重信先生のデータ講座『抽出(ピックアップ)ってなんだ』

今宵も天才データマン重信康(@k_shigenobu)先生のデータ講座の幕が上がります。今回の御題は「見せるべきポイントの抽出」例に取るのは、TRPGとも関連深いあのゲームです。
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重信康(公開用) @k_shigenobu

ヨビさんが誕生日プレゼントとしてBBTのシナリオを作ってくれるという……なんて男前……! お返しの意味も込めてデータ講座の三夜目、いってみたいと思います(例によって長いです)。

2012-03-08 22:03:42
重信康(公開用) @k_shigenobu

さて、今回のキーワードは「抽出(ピックアップ)」。前回はプラモを例に出しましたが、今度参考に挙げるのはトレーディングカードゲーム(TCG)です。ほんと、学ぶべき分野は無数にありますね。

2012-03-08 22:06:04
重信康(公開用) @k_shigenobu

そもそも、ここ十数年以上のTRPGの発展は、TCGの影響抜きには語れません。セットアップ/イニシアチブ/メイン/クリンナップのプロセス進行や、「対象の判定直後に使用」「自身のダメージロール直前に使用」といった、宣言タイミングや対象を明確に定義して処理する手法などなど。

2012-03-08 22:07:43
重信康(公開用) @k_shigenobu

そうしたフィードバックにはお気付きの方も少なくないでしょう。ですが、実はTRPGに与えた(自分たち作り手が受けた)影響はそれだけにとどまらないのです

2012-03-08 22:09:58
重信康(公開用) @k_shigenobu

TCGというジャンルにおいて、大いに研鑽され積み重ねられてきたノウハウがあります。それはカードという限られたスペースの中で、純ゲーム的(数値的)な効果と、そのカードが持つテクスチャや背景のイメージを、両立させてユーザーに伝達するテクニックです。

2012-03-08 22:12:27
重信康(公開用) @k_shigenobu

まず、ほとんどのカードは、無味乾燥な数字と効果の羅列ではなく、表現すべきそれ以上のイメージを持っています。『マジック:ザ・ギャザリング』の時点でD&Dばりに広大な背景世界やバックグラウンドストーリーが存在しましたし、「原作もの」のTCGなら言わずもがなです。

2012-03-08 22:14:58
ひなた @siratamahinata

@k_shigenobu なるほど、RPGマガジンがTCG関連に乗っ取られた時は、お恥ずかしながら敵対視していましたが、カードから生み出される創造性というのは確かにそうですよね。 そしてそれは今のTRPGに脈々と生きていると考えると、当時の私は視野が狭かった。

2012-03-08 22:16:41
重信康(公開用) @k_shigenobu

では、イラストやフレーバーテキストで直接的に表現するだけでなく、厳格なプロセス進行と数字のやりとりに終始するプレイ風景の中で、モンスターたちの決闘や、魔術師の魔法合戦や、おなじみのヒーローヒロインの活躍を、背景ごとさも存在するかのように実感させるにはどうすればいいのか?

2012-03-08 22:17:38
重信康(公開用) @k_shigenobu

@siratamahinata 両方の業界に関わっておられる方々も少なからずいますしね。相互に高めあった関係だと思います。

2012-03-08 22:19:08
重信康(公開用) @k_shigenobu

そこで発達したのが「何を書くとそう見えるか」のノウハウです。高速で飛行し火を吐くドラゴンをカード化する時、ただ攻撃力が高いだけでなく「攻撃を妨害されない能力」や「追加コストを支払うと任意の対象にダメージを与える能力」を持たせれば、飛行やブレスの情景が見えてくるのです。

2012-03-08 22:20:18
遠藤卓司@東京 @takujiendo

重信康先生( @k_shigenobu )の特技データ作成講座、やってるよー。皆読むと良いと思います。

2012-03-08 22:20:54
重信康(公開用) @k_shigenobu

ここでのポイントは「これはブレスを表わしています」などとはあえて説明してないことです(スペースや可読性の問題上、書きにくいという事情もおそらくありますが)。それにより「あ、この効果はブレスなんだ、ドラゴンだからか」と気付く快感、情報が連結する段階的な快感もまた発生するのです。

2012-03-08 22:22:53
重信康(公開用) @k_shigenobu

(補足:もちろん、イラストに描いて強調したり、効果それぞれに《滅びのファイヤーブレス》などの名称を設定する、ブレス攻撃を別の専用カードに分割するなど、より直接的にイメージを喚起する手法も発展しました)

2012-03-08 22:25:06
重信康(公開用) @k_shigenobu

これが原作付き作品になると、よりテクニカルな、より愉快なアイデアが生まれます。『ガンダムウォー』(現在は二版にあたるネグザが展開中)という同シリーズ総出演の名作TCGを例に挙げます(なんだか先日からガンダムが続きますが、たまたま例に適していただけで他意はありません)

2012-03-08 22:26:35
重信康(公開用) @k_shigenobu

原作のひとつ『0083』にガトーというキャラクターがいます。物語の冒頭で試作ガンダムを強奪し、それを追う主人公と激戦を繰り広げるベテランパイロットにしてライバルです。さて、このキャラクターをカードの効果として落とし込む時に、果たしてどうやったか。

2012-03-08 22:28:29
요비+ヨビ @yobi3

@k_shigenobu MTGをやっていた自分としてはすごい納得のいく説明です。なるほどな…

2012-03-08 22:28:37
重信康(公開用) @k_shigenobu

それは「名称に“ガンダム”という文字を含む相手プレイヤーのカードを奪って自分の戦力にする」というとんでもないものでした。これにより原作を知らないユーザーが使っても、ガトーはちゃんと強いガンダムを奪って敵のパイロットと激戦を繰り広げるのです“そう明記せずとも”!

2012-03-08 22:30:14
重信康(公開用) @k_shigenobu

余談ですがおかげで「このデビルガンダムはもらっていく!」などの凄まじい絵面がしばしば展開します。

2012-03-08 22:32:42
重信康(公開用) @k_shigenobu

これが優れているのは、ただ数値的に強いなどではなく「ガンダムを奪うとガトーに見える」という「表現すべきポイントの抽出」です。逆に言うと、カードの名称やイラストがそうであるというだけでは、決定的なところで原作キャラクターという「特定のイメージ」には「見えない」のです。

2012-03-08 22:33:09
重信康(公開用) @k_shigenobu

名作と言われるTCGは大抵、ルールやバランスだけでなくこうしたピックアップが抜群に上手いです。強いカードに人気が集まるのはもちろんですが、「面白いカード」「イメージを的確に表現したカード」にもユーザーはやはり反応したのです。先述のように人は連関性そのものに快感を見出しますしね。

2012-03-08 22:35:28
요비+ヨビ @yobi3

なるほど…これはすごい…>表現すべきポイントの抽出

2012-03-08 22:35:45
重信康(公開用) @k_shigenobu

そしてこれは「どんなデータがあるとエルフに見えるのか」「何をすると宇宙船で戦っているように見えるのか」「いかにして物理攻撃と魔法攻撃、弓矢と銃器を差別化するのか」などのテクニックに応用可能です。自分の手法の根幹にある思考法といって過言ではありません。

2012-03-08 22:37:48
重信康(公開用) @k_shigenobu

特技やアイテムを「種別:」でくくり、それぞれに限定した効果を用意するなどは常套手段ですね。「種別:魔法」の特技だけを打ち消す効果の存在は、魔法の魔法らしさを相対的に高めます。ただしこうした限定は加減を間違うと、ただ煩雑で不自由なだけにもなりかねないので要注意です。

2012-03-08 22:40:13
重信康(公開用) @k_shigenobu

たとえば『天下繚乱』のアストロノーツ「敵目標に密着して至近距離から弾を連続で撃ち込む」という動きを真っ先にピックアップしています。これは『スターウォーズ』のクライマックスしかり、シューティングゲームしかり、「印象に残る宇宙戦闘機のかっこいい動き」としてのピックアップです。

2012-03-08 22:45:12
重信康(公開用) @k_shigenobu

あ、ちなみにアストロノーツは田中天先生執筆の大傑作リプレイ『天下繚乱ギャラクシー』(http://t.co/AmVZXuMR)に掲載されております(宣伝)

2012-03-08 22:46:58