四の舟&おろし丸&雨響によるスケッチブックラリー小説 『ねぎくがの卒業式』

四の舟とおろし丸、そして雨響さんによる初のラリー小説。根岸君と空閑さんの卒業式。
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四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko ついに俺は卒業式を迎え、高校生活に幕を下ろした。卒業という、不思議なふわふわとした感覚に戸惑いながら受けとった卒業証書には、俺の名前と「お疲れ様」の文字が浮かんでいるように見えた。卒業生が皆帰っていく中、俺はまだ教室にいる。そろそろ木陰が戻ってくるんだ。

2012-03-13 23:18:26
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「思い出の場所で待ってる」 彼女が俺にそう言ったのは、卒業式の10日前の事だった。彼女はそれしか言わなかったが、彼女の言わんとしていた事は俺には分かっていた。俺と彼女が初めて出会った、あの教室が全ての始まりの場所だった。

2012-03-13 23:20:33
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko こつり、夕陽の差す教室に足を踏み入れる。光は橙と黄と青とそれぞれの色を反射させて、教室を照らし出す。微かに舞う埃がきらきらと光っていた。そうして教室のちょうど陰になった所が雲の切れ間から出た夕陽にそい端の机にその姿が浮かび上がった。

2012-03-13 23:30:31
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou そうだ。この位置だったか。俺が木陰を初めて見た場所は。三年前の入学したての頃。かねてから興味のあった美術部の門を叩いて潜り込んだ俺は、ささやかな新入生歓迎会に参加していた。俺のいるこの席の、ちょうど右斜めの席に彼女―空閑木陰の姿があった。

2012-03-13 23:36:24
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 初めて交わした彼女との会話は、もう覚えていない。ただそれでも妙に印象に残る彼女だった。何を見ているのか分からない目で、彼女は何を見ていたのだろうか。彼女は一体何を考えていたのだろうか?――それがまさか、自分だったなんて、それに気づくのはちょっと遅かった。

2012-03-13 23:38:10
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko 「きたのね?」そしてその瞳が今まさに、俺の元へと向けられる。微かだが柔らかく弧を描いたのがわかった。最初はずっと無表情だと思っていた彼女が、本当はこうして様々な表情をすることを知ったのも知り合ってから大分たった後だった。随分勿体無いことをしていたと思う。

2012-03-13 23:45:26
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 美術部で過ごすうちに、俺と木陰は自然と惹かれあっていったと思う。俺たちは絵を描く時、近くにいるようになった。次第に昼を一緒に食べるようになり、気がつけば帰り道はいつも一緒だった。同じ時間、同じ空間を共有し合ううちに、俺たちは自然と恋に落ちたのだ。

2012-03-13 23:51:11
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE だが、それはいつまでも続くものなんかじゃない。俺は今日、この学校を卒業する。この校舎から出てしまえば、俺はもうこの学校の生徒じゃなくなるのだ。――その事実が、無性に寂しくて悔しかった。 「根岸ちゃん。」俺は今、どんな顔をしているのだろう。

2012-03-13 23:53:04
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko 「……おう」俺は何を言い出すべきか、ぐるぐると考えが纏まらないままやっとのこと出てきた言葉はそんな短い返事だけで。二人きりになど今まで何度もなったくせに今更になって何とも言えない気持ちになりながら彼女を見る。制服スカートの紺が橙色に染まりながら一つ翻った

2012-03-14 00:04:22
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 「どうしたの?根岸ちゃん」 「…いや、なんかこうさ。美術室で二人っきりになると、お前に告白した時のことを思い出すんだ」 「…あの時の根岸ちゃん、夕日の中でも顔が赤くなってるのがわかったわね」 「今でも、あの時くらいに緊張した時はなかったな…」

2012-03-14 00:09:41
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 何か言葉を紡ごうと口を開いても、ただ口の中が乾いていくだけだ。ただ二人でいるだけの時間は刻々と過ぎて行く。「……根岸ちゃん。」そんな俺を見かねたのか、優しく彼女が俺に話しかける。「…ありがとう、私を好きでいてくれて。」

2012-03-14 00:11:31
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko 柔らかに紡がれた言葉にすぐに返答できなかったのは仕方がないと思いたい。「~~んなの当たり前、だろうが。別に改めて感謝されるまでもねぇよ」口ではそう言っているが照れ隠しに無意識の内にそっぽを向いてしまった顔は彼女にはやはりお見通し、なのだろうか。

2012-03-14 00:19:01
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 「お、俺も、お前が俺の事好きでいてくれて嬉しかったぞ…」 「…根岸ちゃん、少し照れてる?」 「ま、まぁな…」 美術部で二人きりでいると、いろいろな想いが頭をめぐる。その時気がついた。そうだ。明日からは、俺たちがここにいることはないのだ、と。

2012-03-14 00:23:15
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 自分の中で、何かが渦巻く。どろどろして吐き出さないでいると苦しくなる、そんな何かが。「……木陰。」一歩だけ、彼女に近づく。彼女はじっと、こちらを見つめていた。「……今だけ、意地張らないでいていいか?」

2012-03-14 00:26:58
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko 「だめ、っていうかと思った?」悪戯めいたその言の葉は、どこか包み込むかのようにひどく優しい。「いいのよ、根岸ちゃんの好きにして」そういって笑う彼女が愛しくて、伸びた手を彼女の肩に回し抱きしめるのにそう時間はいらなかった。小さな体のぬくもりに、すがりつく。

2012-03-14 00:37:06
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 木陰の体を強く抱きしめる。木陰の温もりが腕の中に広がる。その温もりが、遠くへ行ってしまうような錯覚に襲われていたが、抱きしめているとそんなことがないように思えてくる。「さみしくなるな…」 「なにが?」 「ここでお前と、会えなくなるのが」

2012-03-14 00:42:29
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「……言わないで、根岸ちゃん」心なしか、彼女の身体が震えているようだった。いや、震えていたのは自分の方かもしれない。ただ、彼女の温もりが恐ろしくなるほどに心地よかった。

2012-03-14 00:46:23
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko 温もりが俺の心の奥底まで伝わる「……本当、色々、あったよな」温もりが確かに俺の力になる「昼飯食ったり、出掛けたり、からかわれたり、絵ぇかいたり」それは今までがあったからこそで、そうして「だからよ」この温もりを離してしまわぬように、繋ぎ留めていられるように

2012-03-14 00:56:29
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 「…楽しかったわね」 「本当に」 「…根岸ちゃん、こう考えてみるのはどう?」 「…?」 「これからは、高校生として会えることはできないわ。そ」 「ああ」 「でもね、これからは高校生ではできなかった、新しいお付き合いができるかもしれないわよ?」

2012-03-14 01:10:01
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「……木陰。」ふ、と腕の力が抜けて行く。密着していた身体と身体の間に若干の余裕ができた。「根岸ちゃん、いっぱい、色んなものを見よう。」「木陰」「いっぱい、いっぱい色んなものを根岸ちゃんと一緒に見たいの。貴方とじゃなきゃ…いや。」

2012-03-14 01:13:22
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko ああ、いつだって。その言葉にどれだけ心満たされ、どれだけ力を貰っただろう。「……んなの、俺もおんなじだよ」自然と顔が綻ぶのがわかった。「俺もお前と一緒にいたい、木陰」お前と一緒に、たくさんの『これから』を過ごしたい。

2012-03-14 01:21:48
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 「根岸ちゃんそろそろ、帰らないと…」 「そうだな」 抱きしめる腕をやさしく離す。そうだ。これからなんだ。木陰との恋は、まだ終わっていない。これからがはじまりなんだ。「帰るか」 そうして俺と木陰は手を繋いだ。これからを目指して、俺たちは歩くのだ。

2012-03-14 01:26:12
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 満開とまではいかないが、桜が咲いていた。そよそよと吹く風が、桜の花びらを宙に舞わせていく。「……根岸ちゃん。綺麗」「……そだな。」ぼんやりと、彼女の言葉に相槌を打った。「……大地ちゃん。」彼女はそう言うと、恥じらうように俯いた。

2012-03-14 01:29:34
雨響 @rainsecho7ukyou

@oroshiwanko 瞬間ぼやけていた思考が真っ白になる。目を見開いて彼女を向くと珍しくほんのりと顔を朱に染めていた。その薄らに赤い鼻の上に桜の花弁が舞い落ちる。「……木陰」その花弁を手に取ってそのまま頬に手を添える。彼女の瞳の中に俺が映った。

2012-03-14 01:40:44
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@rainsecho7ukyou 花弁を木陰の髪に優しく添える。「なにしてるの?」前髪に花弁をのせた木陰が俺を見つめる。「ああ、俺達の『これから』を探すための、最初のプレゼントさ」 「…大地ちゃん」 「なんだ?」 「…キザ」 「俺はこういう奴なのさ」 「……好き」 「……好き」

2012-03-14 01:46:36