ガントレット・ウィズ・フューリー #3

「助けてくれ」ブーンズ洞はチャブの奥で身をよじった。脂肪が邪魔をしてうまく動けない。ニンジャスレイヤーはアコライトを一瞥した。ボンズは己の手を見つめ、呆然としている。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び上がり、チャブの上、ブーンズ洞の目と鼻の先に着地した。「アイエエエ!」 1
2012-02-28 15:39:19
「ではまずアコライト=サンに情報を売ってもらおう。破戒僧の話だ」ニンジャスレイヤーがブーンズ洞に顔を近づけた。「アイエエ……」「知っていると確かに言ったな。私は確かに聴いた」「え、ええ、それは本当です。知っています」ブーンズ洞が呻いた。「奴は暴れまくっていたんで」 2
2012-02-28 15:39:29
「情報が入って来たと?」「そうです。ニンジャ破戒僧だ。名はイヴォーカー、名前がコードネームめいていますが、状況から言ってそのグノーケというバトルボンズで間違い無いでしょう?」「アコライト=サン!」ニンジャスレイヤーはいまだ立ち尽くすアコライトに声を発した。「それぐらいにせよ」 3
2012-02-28 15:39:38
「……ハイ」アコライトは深呼吸を繰り返し、向き直った。「取り乱しました。すみません」「……」彼を見据えるニンジャスレイヤーは、いかなる心境であろうか?アコライトがニンジャの力を見せた事は、もはや疑いの無い事実。そしてその事にアコライト自身が衝撃を受けている事も。 4
2012-02-28 15:39:46
「グノーケ……イヴォーカーは今どこに?」アコライトが問うた。「エ、エート、今、入ってきてます……情報が入ってきてますから、待ってください」ブーンズ洞は震えながら白目を剥いた。コワイ!「アー……来ました……おお、既に第九層のヤクザクランを完全に手中に収めています」彼は告げた。 5
2012-02-28 15:39:58
「なんと」アコライトは眉をひそめた。ブーンズ洞は白目を剥いたまま説明した。「アー……第九層は中層最後の層、そこから下は下層です。ゆえに九層の階層移動リフト周辺の闇マーケット関係の利権争いは激しい。それを統一……実際スゴイしハヤイ。各クランにニンジャバウンサーも少なくなかった筈」6
2012-02-28 15:45:08
「なんと」アコライトが呻いた。「利権……欲望……もはやタガを外してしまったというのか。彼とて高潔なハイ・ボンズであった筈」「……」ニンジャスレイヤーは一呼吸の沈黙ののち、言った。「ニンジャとは。そういうものだ」 「ニンジャ……ニンジャ……」 7
2012-02-28 15:54:12
「オヌシに自覚は無いようだ」尋問を不意に中断し、ニンジャスレイヤーはアコライトに言った。「だが言っておかねばならん。オヌシはニンジャだ」「な…」アコライトは目を見開く。ニンジャスレイヤーは続けた。「オヌシはニンジャだ……そして私は、ニンジャを殺す者だ」8
2012-02-28 16:01:16
アコライトがよろめいた。「私がニンジャ?なぜそんな事……そんな事に」「オヌシのあの膂力はニンジャそのもの。オヌシ自身驚いておったろう」「なぜ私がニンジャに」「理由など考える意味は無い」ニンジャスレイヤーは無感情に言った。「ニンジャとなれば、人は変わる」「……!」 9
2012-02-28 16:07:37
ニンジャスレイヤーの言葉は容赦が無かった。しかし彼自身、目の前のアコライトにいきなり襲いかかり殺すつもりは無い。彼は過去に数度……僅かな回数ではあるが……そうした選択を採った事があった。インターラプター。イッキ・ウチコワシのニンジャ。ソウカイヤに襲われていたヤモト・コキ。 10
2012-02-28 16:14:17
ニンジャを殺す意志。それは彼に宿ったナラク・ニンジャと、家族をニンジャに殺された彼自身の決意の産物だ。だが同時に彼の心には、倫理、理性の光がある。故があれば踏み止まる。彼は機械では無い。尤も、ニンジャが彼の倫理に訴えかける善性を持っていた事など、結果的に殆ど無かった。11
2012-02-28 16:49:43
「アコライト=サン」「……ハイ」まっすぐにニンジャスレイヤーを見返す。憔悴していたが、そのアトモスフィアに濁りは無い。ニンジャスレイヤーは尋ねた。「イヴォーカーをどうする。殺しに行くつもりか」「……そうなると思います」彼は苦渋めいて答えた。「ボンジャン・バトルボンズとして」12
2012-02-28 16:57:45
「ならば私も行こう」ニンジャスレイヤーは言った。「そのニンジャを野放しにはできぬ。そして、ニンジャとなったオヌシを見極める」「わかりました」アコライトは頷いた。「……宜しくお願いします」 13
2012-02-28 17:01:36
ニンジャスレイヤーは脂肪と格闘するブーンズ洞に向き直った。「話は終わっておらん」「アイエッ!」「イヴォーカーの潜伏情報の詳細はIRCで送れ。そして私の質問がまだだ」「アッハイ」ブーンズ洞は顔を歪めた。「ザイバツ・シャドーギルドの二人でございますよね」「そうだ。居場所だ」 14
2012-02-28 17:06:29
スローハンド、パーガトリー。彼らはマルノウチ抗争の参加者だ。ニンジャスレイヤーは抗争に参加した14人のザイバツ・ニンジャをリストにまとめ、うち10人を殺し終えた。残る4人のうち、インペイルメントとモスキートはネオサイタマにおり、後回しだ。しかし残る二名は特に情報が堅い。 15
2012-02-28 17:14:48
「奴らはどこにいる」「言えないのです」ブーンズ洞はガタガタと震え出した。「言い直します。知らないですし、捜す事も許されていない。彼らの詳細情報はザイバツの情報の中でも特にタブー……ギルドの物理的所在と同様に……捜すそぶりを見せただけでニューロンを焼かれ、ニンジャが……」 16
2012-02-28 17:19:55
「……」ニンジャスレイヤーはブーンズ洞を睨んだ。その恐怖には飾りや繕いが無い。ゆえに彼はこの怪物めいたブローカーの言葉を信用した。「よかろう」「アイエエエ」ブーンズ洞の巨体から力が抜け、失禁した。「オヌシは今日、我々に会わず、何も聞かなかった。そうだな」「絶対にそうです」 17
2012-02-28 17:24:59
「イヴォーカーの情報は送ったか」「送りました」「もう一度言うが、この接触は秘密にせよ」「絶対に秘密にします」「私がどんな行いをする者か、十分わかったな」爆発四散跡。「絶対にわかりました」「……」ニンジャスレイヤーは十秒間、ブーンズ洞の怯えた目を凝視した。「……ではサラバだ」 18
2012-02-28 17:32:45
ボンボンドゥドゥーン。ボドゥンブンドゥーン。ドゥドゥーンブムン、ブンムムーン。複数基の巨大ウーファーを備えた鬼瓦サウンドシステムから放たれる邪悪なボディミュージックは、フロアに立つ者の肌を波打たせる程の大音量だ。男は凶悪サウンドシステムのすぐ前に玉座を設え、くつろいでいた。 20
2012-02-28 17:41:42
男はスキンヘッドであり、鋲打ちの黒いバトルカフタンの胸をはだけて、その鍛え上げられた巨体の胸板を露わにしている。胸板と首には夜桜を飛行するウイングド・ハニワ戦士のタトゥー。首からは巨大なバイオ真珠のボンズネックレスをさげ、その目は隈が浮いて酷薄げであった。 21
2012-02-28 17:47:35
「フゥーム……」男の傍らにオイランが屈み込んだ。男は豊満な胸に挟まれた長い鉄箸を掴み取った。その箸で、用意された鉄板の上で焼かれるバッファローのステーキを取った。分厚くカットされたステーキが脂をしたたらせ、鉄板から煙が立ち上る。男は大口を開け、噛みちぎり、二口で全て食べた。22
2012-02-28 17:52:09
「サケを注げ!」別のオイランに、横柄にオチョコを差し出す。オイランは三倍サイズのオチョコへ、なみなみとサケを注いだ。七輪でしっかりと温められたホットサケである。男は一息にそれを飲むと、再度言った。「オカワリだ!」 23
2012-02-28 17:56:54
「助けてください」横一列に正座させられたヤクザの一人が言った。「ア?」男は素早く立ち上がった。そして玉座の脇の6フィートのボー(打擲棒)を手にとった。男は無言でそれをヤクザの脳天に振り下ろした。「アバーッ!」頭を砕かれ即死!「ナメんじゃねえ。俺がオヤブンだ。命令するな」 24
2012-02-28 18:01:13