「ピアノマンで物語を書く」まとめ
- jemibiozoms
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カラリと傾いたグラスが鳴った。「まあでも、つまり、俺が言いたかったのは懐かしい歌が聴きたいって事なんだ。分かるだろ?」歌ってくれよと男がせがむ。分かるだろ? 気持ち良く酔えるやつをさ。ラ・ラ・ラ・ディ・ディ・ラ……。 6
2012-02-01 01:08:21小さな鼻歌は煙草臭い空気に紛れていった。オレンジ色の明かりの元、ごみごみした狭い店の中は人で溢れている。不思議な事に連れ立って来る者は少ない。皆ここで顔を合わせるだけの、それだけの繋がりなのだ。 7
2012-02-01 01:09:11孤独は人を酒に走らせる。酩酊は甘美だ。魂の安らぎだ。それでも、ひとりで酔い潰れるのはあまりにも虚しい。孤独という共通項は人をここに引き寄せる。ピアノマンの、僕の元に。 8
2012-02-01 01:09:40自称小説家も退役軍人も、疲れた会社員も老人も、孤独を持ち寄って酒を飲む。ここなら何もかもを――持ち寄った孤独すらも――忘れるに丁度いいと、そう知っているのだ。お客との駆け引きを楽しむウエイトレスの存在もある事だし。 9
2012-02-01 01:10:31男の鼻歌を拾い上げるように鍵盤を撫でる。あいにく古い歌は知らなかったから、なるべく懐かしいやつを、だ。曲が変わった事に気がついたのだろう。お客の幾人かがちらほらと、顔を上げて微笑んでいる。 10
2012-02-01 01:11:13カウンターに座った酔いどれがチップを置きながら笑って言った。「こんなところで何をしてんのさ、兄ちゃん? あんたのピアノすごくいいぜ、タダで聴くにはもったいねえくらいだ」 11
2012-02-01 01:12:03そう言いながら彼もピアノを、歌を待っているのを僕は知っている。「なあ、なんでここなんだ?」微笑み返すだけで返事はやめて置いた。もう歌が始まる。懐かしい曲だ。少し甘くて、切ない調べ。 12
2012-02-01 01:12:42鈍いオレンジ色の夜はそうやって更けていく。今日もみんな、酔えるだろうか。音に酒に、このひとときに。その間だけはきっと誰もがひとりきりで、けれど決して独りではない。 13
2012-02-01 01:13:34煙草の煙でぼんやりと滲んだあたたかな空気に、ピアノの音色と歌が響く。誰かの孤独を繋ぐ間は、僕も、僕の寂しさを、少しだけど忘れていられる。 14
2012-02-01 01:15:20よう、なんだい珍しいね、お前さん、朝帰りか一丁前に。ああ、俺か、俺はいいんだよ。なんでってそりゃ、馬鹿だね、そういうもんだからさ。納得いかない?そりゃぁいいね、いいことだよ。まあ座りな、今日は気分がいい、何から話そうか。
2012-02-01 02:51:41待て待て、座りなよって。何をそんなに急いでんだ。ああ?お前さん学生か。嫌だねー、カツカツしやがって若いモンが。ま、俺だって若いけどよ、お前さんのほうが若いわな。俺はあれだよ。ピアノマンだよ。あん、なんだいコイツ、笑っていやがる。いいね、嫌いじゃねぇよ。
2012-02-01 02:52:13だけどアレだな、もうちょっとこう、お前さんはアレだよ。ええい、うるせぇな、酔ってねぇよ、酔うのは夜だけって決めてんだ。夜のピアノはいいよ。黒いボディーが艶っぽくって。ああ?だからピアノマンだよ、しつこいね、お前さんも。
2012-02-01 02:52:53この繊細な指を見ろ、どう見てもピアノマンだろうが。そういえばあの爺さん知ってるか、ほら、あの爺さんだよ、知らねぇのか、馬鹿だね。あの爺さんはいいよ、面白いリクエストをしやがる。覚えてねぇ歌うたえって言うんだわ。弾けじゃねぇの、うたえなのよ。いいよ、最高だ。
2012-02-01 02:53:26あン、そりゃ応えるよ、当たり前だろ。あー、お前さん、ちょっとアレだね、ジョンに似てるね。まあでも、ジョンはもうちっとアレだよな、うん。分かれよ、馬鹿だね。お前さん、将来は何になんの。うへぇ、そりゃぁすげぇ、まあなんだ、物書きと不動産屋はやめときな。セーラー脱げなくなるからな。
2012-02-01 02:54:15あれ、違うわ、そりゃデイヴィか。いいんだよ、なんだ、細かいこと気にするね、お前さん、立派なアレになれねぇぞ、うちのウェイトレス見習え。だから俺はいいんだよ。うるさいね、俺だって店じゃ若いのって呼ばれてんだ。お前さん酒は飲めんのか?そうか、いいね、飲まないうちが華だよ。
2012-02-01 02:54:41お前さん、うちの店来るんじゃねぇよ。なんでってそりゃ、馬鹿だねぇ、まあいいか、がんばれよ。ンン、なんでそんなとこいんだって、そりゃアレだよ。ハハッ、馬鹿だね、こっちが訊きてぇや。 (お題:ビリージョエルのピアノマンを聞いて物語を書く)
2012-02-01 02:56:04【腮さん( @sakame_a )の作品】
※許可をいただいてツイート内容を掲載させていただきました!腮さんありがとうございます!
@sousakuTL 【ピアノマンSS】いつからか、かつて僕の前に腰かけていたピアノマンはピアノマンを辞めた。歳を取って指が思うように動かなくなったとか。けれどまだ毎週土曜に来て、ジントニックを三杯は呑んでいく。
@sousakuTL かつて彼のピアノを聴きに来ていた顔ぶれはすっかり変わって、今では新しいピアノマンが僕を奏でているけれども、老人になってもまだこの店へ来る連中もいた。「若いの、この曲を頼むよ」老いたピアノマンが差し出した楽譜を若者は受け取ると、寡黙に頷いた。
@sousakuTL 僕が彼と歌う曲を聞くみんなが呑む酒が、美味しくありますように。若いピアノマンが、黒鍵に指を置いた。【おわり】
砂の奥で弾かれた鍵盤の音はするのか ぼくは15分も前からピアノのまえに座り、この店に合う(と思う)曲を弾いている。 もちろんぼくのピアノなど誰も聴いちゃいない。 ぼくは友人のよしみで弾かせてもらって… http://t.co/bCz3jhvYyZ
2013-07-15 20:59:53「ピアノマンで物語を書く」まとめ http://t.co/FEN1VOSoOt 2000ツイート記念小説は、こちらの企画に乗らせていただきました。ツイッターを始めてからフォロワーさんのツイートをさかのぼり、やってみたいなとずっと思っていた企画です。楽しんでいただけますように。
2013-07-15 21:01:08