『人工細菌誕生』の論文を解説してみる
- popeetheclown
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このようにして作った人工合成Mmゲノムには,元のMmゲノムと区別できるようにするために,複数箇所の遺伝子改変を施していた.これを利用して,PCRや制限酵素処理のバンドパターンから,目的通りに繋がった「人工合成Mmゲノム」が選択された #synthcell
2010-05-24 15:22:16【2人工合成Mmゲノムの移植】2007年の論文と同じ方法で,人工合成したMmゲノムをレシピエントであるMmに移植した.詳しい話としては,MmとMcは同じ制限修飾システムを利用しているが,合成したDNAは修飾されていないため,Mcの制限酵素破壊株を使用した #synthcell
2010-05-24 15:22:57人工合成Mmゲノムを移植されたMcが「人工細菌」の正体.人工細菌が人工合成Mmゲノムを持っていることは,PCR法,制限酵素処理法,人工的に加えた遺伝子改変の結果(ある培地で育てると青くなる)で確認した. #synthcell http://twitpic.com/1qeb9k
2010-05-24 15:23:29さらに人工合成Mmゲノムが予期していなかったエラーを含んでいるものの,生育には問題のないこと(多型の存在)について説明している.また,途中まである1塩基の欠失を見逃していたために,研究が数カ月ストップした事実にも言及している #synthcell
2010-05-24 15:23:38生育に必須な遺伝子dnaAの領域で1塩基欠失があったが,これを見逃していたために,移植した人工合成Mmゲノムを持つMcが生育しないという問題が生じた.人工合成ゲノムと生物由来ゲノムのキメラ体を作ることで,問題の位置を特定し解決したようだ. #synthcell
2010-05-24 15:28:23結果の後に続く考察のポイントは6つ:1シークエンスの精度,2開発した手法の汎用性,3「人工細胞」誕生の持つ生物学的意義,4実験生物学的な応用,5DNA合成費用のコスト低下,6生命倫理. #synthcell
2010-05-24 02:21:57考察1.シークエンスの精度:1995年の時点では10000bp当たり1つのミスは見逃すという精度だった.今回,dnaAの1塩基欠失が致命的なエラーとなることを発見・エラー除去できたことは,ゲノム人工合成が生命体に必要なレベルの信頼性に達したことを意味する #synthcell
2010-05-24 02:28:50考察2.開発した手法の汎用性:今回の論文は,マイコプラズマ属のMcとMmに限定した研究だが,開発した手法は汎用的であり,様々な生物種のゲノム移植やゲノムデザインに利用可能だろう. #synthcell
2010-05-24 02:31:24考察3.「人工細胞」誕生の持つ生物学的意義:著者らは,人工合成したゲノムによって生きている細胞を「人工細胞」と呼んでいる.今回,レシピエントとなったMc自体は普通の細菌であり,人工合成したものではない.(続) #synthcell
2010-05-24 15:24:24考察3続:しかし,元々あったタンパク質などは細菌が分裂を繰り返すごとに,人工合成Mmゲノムから作られたものに置き換わり,相対的に希釈される.30回以上分裂した細胞は理論上,人工合成ゲノムから作られたタンパク質分子だけを持つ #synthcell
2010-05-24 15:24:38考察3続:よって,人工合成ゲノムによってコントロールされている細胞の性質は,細胞全体を人工合成した場合と同じだと予想される. #synthcell
2010-05-24 02:38:15考察3続:これらをまとめて,彼らは次の表現を記している."the DNA software builds its own hardware" 「DNAソフトウェア(情報)は自身のハードウェア(細胞)を作っている」 #synthcell
2010-05-24 02:40:05考察4.実験生物学的な応用:実験生物学者がある遺伝子の働きを見たい時,今回の手法を用いれば,元々あるゲノムの影響を排除して,完全に人工合成したゲノムに置き換えてその影響を調べることができ,有用なツールとなる. #synthcell
2010-05-24 02:42:32考察5.DNA合成費用のコスト低下:今回の手法が一般化されれば,合成生物学(細胞を創ることを目的とする分野)において,人工ゲノムの構築・合成・移植といったことがもはや困難ではなくなる.特にシーケンス並みにDNA自体の合成のコストが低下することが期待される #synthcell
2010-05-24 02:44:50. @popeetheclown ブートストラップでないし、プログラミングもしていないけれども、これは衝撃的。ところで質問です。これヒストン様タンパク質などはコピーしなかったのですよね。遺伝情報は塩基対にすべて載っているということでしょうか。 #synthcell
2010-05-24 02:48:12考察6.生命倫理:今回の研究は初期段階から,人工生命についての倫理的な議論を推進してきた.今回の研究がさらなる哲学的課題を呼び起こすことを予想するとともに,著者らは対話の継続を奨励している #synthcell
2010-05-24 02:50:27.@ainsophyao 今回の研究ではコピーしていません>ヒストン様タンパク質.最後にMmに移植する前にMc抽出液で処理しているので,そこで結合する可能性はありますが.しかし,いわゆる「エピジェネティクス」がこの例ではないことを示しています. #synthcell
2010-05-24 02:53:53@popeetheclown ミトコンドリアのDNAとかはどう考えれば良いんでしょうね?ハード内にも別にソフトがあるってどういう状態だろう…? RT @popeetheclown 「DNAソフトウェア(情報)は自身のハードウェア(細胞)を作っている」 #synthcell
2010-05-24 02:55:25.@ainsophyao イントロでは「例えシンプルな細菌であっても,染色体が遺伝情報の総体と言えるのか?」「もしそうなら,遺伝情報システムを完全に人工合成したDNAで再現出来るか?」と問題提起していました.答えは考察3の通りYESです. #synthcell
2010-05-24 02:56:41最後に,読んだ感想を.これまでの研究の集大成であり,いつか発表されるだろうと思っていた論文ではあったが,間違いなく今年のBreakthrough of the Yearに選ばれる論文だと思った. #synthcell
2010-05-24 02:58:29「人工細胞」の部分が「人工生命」と結びついてことさらに取り上げられているが,この論文の最も大きな生物学的意義は,イントロの問題提起と考察3に挙げたように「人工合成したゲノムだけで,生命の持つ遺伝情報システムを再現出来る」ことを示した点だと思う #synthcell
2010-05-24 03:03:16もちろん,この結果はマイコプラズマ属というある細菌の結果に過ぎない.ヒトを含む真核生物ではDNA以外の部分(ヒストンなど)が持つ情報が重要であることは既に分かっているので,単純にこの結果が当てはまるわけではない. #synthcell
2010-05-24 03:05:10