されてますでしょうか。お手隙の際で構いませんのでご教示頂けますと幸いです。

2023-07-09 20:13:54
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

@k_migaki 「当を得た」は戦前も戦後も非常に多くて、「的」や「正鵠」を使うよりもずっと普通の表現だったと言えます。「的」や「正鵠」とどの程度影響し合っていたかは、よく分かりません。

2023-07-09 20:20:21
k@migaki.be @k_migaki

@IIMA_Hiroaki 返答ありがとうございます。 「的を得る」は間違いで「的を射る」または「当を得る」が正しいという意見を聞いたことがあったのでお聞きさせて頂きました。当を得るは、的とは関係なく一般的な表現と理解しました。

2023-07-09 20:25:04
cocoon @cocoonP

@IIMA_Hiroaki 昔、SF作家の新井素子さんが「的を得る」は「当を得る」のほうがより適切だという旨を作中の台詞で描写されていました(表現としては「的は射るもの。得るのは当なの。」みたいな感じだったと思います)。正鵠を得るだとやや硬すぎると感じる際は同じく弓道由来のこちらが良いかもしれませんね。

2023-07-10 09:14:17
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

@cocoonP 「結婚物語」の一場面ですね。当時ちょうど「的を得る」は不適切だという説が広まり始めました。でも、上記のような歴史的変遷を見ると、「的を得る」「的を射る」「当を得る」のどれもお好みに応じて、といったところです。 pic.twitter.com/OqjxzAuhws

2023-07-10 10:29:35
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Leclerc💉💉💉💉 @3adam15

@IIMA_Hiroaki それを読むと正鵠は英語で言うところのBull's eye(的の中心、中心に当てること)に似ているなと思ったのですが、Collins辞書によればBull's eyeの俗語として「言動が狙い通りの効果をあげること」という意味もあるそうで。似たような言葉は似た使われ方があるんですね。 collinsdictionary.com/dictionary/eng… pic.twitter.com/1O4WevfumT

2023-07-10 00:52:51
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ARCCとRWAY配当子育てマン @ARCCdekanemochi

@IIMA_Hiroaki なんで的を射ただけで凄い扱いされるんだと思ってたけどなるほど真ん中ドンピシャが元々だったんですね

2023-07-10 11:06:19
cocoon @cocoonP

@IIMA_Hiroaki そうです、まさにこれですね。ちょうどこのころから現れた説だったんですねえ。三省堂国語辞典で説明を取り下げたのは飯間先生のこのpostのあたりですかね。 twitter.com/iima_hiroaki/s…

2023-07-10 10:48:38
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

『三省堂国語辞典』第7版では、従来「誤用」とされていることばを再検証した。「◆的を得る」は「的を射る」の誤り、と従来書いていたけれど、撤回し、おわび申し上げます。「当を得る・要領を得る・時宜を得る」と同様、「得る」は「うまく捉える」の意だと結論しました。詳細は「得る」の項を。

2013-12-15 17:39:37