稲川淳二のつぶやき怪談26 #kaidan26

まとめました。
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稲川淳二 @Junji_Inagawa

とたんに、感情のコントロールがきかなくなった。(見付かる前になんとかしなくちゃ・・・・)そっと、冷蔵庫を開けて、もれた明かりで、周りを見ると、向こうの暖炉の近くに薪が転がっていたんで、それを一本つかむと、足音を忍ばせて、階段を上がって行った。   #kaidan26

2012-01-26 22:19:48
稲川淳二 @Junji_Inagawa

二階に上がると、幅の広い廊下があって、一方がガラス戸で、黒い木々と夜の闇が見える。もう一方は、障子が閉まっていて、就寝用の小さな明かりが、ボンヤリともれている。   #kaidan26

2012-01-26 22:20:40
稲川淳二 @Junji_Inagawa

若者が、息を殺して、障子の縁に指を掛けて、静かに開けて中を覗くと、薄暗い和室の蒲団の中で、老人が眠っていた。   #kaidan26

2012-01-26 22:21:14
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(この爺さんだったのか。・・・で、どうしよう・・・)と見ていると、不意に老人の目が開いた。   #kaidan26

2012-01-26 22:21:52
稲川淳二 @Junji_Inagawa

白濁した目が若者を見据えて、「だれだ!?」と言った。そのとたん、恐怖に駆られて、思わず部屋に飛び込むと、寝ている老人の蒲団の上から馬乗りになった。手にしていた薪を振り上げると、老人の脳天めがけて、力まかせに振りおろした。   #kaidan26

2012-01-26 22:22:29
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ガツーン!」と、鈍い音がした。「ウギャ――――――!」   #kaidan26

2012-01-26 22:22:45
稲川淳二 @Junji_Inagawa

老人の断末魔の悲鳴が上がった。それが、ことさらに若者の感情を高ぶらせて、ひたすら殴り続けた。   #kaidan26

2012-01-26 22:23:00
稲川淳二 @Junji_Inagawa

もう老人はぐったりとして動かない。それが脳天を殴るたびに鈍い音を立てて、頭だけがグラグラと揺れる。手にした薪が、べっとりと鮮血に染まって、やがて若者が殴り疲れて、手を止めた。   #kaidan26

2012-01-26 22:23:23
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・・・」  血の気の失せた、真っ青な顔をして、息を切らせている。   老人は既に息絶えていた。   #kaidan26

2012-01-26 22:23:43
稲川淳二 @Junji_Inagawa

若者は、興奮がおさまると、疲れが出たのか、そのまま、その場に倒れるようにして、意識も無く眠ってしまったんですね。   #kaidan26

2012-01-26 22:24:01
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうして、どれ程の時間が経ったのか、目が覚めると、外が、うっすらとしらんで、夜が明けようとしている。   #kaidan26

2012-01-26 22:25:11
稲川淳二 @Junji_Inagawa

隣を見ると、蒲団の中で、ザックリと脳天を割られた血塗れの老人の顔があった。辺り一面に血が飛び散って、老人の枕も蒲団も真っ赤に染まっている。若者は掛蒲団を引っ張り上げて老人の顔にかぶせた。(これからどうしよう・・・)   #kaidan26

2012-01-26 22:25:41
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(追手は自分を探しているだろうし、今外に出たら見付けられてしまうかも知れない。ここは水も食料もあるし雨にも濡れずに休んでいられるし)と、死体と一緒に二、三日過ごすと、部屋にあった服に着替えて、引出しの小銭を見付けるとポケットに突っ込んで、この別荘をあとにした。 #kaidan26

2012-01-26 22:26:14
稲川淳二 @Junji_Inagawa

一方、施設の方では、若者の逃亡が世間に知れて、マスコミに目を向けられる事を恐れて、警察には通報せずに、内密のうちに若者を見付けようと、血眼で行方を追っていたんですね。そうして、四日程して街に向かう道路を、疲れきって歩いている若者を発見して掴まえた。   #kaidan26

2012-01-26 22:26:44
稲川淳二 @Junji_Inagawa

この若者は、人とうまくコミュニケーションがとれない事から、対人恐怖に陥っていて、ヒッチハイクが出来ずに、方向もわからず、フラフラと歩いているところを、見付けられたようですが、服は着替えているし、小銭も所持しているんで、問い質すと、   #kaidan26

2012-01-26 22:27:14
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「よその家に入って盗んだ」と答えたんで、これには施設側も弱ってしまった。れっきとした空き巣ですからね。あとで、この事がばれて、若者が捕まるような事にでもなって、施設が、世間の目に晒されるというのだけは、何としても避けたい。   #kaidan26

2012-01-26 22:27:41
稲川淳二 @Junji_Inagawa

窃盗といっても、家にあった、古着と、わずかな小銭だけですから、弁償で話がつくだろうし、それにもともと、盗みが目的で、家に侵入したわけではないんです。   #kaidan26

2012-01-26 22:28:07
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ですから、精神を病んでいて、社会に順応出来ない若者がした事でもあるし、先にこっちから頭を下げて、警察に出頭すれば、恐らく目こぼししてもらえるんじゃないだろうか、という事になった。   #kaidan26

2012-01-26 22:28:29
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、施設の人間が付添って警察で事の経緯を説明すると、被害届けも出ていないという事もあって、初犯でもあるし、若者の将来を考慮して、罪に問われる事も無く、口頭での注意にとどまった。これで、一件落着。あとは、若者への形だけの取調べが行われた。   #kaidan26

2012-01-26 22:29:06
稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると、この若者が、「忍び込んだ別荘で、寝ていた老人を薪で殴り殺した」と自供したもんですから、とたんにその場が色めき立った。取るに足らないような事件のはずが、殺人事件になってしまったんですから、時を移さず、警察が若者を同行して、事件現場の別荘へ直行した。   #kaidan26

2012-01-26 22:29:39
稲川淳二 @Junji_Inagawa

鍵のこじ開けられた裏口から入って、犯行のあった二階に上がると、自供どおり座敷の蒲団の中から死体が発見された。ところが、それは、既に腐敗がすすんで、白骨化しているものだった。状態からみて、死後、二ヵ月以上は、ゆうに経過している死体と思われた。   #kaidan26

2012-01-26 22:30:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

という事は、若者は白骨死体を殴っていたわけで殺人にはならない。勿論、辺りには血の一滴も飛び散っていないし、恐らく若者が、恐い恐いと思いながら夜道を必死で逃げて来て、たまたま忍び込んだ家で偶然蒲団の中の白骨死体を見付けた恐怖による、幻覚か妄想だろうと判断された。 #kaidan26

2012-01-26 22:30:55
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、当の若者は、「二階で声がするまでは、人のいる事に気付かなかったし、『誰だ!?』と言われたんで、夢中で飛びかかってしまったんだ」と言ってゆずらなかった。   #kaidan26

2012-01-26 22:31:31
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ただ、現場の状況を見る限り、若者の自供を裏付けるようなものはないし、話が信憑性に欠ける事から、調書には自供とは多少異なった内容が記載された。   #kaidan26

2012-01-26 22:31:53
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それでも、型通りの、聞込みをすると、周囲には家も無く、人の姿も無い所で、苦労したんですが、二、三の証言を得る事が出来た。   #kaidan26

2012-01-26 22:32:13
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