偽りの救世主

#30MMUKN~偽りの救世主~の自分用纏め。
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

#30MMUKN幕間 「あとは…久しぶりに魚でも買いますかねえ……」 食材の買い出しに出た光里が、小さく呟きながら物色する。 目当ての魚は最近不漁らしく、妙に値上がりしていた。 「……ええ……二尾でこのお値段ですかぁ…?さすがにちょっと……」 仕方なく魚を諦めて、精肉コーナーを覗いたその時。 pic.twitter.com/7eaVPypuI0

2022-08-17 13:19:51
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「あっ」 ふと重要なことを思い出した。 【視肉】だ。あのまま放っておく手はない。 放っておけば、また誰ぞに悪用されかねない。 だが、それより何より【視肉】は (…たいそう旨いらしいですからねえ) 人妖問わず、あの肉は病み付きになるほどの旨さらしい。 それほどの肉、放っておけるわけはない。

2022-08-17 13:19:52
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

(……今夜にでも探しに行ってみますか。あれは自分では動けませんし。何より、基本は眠っているようなもの。 取り逃がすこともないでしょう) レジで会計を済ませ、店の外に出る。 まだ【視肉】は食べたことがない。 噂に聞く珍味はいかほどの味か。 楽しみにしながら歩き出す光里に、声がかかった。 pic.twitter.com/jLVV3EHL3R

2022-08-17 13:19:53
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「もし、そこの黒髪のお嬢さんや」 「あン?」 なぜか自分だと思ってしまった。 周囲に黒髪などいくらもいるのに、誰も振り返らない。 事ここに至って光里は、これが妖術の類いだと気がついた。 「まあそう警戒しなさんな。ほれ、まずは茶でも飲んでいきなされ」

2022-08-17 13:19:54
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

振り返った先には、どこにでもいそうな老婆がひとり。 が、皆その老婆がいないかのように注意を払わない。 ぶつかりそうになるとなぜかスッとかわしていくのだ。 「……誰かと思えば……」 光里が面倒くさそうにため息をついた。 この妖だけは、いつ会っても同じ姿をしていない。

2022-08-17 13:19:55
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「貴方でしたか、神野の」 そう言って老婆を見つめる光里の頬に、一筋汗が流れ落ちた。 pic.twitter.com/hm2lk5730Y

2022-08-17 13:19:57
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

#30MMUKN幕間 「それで、貴方が呼びつけるでなく、私に会いに来るとは珍しいじゃありませんか。 よほどの用事が?」 近くの喫茶店に入り、光里が少し皮肉っぽく問いかける。 眼前の老婆にかかれば自分などまだまだの存在だ。 不用意に期限を損ねるわけにもいかない。 pic.twitter.com/C5UJTYxDg8 x.com/3s0W3NFmp7ibEo…

2022-08-20 21:46:54
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「まあそう急くな。ここのケーキはなかなかでな。一つ喰ってからでもよかろうて。注文をよろしいかな?」 やってきたウェイトレスに一ページ丸々、計16種32個のケーキを頼み、老婆が光里に向き直る。 「まあ、お主も喰え。絶品じゃぞ?」 「おや、私の分も頼んでくださったので?」 老婆にしては珍しい pic.twitter.com/WfnN0sVbQx

2022-08-20 21:46:56
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「莫迦を言え、さっきのは全部ワシのじゃ。喰いたきゃ自分で注文せい」 「……んなこったろうと思いましたよ」 渋々、ひとつ選んで注文する。 ウェイトレスには『自分の分はゆっくりで良い』と伝えるのも忘れない。 ほっとした顔のウェイトレスを見送り、光里が大妖へと向き直る。

2022-08-20 21:46:57
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「んで?西国の頭領が赴く程とは? 山本の御大将の方は大丈夫なんですか?」 「いつまでも喧嘩しとらんわ。 今はそう、休養中よ。お互いにな」 お冷やを啜りながら、大妖は面白そうに光里をうかがい見る。 「お主がなあ、他のモンの心配なあ…。何じゃ、寝とる間に何かあったか?」 pic.twitter.com/t3gCOmdgLX

2022-08-20 21:47:00
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「……厳密に言えば、私は【王魔】ではありませんよ。 あれが作り出した人格です」 「とは言え、あれが舵取りを任すとはの。いやはや、長生きはしてみるもんじゃな」 ケラケラと笑う老婆に、いい加減居心地が悪くなってきた光里に気づいたのか、笑いをおさめて神野と呼ばれた老婆が居ずまいを正した。

2022-08-20 21:47:01
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「……【件(クダン)】がな、予言をしおったのよ」 「…【件】が?」 【件】……人面の牛で、予言をして吉凶を知らせる妖である。 この予言の的中率は恐ろしく高く、けして看過できるものではなかった。 「おうよ。それもかなり質の悪い凶報じゃい」 「して、何と?」 pic.twitter.com/teKSo5JFhq

2022-08-20 21:47:04
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「『太陽の御遣いを僭称せし偽りの救い手が大いなる龍と獣を喰らい、世は閉ざされる』」 「なんですかそれは……今時その辺のにわかカルトどもが救世を騙っては立ち消えてますけど、その手合いですかね?」 「そうとも限らん。 ワシがチラッと調べたところ、太陽を掲げた団体は見当たらんかった」

2022-08-20 21:47:05
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「太陽を……」 光里の脳裏に、ちらりと緑翠の少女が浮かぶ。 だが、彼女が世を閉ざすとは考えにくかった。 「とにかく、お主も気を付けよ。 無関係ではないぞ」 「私がですか?」 唐突な一言に、光里が思索を打ち切られる。 「おうよ。しばらくは身を隠すのも必要かもしれん」

2022-08-20 21:47:05
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

いつになく神妙な神野に、光里が訝しむような目を向けた。 「大いなる獣はな、無数の獣の因子をもつ大妖を指す。 つまり……」 神野がまっすぐに光里を見つめ、意を決したように口を開く。 「【王魔】こと『大妖 鵺』。 お主のことよ」 空はいつの間にか曇り、不吉な湿った風が吹き始めていた……。 pic.twitter.com/LfVZaj1XXx

2022-08-20 21:47:08
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

#30MMUKN #30MMLSA 光里が【件】の予言を聞いて後しばらく。いつもと変わらぬ日々が続いていた。 時々揉め事があったり。 時々鉄火場に立ったり。 毎日皆で笑いあったり。 平凡でも、掛け替えのない日常がそこにあった。 x.com/3s0w3nfmp7ibeo…

2022-09-04 22:14:46
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

このまま、予言が外れてくれればと願いながらも、光里は心の隅に言い知れない不安を抱えていた。 先日の事件以来、灯の動きがない。 まだ傷が癒えていないのか、この間会った時も逃げの一手だった。 そして【太陽の御使いを僭称する偽りの救世主】。 これが引っ掛かって仕方ない。

2022-09-04 22:14:47
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

何かを見落としている。 何かを知らないままで歩いている。 そんなうすら寒い不安が背筋を凍えさせる。 私は、何を見落としている? 私は、何の情報を調べきれていない? 私は、どこで…… 「……ちゃん…!お姉ちゃん!」 家族の声に、光里が思考の泥濘から引き戻される。 pic.twitter.com/IgHTnqU07K

2022-09-04 22:14:49
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「ボーッとしてどうしたの? ちょっと怖い顔してたよ?」 助手席に座るフリアが、心配そうに光里を覗き込む。 運転中に思索に耽ってしまった。 対向車も来ない長い直線だったので、事故にはならなかったが……いやはや、危なかった。 いや、待て。これは、この感じは。 「…しまった、隔離結界…!」 pic.twitter.com/J8A5EfNcNY

2022-09-04 22:14:50
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理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

内心で自らの手落ちを罵りながら、見れば、周囲の景色が薄靄に包まれている。 半径30m先はもう見えない。 車を路肩に寄せて停車する。 「お姉ちゃん、これ……!」 「フリアくんはそのまま、隠れててください」 短く指示すると、下車して光里が周囲を見回す。 すると耳に、聞こえる筈のない音が届く。

2022-09-04 22:14:51
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

(………鈴の音。浄化の応用でここいらを切り分けたか……) 術の正体を見破りながら、光里が辺りを警戒する。 間違いなくこの術は灯の仕業だ。 ならば、この鈴の音のもとに灯が? いずれにしても、迷う暇など! 光里が腕を一振りすると、その手に何枚かの符が姿を表す。

2022-09-04 22:14:52
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「火符、木符、急々如律令!」 符に念を凝らし、放とうとして、妙なことに気づく。 術の発動に必要な力は込めた筈。 しかし、符は火も風も起こさずに沈黙している。 「術封じ!小賢しい…!」 毒づいている光里の視界に妙なものが映った。旗や吹き流しを振り回しながら、何かの一団が近付いてくる!

2022-09-04 22:14:52
理心 @3s0W3NFmp7ibEo3

「フリアくん!絶対に外を見ないで!眼を閉じて、下を向いていなさい!」 「わ、わかった!」 フリアが慌てて眼を閉じ、顔を伏せたのを確認すると、光里が謎の一団に向き直り構えを取る。 「……ったく、昼間だってのに、お構いなしですか?」 pic.twitter.com/J5pQkWtPyZ

2022-09-04 22:14:54
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