うさとらお題三題つめあわせ

3/2、お題診断で引き当てたものを即興でSSにしました。
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@k_tac

@fujo4 カツカツと、リノリウムの床を小気味良く打ち付ける音が聞こえる。どこか踊るように軽快な足音は彼だ。バーナビーは上体を起こすと、手櫛で寝乱れた髪を整えた。衰えた姿は見せたくない。それが唯一、今の青年に残された意地だった。「…何だ、起きてたのか」

2012-03-02 13:44:26
@k_tac

@fujo4 どこか野暮ったい軍服に包まれた、強靭な肢体。その体がどれほどしなやかに動くのか、荒々しく吼えるのか、直接に戦った記憶は今や遠い。「起きていては不都合でも?ああ、寝込みでも襲うつもりですか。あいにくと、そこまで衰弱していませんよ」「お前ほんと可愛くねえな。…

2012-03-02 13:52:41
@k_tac

@fujo4 誰が病人なんか襲うかよ。ましてや…」何故か、男の顔が歪む。だから青年は、ひっそりと笑いながらその続きを引き取った。「ましてや、幾らでも好きに出来る捕虜なのに?」「………」ここは軍付属の病院。しかも、捕らえられた外国軍人を一時的に収容する為の、占領地特別区だった。

2012-03-02 13:56:58
@k_tac

@fujo4 「それだけ減らず口が叩けるなら上等だよ。今日こそ、何を企んでるのか吐く気になったか?」ギシ、と安っぽいベッドが軋む。気安く端に腰掛けて、顔を覗き込む男の気持ちに、思わず顔が歪みそうになる。「気安く近付かないで下さい。あなたは看守で、僕は捕虜だ。馴れ合いたくない」

2012-03-02 14:01:48
@k_tac

@fujo4 近付いてくるその気安さが何よりも嬉しい。でも、だからこそ近付かせてはいけない。彼の為に。「どうせ誰も来ねえよ。さぼらせろ。軍議っちゃあ立ちっぱなしなんだよなー。疲れるの何のって」しかし彼は笑う。その笑顔に、泣きたくなる。「馬鹿ですかあなたは。馬鹿なんですね」

2012-03-02 14:05:32
@k_tac

@fujo4 そう、誰もこの部屋には近付かない。当然だ。「僕は肺結核だと言っているでしょう。自殺したいなら感染なんて遠回しな手段を取らないで下さい。…わざとうつしたんだろう、なんて憎まれるのはごめんだ。ただでさえここは敵国なのに」彼の手が、僅かにぴくり、と震えた。

2012-03-02 14:11:50
@k_tac

@fujo4 ごまかすようにくしゃり、軍帽ごと髪をかき混ぜた拍子に、鍔が瞳をその影に隠す。「俺はお前じゃ死なねえよ。お前だって、すぐによくなる」「あなたの言葉には、何の根拠もない。…言われなければ解りませんか?」言いたくない。憎まれたくない。だけど彼を引き離さなくてはならない。

2012-03-02 14:16:38
@k_tac

@fujo4 「イエロージャップの猿臭い匂いが我慢出来ないんです。…だから、近寄るな」それが精一杯の罵倒だ。あからさまな侮蔑なら、きっと彼も怒るだろう。そして今度こそ、この部屋を訪れなくなるはずだ。だから僕は、胸の痛みなど無視してしまう事に決めていた。「―――…」沈黙が降りる。

2012-03-02 14:21:21
@k_tac

@fujo4 そして彼はふと顔を上げて、ニッ、と小さく笑った。「お前、嘘が下手だなあ」おめめが真っ赤だぜ、兎みてえだ。「バニーちゃん、お前は絶対死なせねえよ」顔が近付く。一体、この人は何を。「……………」触れるだけの口付けからは、僅かに苦い薬の味がした。

2012-03-02 14:25:54
@k_tac

@fujo4 「もうすぐ、この戦争も終わる。お前の国の勝利で」ぽつり、彼は呟いた。「だから死ぬな。死に急ぐな。…頼む、」もう誰も、死んで欲しくねえんだ。そう続けて抱き付いてきたその背中を、震える手で僕は抱き締めた。「…なあ、一目惚れって信じるか?」「…信じません」「酷えな」

2012-03-02 14:30:18
@k_tac

@fujo4 そうだ、僕は信じない。最後の戦闘で、銃さえ弾が尽きて素手で殴り合い、その姿に見とれた事も。言葉さえ交わさなかったのに、その間中、何故か心が通じ合うような気がしたのも。全てただの錯覚だ。「…あなたは、生きて」虎徹さん、どうか。祈るように呟いて、僕はただ目蓋を閉じた。

2012-03-02 14:34:25
@k_tac

軍人虎徹さんと病人バニーちゃん終了~。SSって難しいね(´;ω;)完全に修行不足でした…

2012-03-02 14:35:44
@k_tac

さて次は60代虎徹さんと抱き締めるバニーちゃんです。これ難しいなあ。また.@fujo4に流しますねー

2012-03-02 14:46:19
@k_tac

@fujo4 とうとうこの日が来た。俺は年下の上司に向かって頭を下げると、胸に押し当てていた帽子を頭の上へぽん、と乗せた。「…淋しくなりますよ、タイガーさん」「ハハ、お世辞でもありがてえや」笑いながら、部長室を見回す。ロイズさんもベンさんもいなくなって、様変わりしたその部屋を。

2012-03-02 14:54:14
@k_tac

@fujo4 斎藤さんだけは、引退しても尚顧問として、殆どラボに住み着いているらしいが。ハハ、全くあの人らしいよ、と思うと同時に、頭使う仕事なら、一生続けていられるんだな、と羨ましくも思う。―――そう、今日、俺はとうとう引退する。ひっそりと、この街からワイルドタイガーは消える。

2012-03-02 15:00:05
@k_tac

@fujo4 65歳。定年。生涯現役、と誓ったが、さすがにもう潮時だろう。ここ10年少しは、現場に出るよりも指導や育成、指揮の方が多かった。肉体そのものの衰えはどうしようもない。幾ら能力があっても、基本となる身体は普通の人間と同じだ。「まあ、つってもまだ仕事はありますからね。

2012-03-02 15:06:22
@k_tac

@fujo4 もう出動要請は来ねえけど」「司法局直属のヒーロー管理統括部顧問。素晴らしいお仕事かと」「ヒーローの在り方も変わったしな。やっぱり、バラバラにやってちゃ大規模犯罪や災害にゃ太刀打ちできねえよ」そう、やる事は変わらない。これまでも、これからも。この街を守っていく。

2012-03-02 15:10:37
@k_tac

@fujo4 長きを過ごしたアポロンメディアを出ると、正面に、相棒の姿があった。赤い派手なスポーツカー。足首までを覆うロングコート、老いて尚華やかな美貌に、抱えた両手ほどもある花束。おいおい、歳考えろよ。お前ももう初老だろ。しかも何でまた似合うんだよ。

2012-03-02 15:15:01
@k_tac

@fujo4 だけど相棒はにっこりと微笑んで、花束を持ったまま両手を広げるんだ。ああ、いけねえな。歳をとると、涙腺が脆くなっていけねえ。「お疲れ様は言いませんよ。さあ、次のステージです、僕のヒーロー」「…ひっでえなあ」ちょっとは休ませろよ。そう言いながら腕の中に納まると、

2012-03-02 15:20:02
@k_tac

@fujo4 5センチだけ上から、クッ、と笑う声が聞こえた。「休むつもりなんてないくせに、よく言う」おかげで僕も休めませんよ。だって隣を走らなければいけませんからね、相棒。続いた台詞に、ゆるゆると抱き締めてくる背中を抱き返した。さすが、お前、よく解ってんなあ。

2012-03-02 15:22:59
@k_tac

@fujo4 そうだな、何も変わらねえよ。終るんじゃない、進むんだ。走れなくとも、俺はヒーローだ。死ぬまで、この街を守っていく。「…さあ、次はどんな夢を見ようか?」呟くと、またバニーが小さく笑った。「あなたと見るなら」どんな夢でも。そうして、俺達はまた歩き始めた。

2012-03-02 15:26:57
@k_tac

60代虎徹さんと抱き締めるバニーちゃん終了!少しお休みします手が痛いww携帯だからなー

2012-03-02 15:29:32
@k_tac

さてめしったので次行きます。死神虎徹さんと彫師バニーちゃんです。引き続き.@fujo4にてお送りしますー

2012-03-02 16:18:15
@k_tac

@fujo4 図案がある。一生をかけても構わない、だけどこの世に遺して逝きたい、そんな図案が。「なあ、まだ終わらねえの?」大腿に針を入れられているというのに、のんびりとした声で男が呟いた。「あなたそれ何度目ですか。この10年間、毎日毎日」「…10年かあー…そんなに経ったっけ?」

2012-03-02 16:23:12
@k_tac

@fujo4 「今日でちょうど10年ですよ、確か」「…お前も執念だねえ」溜息をつく彼に、僕は少し笑った。「あなたこそ。いい加減諦めたらどうです?」「バカかお前。死神の仕事ってのは、諦めるとかそういうんじゃねえの!」死神。無防備に僕の前に全裸を晒して、横たわるこの男は死神だ。

2012-03-02 16:27:29