執事は知った。長年仕えてきた老夫婦がその莫大な遺産を、自分に遺そうとしてくれていることを。「馬鹿なことを。私も御二人と同じ日に死ぬというのに」ため息を吐きながらも、彼の表情はどこか晴れ晴れとしていた。 #366days 彼はこれからも、これまで通り仕事に励む。命尽きるその日まで。
2012-01-26 23:12:46血塗られた一族は1人、また1人と姿を消していく。長女は刺殺され、長男は失踪。次男は三男と相打ちして、次女は眠りから覚めない。最後に残ったのは、死を1年後に控えた当主だけ。 #366days 人は誰もが明日をも知れぬ日々を送る。そんな当然のことを忘れていた彼らに未来が無いのは必然。
2012-01-27 23:40:12兄弟は奸計を企てていた。混乱する世界で身寄り無き少女が1人消えたところで、誰が気にするだろうか?彼らの企みは、しかし他ならぬ少女自身が察知することで失敗に終わった。 #366days 行き場を失くした悪意は、やがて彼ら自身を蝕む。疑心暗鬼が導いた破滅的な結末に、同情の余地はない。
2012-01-28 23:53:18老夫婦は、死を見据えて準備を始めた。世話になった執事には一生困らない富を与えよう。金にしか目がない子供たちには、一銭だってくれてやるものか。残った財産は―― #366days 彼らが未来に託したのは、生きるための手立て。遺された者たちがそれを生かすのか殺すのか、今は神のみぞ知る。
2012-01-29 23:41:27博士は、ちょっと残念だなと思った。彼の頭の中は魔法のような発明のアイディアで溢れていたが、全てを形にするのに1年は短すぎた。とは言え、優先する発明の算段がつけば、心残りはもはや1つだけ。「君はどうする?」 #366days 問われた私は返事に窮してしまう。私は何がしたいのだろう?
2012-01-30 23:52:25私には生きる意味も目的もなかった。誰もが忌み嫌う私を拾ってくれた博士には感謝しているが、その博士とも、あと1年でお別れだ。誰からも必要とされないなら、何も求めず、感じないかつての私に戻るだけ。やりたいことなどありはしない。 #366days 「そうか……ならば君は、旅に出なさい」
2012-01-31 23:42:14