シージ・トゥ・ザ・スリーピング・ビューティー #1
ザイバツのマスターニンジャ、ワイルドハントは腕組みして、急ごしらえの陣営が彼の前に隊列を為すのを待ち構えた。埠頭へ次々に集まってくるのは、装甲車、屋形ジープ、オムラの逆関節ロボニンジャ=モーターヤブ改善を乗せたトレーラー……ギルドの戦闘車両だ。戦闘ヘリもある。 26
2012-02-10 00:21:39これらはマルノウチ・スゴイタカイビル包囲時の部隊の再編成、短期間のうちに、ある程度の頭数を確保した。上出来だ。それでもワイルドハントは胸騒ぎを覚えてならなかった。ダークドメインが倒されるなどという事態は全くの不測。あってはならない事だ。彼はただただ驚愕した。理解の外だ。 27
2012-02-10 00:25:42マルノウチ・スゴイタカイビルの包囲を破り、クローンヤクザを殺戮しながら逃走したニンジャスレイヤー……そして地下遺跡には、グランドマスターの無惨な爆発四散痕……ワイルドハントにとってダークドメインは恐怖の象徴、畏怖の対象だった。ザイバツの多くのニンジャ達と同様に。 28
2012-02-10 00:31:31故に彼は、速やかに追撃の手筈を整え、ニンジャスレイヤーを滅ぼすべきと考えた。だが、実際に二人目のグランドマスターを失ってさえ、キョートの反応は鈍い。曰く、ネオサイタマに展開するアマクダリ・セクトへの対抗力の低下。ただ一人の敵を大勢で追い回せば、手薄な地域を奪取されかねない。 29
2012-02-10 00:37:45マスター位階のワイルドハントが過ぎた大部隊を率いる事を不遜とする意見も多かった。ダークドメインは故イグゾーション、スローハンド派とは距離を置いていた。故に今のワイルドハントは後ろ盾を失った格好だ。(くだらぬ!)ワイルドハントはキョートとのIRCセッション中、何度も机を殴った。30
2012-02-10 00:44:59(「たかが野良ニンジャ一匹」だと……?ただ一人のニンジャがここまで掻き乱す!だから危険なのだ。奴は今後何をしてくる?)ダークドメインの死をあからさまに喜んでいるような者達もいた。自派閥の拡大……。(キョートの連中は、自分の尻に火がつくまで悠々とチャでも飲んでいるつもりか?) 31
2012-02-10 00:54:50キョートから承認が下りるまで、いったい何日が費やされた事だろう?まるで永遠めいた時間を要した。繰り返される申請と却下……迷宮的な官僚主義!ニンジャスレイヤーがアマクダリの支配地域に潜伏しておれば、こちらからはろくに動く事ができないというのに! 32
2012-02-10 01:02:19彼がゴールデンドーンを今回雇い入れたのは彼自身の独断であった。ギルドには無許可だ。明るみに出れば何らかのケジメが必要となる危険すらあった。だが危険を冒しただけの甲斐はあったと言えよう……エンキドゥはニンジャスレイヤーのアキレス腱とも言うべき協力者の所在をあぶり出したのだから。33
2012-02-10 01:06:34「ドーモ、ワイルドハント=サン」ニンジャが進み出てアイサツし、ワイルドハントの物思いを破る。ガスマスクめいた不気味なフルメンポを装備し、背中には複数のシリンダーを背負っている。モスキートだ。「今回は、そのう……まだあまり把握していないのだが……昏睡状態の白人女性を?」 34
2012-02-10 01:18:08「……」ワイルドハントはモスキートを見返した。モスキートはおずおずと繰り返した。「白人女性を……自由に?昏睡状態のところを……押し入って……?」「情報はネット送信してある。確認せよ」ワイルドハントは言った。「ナンシー・リーという女だ。このノビドメ・シェードに潜伏している」 35
2012-02-10 01:25:45「フィ…ヒ」くぐもった声を漏らし、モスキートは短く頷いた。異常者であるが仕事はこなす。贅沢は言えぬ。ワイルドハントは息を吐いた。ネオサイタマにいるザイバツ・ニンジャ全てが彼の招集に応じた訳では当然無い。対アマクダリに重点している立場の者は勿論。そうでなくとも動かぬ者は多い。 36
2012-02-10 01:31:23アンバサダー。ラオモトが没する以前からネオサイタマに潜伏していたニンジャであり、ポータル=ジツを用いて電撃戦を勝利に導いた存在。彼は動かなかった。なんらかの思惑があるのだろう。 37
2012-02-10 01:38:49アンバサダー一派が加わらなかった為、今回の作戦に彼が用いるニンジャは限られる。まず、非常な長リーチ剣「ザオ・ケン」の使い手、インペイルメント。発語はできぬが、カラテはマスター位階のニンジャを凌ぐ。そしてモスキート。加えて、元イッキ・ウチコワシの闘士、アブサーディティ……。 38
2012-02-10 01:46:20かつて彼がネオサイタマ労働者の自由と平和を獲得する為に用いて来た爆弾技術は、今やザイバツ・シャドーギルドの鉄槌だ。彼の爆弾「江戸時代」は電撃作戦の要となり、大勢の市民を殺した。革命を志した男が、ロードを頂点とする格差社会の尖兵に転向するとは、皮肉な話もあったものである。39
2012-02-10 01:52:09「……」ワイルドハントはIRC装置に手を当てた。そのアブサーディティからの通信である。「押さえたか。よし」彼は頷いた。以前にナンシー・リーとニンジャスレイヤーの逃走を助けたデッドムーンのアジトを襲撃させ、これを排除したのだ。「チョコマカとうるさい非ニンジャの屑であった事よ」 40
2012-02-10 02:07:17そのイクサの際には、デッドムーンの手引きでナンシーとともにまんまと脱出しおおせたニンジャスレイヤーの手によって、ザイバツ・ニンジャのボーツカイと、INWのズンビー・ニンジャが滅ぼされている。(思えばニンジャスレイヤーはデスナイト=サンも殺したのだったな)彼は思いを巡らせた。 41
2012-02-10 02:11:46その後キョートへ移動したニンジャスレイヤーはザイバツ・ニンジャをいったい何人殺しただろう?14人の殺害リスト事件の報せはこのネオサイタマにまで届いた。実際この場にいるインペイルメントとモスキートはあの殺害リストに記載されたニンジャであり、地理的な要因により衝突を避けた格好だ。42
2012-02-10 02:16:51(実際、ここまで奴をのうのうと生かして来たツケだ、この状況は!なんたる鈍重な官僚機構!)ワイルドハントはあらためて、ギルドの閉塞した派閥争いの体質を疎ましく思った。思えば、ネオサイタマへ戻るニンジャスレイヤーに追っ手を差し向けたのは外様のダークニンジャの発案と聞く。 43
2012-02-10 02:20:51シンカンセンの進行ルート防衛とソウカイヤ残党狩りを一手に引き受けていたザイバツ・シテンノのレッドゴリラ。ダークニンジャは部下であるレッドゴリラをそのままネオサイタマへ向かわせ、ニンジャスレイヤーにあたらせた。やんぬるかな、ニンジャスレイヤーはそれすらも破ったのだが……。 44
2012-02-10 02:26:26ワイルドハントは戦略椅子から立ち上がる。(ダークニンジャはニンジャスレイヤーの道程をいかにして予測したのか?不気味なニンジャ第六感めいた何かが?ともあれ、外様に出し抜かれた格好!情けなさの極み!だが、ここまでだ。今ここで、ザイバツの閉塞のスパイラルを食い止める。この俺が!) 45
2012-02-10 02:32:35「現在、ハッカーがナンシー・リーの潜伏地点を割り出しにかかっている。じきに詳細な座標が判明する」ワイルドハントはクローンヤクザやニンジャたちに言った。「どちらにせよニンジャスレイヤーはまっすぐにそこへ向かう筈。それを押さえれば話は早い。戦力差は圧倒的だ。叩き潰す!」46
2012-02-10 02:38:49「叩き潰す!」クローンヤクザ達が一斉に繰り返した。ワイルドハントはもう一度言った。「叩き潰す!」クローンヤクザ達が返す。「叩き潰す!」ワイルドハントは両手を上げた。「ギルドの栄光!格差社会!名誉!ガンバルゾー!」禍々しき唱和!「ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!」 47
2012-02-10 02:43:57