(どうしよう、やっぱり出ないとまずいだろうか。この場合、自分には知らせる義務があるんじゃないだろうか?他に誰もいないし、放っておくのは良心の呵責にさいなまれる。) #kaidan27
2012-02-24 22:26:39(それに、死んだ人間といるよりは、この際、生きている人と話をした方が、少しは恐怖心も薄れるだろうし・・・)と、自分を納得させて、路面に四つん這いになると、 #kaidan27
2012-02-24 22:27:06ガラスの抜け落ちたドアの窓から腕を差し入れて、呼び出し音を頼りに、床になっている天井を撫でるように、手で探っていって、続いて頭を潜り込ませた。 #kaidan27
2012-02-24 22:27:25つかむと、ヌルッとした感触があって、(うっ!?)とっさに頭を引くと、首筋にサワッと髪の毛が乗ってきたんで、慌てて車内から脱け出して、携帯電話に出ると、 #kaidan27
2012-02-24 22:28:01「もしもし」と、こっちが言うと、「あれ!? あの・・・・」と驚いた様子なんで、「すいません。この携帯の持ち主の方と、お知り合いの方でしょうか?」と尋ねると、 #kaidan27
2012-02-24 22:28:37「ええ、そうですけど、あのお宅は?」と聞かれて、「交通事故の現場に居合せた者ですが、今、救急車と警察に通報したところです」と答えると、 #kaidan27
2012-02-24 22:28:54「交通事故って・・・、彼女どうしたんですか? そこにいるんですか?」と、ひどく取り乱した様子で聞いてきたんで、思わず、「えっ!? ええ」と返事をすると、「電話出られないんですか? 代ってもらえませんか。彼女と話させて下さい」と言ってきた。 #kaidan27
2012-02-24 22:29:17これには、弱った。(仕方無い。こうなったら死者への手向けだ)と覚悟を決めると、二度と見たくはないんですが、ガラスの抜け落ちた窓から、懐中電灯を車内に向けると死体があった。 #kaidan27
2012-02-24 22:30:14逆さの顔から長い髪の毛が垂れ下がって、血に染まった耳が、むき出しになっている。震える手で死体の耳に、携帯電話を当てて、その場から少しでも距離をあけようと腕を伸ばして、視線をそらして闇を見ていると、 #kaidan27
2012-02-24 22:30:40「・・・もしもし、俺だけど・・・。ああ・・えっ・・・?」静まり返った中で、携帯電話からもれてくる男の話し声が、聞くとも無く耳に入ってきた。 #kaidan27
2012-02-24 22:31:03(ん?・・えっ!? 話してる!? 男が会話をしている)女の声は聞えないんですが、どうやら、男は相手と話をしているらしい。 #kaidan27
2012-02-24 22:31:18(まさか、そんな。死んでる人間と話が出来るはずが無い)何とも気味が悪い。背筋がゾクゾクして、妙な気持になってきた。(一体どうなってるんだろう?)どうにも気になって、思わず明かりを向けると、「―――…………っ!」 #kaidan27
2012-02-24 22:32:07何と死んでいるはずの女の目が、大きく見開いて、血の気の失せた唇が、ブルブルブルブルと小刻みに震えて、 歯が、ガチガチガチガチ・・・・ガチガチ・・・・ガチガチガチ・・・・ と鳴っている。女の歯が鳴ってる。口が動いてる! #kaidan27
2012-02-24 22:32:41やがて、闇の向こうでサイレンが鳴って、次第に大きくなってきた。(ああ、やっと来た。助かった)と思った。 #kaidan27
2012-02-24 22:33:56気が付くと携帯の声が途切れているんで、「・・・もしもし」と、震える声で呼びかけてみると、「お蔭様で話が出来ました。・・・彼女死んだんですね」と言って切れた。 #kaidan27
2012-02-24 22:34:15救急隊員が、逆さまになったブルーのミニクーパーから、死体を運び出して、担架に移しているんで、「あの、この人、つい今し方まで、生きてたみたいなんですが・・・」と言うと、「いや、死後、経過してますね」という返事が返ってきた。 #kaidan27
2012-02-24 22:34:53