医療におけるナラティブとエビデンス

斎藤清二 ‏ @SaitoSeiji 連続ツイートをしてみたいと思います。テーマは「医療者が身につける『装備』としての『エビデンス能力』と『ナラテイブ能力』」です。
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斎藤清二 @SaitoSeiji

前期日程入試験の救急医療班として待機中。この時間を利用して連続ツイートをしてみたいと思います。テーマは「医療者が身につける『装備』としての『エビデンス能力』と『ナラテイブ能力』」です。この内容は、昨日発売された拙著http://t.co/S0Ytt5vPの前書きの一部です。

2012-02-25 11:11:06
斎藤清二 @SaitoSeiji

①医療は、「不確定性」「複雑性」「偶有性」という容赦ない不条理が渦巻く、残酷で、生き延びることが奇跡とされ思われる世界である。多くの場合、医療者となって4,5年経ち、日常的な作業がある程度できるようになった頃に、このような事態に初めて気づく。

2012-02-25 11:14:53
斎藤清二 @SaitoSeiji

②このような過酷な世界で生き延びていくためには、多くの医療者は「装備」が足りない。生身の人間それ自体は弱いものであるし、患者さんのために役に立ちたいという素朴で善意に満ちた欲求だけで生き延びていけるほど、この世界は甘いものではない。

2012-02-25 11:18:04
斎藤清二 @SaitoSeiji

③生身の能力が足りなければ、何かを装備(equip)しなければならない。装備が十分であれば、強い敵にも殺されずにすむ。時にはラスボスを倒すことさえできる。しかし、装備というものは装着するにも使いこなすにもコツがいる。

2012-02-25 11:19:22
斎藤清二 @SaitoSeiji

④一般にこの「装備を適切に活かすためのコツ」のことを「スキル(技能)」と呼び、そのスキルを実践するために必要な潜在的な力を「コンピテンス(能力)」と呼ぶ。そして、コンピテンスに基づいてスキルが実践された時、具体的に手に入る成果がアウトカム(効果)である。

2012-02-25 11:21:43
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑥再び医療という情け容赦のない荒海に漕ぎだし、そこで沈没することなしに航海を続けるために必要な二つの装備としての、「エビデンス能力」と「ナラティブ能力」についての、私の理解を整理しておきたい。かなり荒削りな描写になってしまう点についてはご容赦願いたい。

2012-02-25 11:27:55
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑦「エビデンス能力」とは「医療において適切な臨床判断を行うために必要な能力」であって、別の言い方をすれば「臨床判断のプロセスにおいて、その判断の基準を与えてくれる参照枠となる外部情報を適切に利用するための能力」のことである。この能力の典型的な実現の例がEBMの実践である。

2012-02-25 11:30:23
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑧「ナラティブ能力」とは「患者と適切な対話を行う能力」であるが、詳しく言うと「患者の病いの物語を聴取し、理解し、解釈すること」ができ、「患者の物語への医療者の理解や、医療者自身の物語を適切に表現すること」ができ、それを通じて適切な医療者/患者関係に参入することができる能力である。

2012-02-25 11:35:13
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑨実際の医療現場において、二つの装備は連携して用いられる。ちょうど最強の盾と最強の槍を両方とも身に付けた戦士が、決して「矛盾」に落ち込んでしまうとは限らないように、この二つの能力は一人の医療者において互いに相補い協力しあって、有効で意味深い患者中心の医療実践に貢献する。

2012-02-25 11:38:41
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑩言葉を変えれば、最強の攻撃呪文と最良の回復呪文を両方とも唱えることのできる賢者のような存在を、医療者は担うことができるようになる。それが実現した時、そこで行われる医療はナラティブ・スキルとエビデンス・スキルの双方が矛盾することなく存分に発揮される医療となるだろう。

2012-02-25 11:42:20
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑪この「対話を通じて患者と適切な関係を結び」「その関係の中で適切に臨床判断を行いつつ行動する」能力こそ、医療者が患者とともに、この非条理で情け容赦のない「医療」という荒海を航海するために必要な二つの「装備」である。以上で連続ツイートをいったん終わります。

2012-02-25 11:51:15