黒瀬珂瀾botの詩文から一文チョイスして妄想を膨らませて短文を書くみたいな謎の深夜サークルが流行るべき。あくまで深夜2時以降限定で。
2010-05-23 03:22:53じっとりと汗ばむ陽気に煤け汚れた汗が肌を這いずって不快であった。硝煙の臭い、血の臭い、苦痛の呻き声、そんなもので周囲は満たされている。不快さを押し殺し横に立つ人を見上げれば、目深に被った軍帽から覗く血色の瞳は静か静かに冷えていた。口を噤み軍帽を目深に被り直す。彼は汗すらかかない。
2010-05-23 03:33:30水音だけが反響する浴室は不思議な静寂に満ちている。濡れて張り付いた前髪を払うでもなく、浴槽に凭れかかる兄の首に手をかけた。薄い皮膚一枚隔てた血管から微かに伝わる脈拍。筋肉の殺げた首を絞め、ゆっくりとその身体を湯船に沈める。皮肉気に歪められる口元。シャワーの音は雨音によく似ていた。
2010-05-23 03:50:42満天の星空の下を二頭の奔馬が駆け抜ける。大地を蹴りつける蹄の力強さに、淡い栗毛色の髪を夜風にはためかせ馬上の女が笑う。女の湛える瞳が草原の森の緑よりも鮮やかであることを男は知っていた。エリザ、エリザベータ。笑う女の声が馬の嘶きに掻き消され聞こえない。奔馬ひとつの、ゆめのゆめ。幻。
2010-05-24 00:59:05晴天に朗々と歌声を響かせながらスカートの裾を翻し女が踊る。打ち鳴らされる手拍子と陽気な舞踏曲。ステップを踏んで右へ左へ。真夏の太陽の下で笑う女の顔は明るいのに、何故か男には女のステップを踏む足音がからからと乾いて罅割れた音を立てているように感じられた。夏空に真夏の月がぽっかりと、
2010-05-24 01:03:37明日は来る。否、永遠に来はしまい。露西亜の極寒の大地にすら短い夏は訪れるのに、凍った心臓に夏は訪れぬ。吹雪は耳を劈く金切声によく似て、容赦なく神経を精神を苛んだ。夏を待つ蝉の蛹の幾万光ろうとも、永遠に望む明日は来やしまい。たとえ明日が来ようとも、この足は故郷の土を踏めぬのだから。
2010-05-24 05:20:29「兄さん、起きて。ほら、窓の外」んー、寒ぃ、と隣の厚い胸板に頬寄せて体温を奪う俺に、口づけをひとつ。青の視線の先さらさらの金色の向こう側、窓から漏れる朝の光に六華が舞う「あ…」首にもひとつ、強くふたつ。「…白の華には、紅が。」ふわり。俺の上に散る無数の紅い華。
2010-05-29 02:22:33噛んでみようかと思った俺が体を反転させる。ネクタイピンが床に落ちた。あれは弟より俺に似合うデザインだろう。弟が少し身じろぐ。訳もなく楽しくなって、ネクタイピンも弟の耳も全部俺のものだと思った。生きている俺のものだ。かわいそうなフィッシャーさん!俺はまだ何も手放す気はないよ。
2010-05-29 04:10:46隣のフィッシャーさんが死んで、葬式の手伝いから帰った弟は疲れきっている。それでも石のついたネクタイピンを形見分けに貰ってくるあたりはしっかりしていると思った。しっかり者の弟はソファで爆睡し、俺は隣でテレビを見ている。テレビと弟の耳と、テーブルの上のネクタイピンを繰り返し見ている。
2010-05-29 04:04:54寝る前に正式入部したい RT @karan_bot みな人は遺族であれば此れの世に吾が遺すべき汝が耳を噛む 「なべて喪となる」(「朝日新聞」2009年5月16日)
2010-05-29 04:03:43喉仏に口付ける。ソファに押し倒された弟が抵抗しないのをいいことに、シャツを脱がせ鎖骨に舌を這せた。舌に骨の当たる感触。しなやかな筋肉で全身を覆われた弟の身体の中で、この部分だけがどうしようもなく無防備だった。薄い皮膚一枚、たった一枚の薄い皮膚の下に人体の中で最も折れ易い骨がある。
2010-05-30 23:15:58どうしようもないほどの無防備さに情欲をそそられ、その脆い部分に噛み付けば、弟は耳元で切な気な吐息を漏らした。情欲にまみれた弟の低く掠れた声と薄く残った鎖骨の歯形に笑い、そして、今日も粘度の高い黄金色の蜜を鎖骨の窪みに注ぐ夢をみる。何時か、君の鎖骨の窪みに蜜を注いで舐めてみたいよ。
2010-05-30 23:16:09珂瀾ちゃんの短歌に滾った結果。そして相変わらずのサークル規則破り。 RT @karan_bot: 「いつかきみの肩の窪みに黄金の蜜を注いで舐めてみたいよ」 「結晶」
2010-05-30 23:16:37ここを水底と見まごうのは、つらちらつと踊る光のせいか、水圧の如くのしかかる怠さのせいか。プルシアンブルーのシーツには情事の跡が色濃く残る。俺は兄の腕の中で、重い瞼を押し上げた。ゆらぐ視線は恐らく一晩中起きていたのだろう赤い瞳とすぐにかち合った。だが兄の口はもう何も発する事はない。
2010-05-31 03:26:46表情を変えることもない。ただ俺を慈しむ目をするだけなのだ。その目のまま、激しく俺を抱く。溺れるほど、激しく。第四帝国の夢が破れた日から、兄と俺は昼夜ずっとまぐわいを続けている。兄の輝かぬ瞳は、俺の抵抗を奪った。憐みからか、否、違うだろう、か。絹のように漂う思考は、肩に感じる兄の
2010-05-31 03:27:25感触によりふと止められた。ああ肩越しに、兄は俺と同じものをみるのだろう、壊された鳥籠。砕け散った兄の希望の亡骸は、身じろぎもせずそこに横たわる。もはや俺たちは鳥ではない。翼は粘つく水に絡み取られ、2人はわたつみとなることを余儀なくされた。誰も知らぬこの水底で、永遠にまどろむのだ。
2010-05-31 03:28:44