工房径ついのべ集 2011年10月

10月のついのべの日は「鉄道」。10月5日はジョブズ氏が亡くなって、追悼タグでついのべた。大学のころmacと出会い、詳しくはないけどずっとmacユーザー。仕事も小説も、皆macからスタートした。全60作。
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工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 会社から高速で40分。一緒に残業をしていた彼が連れてきたのは、インター近くの夜景スポット。「どうしてここに?」と訊けば、彼は笑って「じゃあ、どうしてついてきたの?」まあ、いいか。後ろから抱き寄せるあなたも、そっと身を預ける私も、すべては冷たい秋風のせいにして。

2011-10-01 22:13:01
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 「ひとりで平気」そう言って私から離れたのに。毎晩あなたに合わせる周波数、送るメッセージ「私を探して」。会社でキーボードを叩くときも、駅からコンビニまでの道を歩くときも、わざと大きな音を立て、ぽつりぽつりと目印を落とすんだ。だからいつかきっと。私を、探し出して。

2011-10-02 21:04:48
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 僕らは呟く、泣いたときに漏れる吐息のように。走って走って、目の前でドアが閉まった最終電車。雨の中、踏まれてくしゃくしゃになった新聞紙。咲かなかった花。何度擦ってもつかないマッチ。それでも僕らは呟く。はるか遠くに見える小島のように、蓮の葉にたまった朝露のように。

2011-10-02 21:29:00
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 無理なことは初めからしない主義。簡単そうな約束すら守ってくれない世の中だもの。今君がいて、僕がいて、この温もりこそすべて。いやいや、こじつけなんかじゃない。今夜の残業が終わるまで、僕の気力は持ちそうにないんだ。だからさ、キスで僕にパワーをくれないかな、ベイビー?

2011-10-03 18:24:12
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel だから今日も鳩を飛ばすよ。つまんなそうに石を蹴るあなたに。憧れの人を見てため息をつくあなたに。カフェの窓際でぼうっと電光掲示板のニュースを読むあなたに。台所で夕餉の支度をしながら人知れず泣くあなたに。だって鳩はいつか私に帰る。あなたの言葉をしっかりと脚に結んで。

2011-10-04 17:59:24
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 星の見えない夜は、君の好きなボンボンショコラを用意して、僕の部屋へと誘うのさ。ショコラを頬張る君の瞳はうっとりと、まるでダイアモンドでも見るように。口の中で融けるまで、僕はショコラにさえ嫉妬して、すぐさまキスをせがむんだ。この部屋は僕の天球儀、回転の中心は君。

2011-10-05 12:51:28
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 「全然変わらないでやんの」1年振りに本社に戻った彼は、行った時と同じ笑顔で私の額をぴんと弾いた。「お互い様だよっ!」『待ってろ』なんて言いながら、電話ひとつ寄越さずに。私の涙に彼の顔が歪む。「そんな顔すんなって」馬鹿、馬鹿。こんな時はまず、抱きしめてよ。

2011-10-05 17:53:13
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 小学6年の頃の愛読書はアガサ・クリスティ。ミステリー好きの母を持つ5年生の彼としか話が合わなかった。「それがいま、こうしてふたりで2時間ドラマをみているとは」夫となった彼が言う。あのトリックはあの話に似てるよね、なんて語り合う食卓に並ぶのは、私の謎めいた料理。

2011-10-05 18:07:47
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 「『夕方フレンド』だと思ってた」同僚の彼女が呟く。カフェに流れるキャロル・キングの「You've Got A Friend」。「会社帰りの珈琲、私たちまさしく夕方フレンド?」。密かにつくため息が歌声に融ける。俺はね、そろそろ夜明けの珈琲と行きたいとこなんだけど。

2011-10-06 12:50:06
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 面接試験当日、スーツ姿の彼女が通り過ぎた瞬間、清々しい菊のような香りがした。きりりとした立ち姿に、俺の季節外れの風鈴が、欲望に吹かれてりん、と鳴る。隣の席に座った彼女の、握りしめる白いハンカチに誓った。これが終わったら、きっと声をかけようと。

2011-10-06 13:04:49

10月5日 スティーブ・ジョブズ氏死去。追悼ハッシュタグ企画。

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#twnovel 深夜の残業中、固まってしまったmacを再起動。失われたデータに悪態をつき、まずい珈琲を啜りながら何度となくあの起動音を聞いた日々。当時の音楽をi tunesで聴きながら、見ると本当に悲しかったあの顔を思い出す。Goodbye,Sad Mac. #ジョブズ追悼

2011-10-06 21:37:17
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 古いmacを開けてみた。あの起動音と共に現れたのは色鮮やかなあの頃。クラリスワークスで書いた詩や小説。散々やったゲーム、Jewel Box。君に書いたラブレターは古い書式でもう読めない。そして今も僕の傍にいてくれる君の、その心の奥も未だ読めない。 #ジョブズ追悼

2011-10-06 21:55:39

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#twnovel 5月、藤棚が美しい神社で僕は祈った。8月はペルセウス流星群に願いをかけた。どうすればとける? 君という魔女がかけたこのとらわれの呪文は。楽しみだった週末が、君に会えないだけでブルーになる。玉砕覚悟で告白する勇気もなく、今日も僕は、信じてもいない神に祈るんだ。

2011-10-07 12:30:51
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel「作り過ぎちゃったから皆さんで」そんな彼女の伝言つきアップルパイに男性陣は騒然。私には到底できない気配りにため息が出る。あなたもきっとそんな子が好きだよね。ふと彼を見ればその眼差しは挑むよう。すれ違いざま私の耳に囁いた。「お前もなんか作ってこいよ、但し俺限定な?」

2011-10-07 21:36:24
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 君と初めての水族館。銀のナイフのような魚の群れ、透き通ったクラゲ。イルカショーでは、はしゃぐ君の横顔ばかり見てた。水飛沫がかかって歓声を上げた拍子に、そっと指を絡ませる。いやだね、こんな知恵ばかりついて。そう、僕はそんな欲求ばかりが胸に渦巻く、不埒な大人さ。

2011-10-08 08:01:53
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 「俺が嫌いか」彼は壁を拳で殴り私に迫る。友達の想い人だと、もの分かりのいい仮面を被っていたのに。間近で見る、深い色を湛えて輝く瞳。「オブシディアンみたい」「それ何」「黒曜石のこと」「欲しいならあげようか。ふたつとも君のだ」私の両手をとるその熱さに眩暈がした。

2011-10-08 23:58:08
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 爪でビー玉を弾きながらあの人を思った。私の「好き」ばかりが重くなっていくこの恋を、終わりにしてしまおうかと考えながら。ビー玉は想いをのせて彷徨う。突然大きな手が私の手をその硝子玉ごと包んだ。「会いたかった」目が合った瞬間迷いは消えて。私はまたあなたの惑星になる。

2011-10-09 06:28:03
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 休日の朝。「ゲーム好きの伯爵が考えたメニューを所望する」彼は時々こんな回りくどい言い方をする。「はいはい。サンドイッチね」「その前に」彼は私を抱き寄せる。「その林檎飴みたいなグロス、取ってもいい?」夫婦の間柄で今さら何を恐れるの。素直に言って、キスしたいって。

2011-10-09 14:38:07
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 「ぐりとぐらのカステラ、食べたかったな」星空を眺めながら彼が言う。子供の頃読んだ本と食いしん坊が共通項のふたり。「夜に甘い物の話はやめてよ! 星がカステラのザラメに見えてきたじゃない、馬鹿!」と毒づけば「じゃあ」と言って降ってきたのは、流星ではなく、甘いキス。

2011-10-09 15:09:46
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 初めてのデート。「おはよう!」澄んだ青空をバックに、手を振り駆けてくる君の背中に翼が見えた。「どこ行くの?」そうだね、美術館行って、お洒落なレストランのテラス席で食事して。計画は十分練っていたけど。計算外のかわいい笑顔を前にして、僕はもう君を鞄に詰めて帰りたい。

2011-10-10 08:58:51
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel いつもそんな顔してればいいのに。差し入れたスコーンを子供みたいに頬張って綻ぶ、君の口元を見てる。普段はスーツで心まで武装してるけど、僕は知ってる。君の弱さも、君の苦しみも。螺鈿階段を昇るように、僕は見え隠れする君を追いかける。いつか君のすべてを抱きしめるために。

2011-10-11 19:17:45
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 出会ったのは雪柳あふれる大学の中庭。うたた寝している僕の顔に、君の持っていたプリントが春風に煽られひらりと落ちて。「ごめんね」と言った君の顔がすごく可愛かったんだ。緑の中の教会で、今日僕らは結婚する。君に封蝋のような誓いのキスを。これで君はもう僕だけのもの。

2011-10-11 22:23:33
工房径(koubou-kei) @pleaseinuplease

#twnovel 「森の散歩から帰ったら、靴の中に入ってた」彼の手のひらの上には平たい種。「何の種だか庭で一緒に育ててみない?」それがプロポーズの言葉になった。以来木はぐんぐんと屋根を越え、雲を越え。天体望遠鏡を使っても、未だに何の木かわからない。これは結婚詐欺と呼べるだろうか?

2011-10-12 18:45:34