VOCALOIDキーボードとフォルマント兄弟のアプローチの違い

約10年前から「フォルマント兄弟」でキーボードによる人工音声演奏を実践してきた佐近田展康さんが、VOCALOIDキーボードとフォルマント兄弟のアプローチの違いを解説。
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佐近田展康 @sakotsubu

おとといからVOCALOIDキーボードの話題沸騰で、ついでにフォルマント兄弟のことも思い出してもらって嬉し。ボカロファンの勢いならこのインターフェイスを猛特訓し、超絶技巧で「歌ってみた/喋ってみた」人が出て来る日も近いだろう。それは楽しみなことだ。

2012-03-23 19:19:28
佐近田展康 @sakotsubu

ただ、フォルマント兄弟の場合は、人工音声で歌わせるといっても、新しいインターフェイス・デバイスを考案する方向ではなく、すでに存在している文化的な「身体」に注目して来た。この点について少しメモっておこう。

2012-03-23 19:19:36
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)平成21年総務省全国消費実態調査によれば、2人以上世帯でのピアノの普及率は約25%だそうだ。スゴイ!極東の小さな島国に高価な西洋クラシックの楽器がこんなにも普及している。もちろんこんな国は他所にはない。

2012-03-23 19:19:49
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)その結果、おそろしく複雑な難曲であっても楽譜にさえ書かれていればそれを読めて、10本の指をバラバラに動かし、ピアノで演奏できる「訓練された身体」がすでに何百万(もっとかな?)もこの国に存在しているという事実。戦後日本が作り上げた特殊な文化的身体だ。

2012-03-23 19:19:59
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)10年ほど前、僕らフォルマント兄弟が「人工音声をリアルタイムに演奏しよう」と考えたとき、発声合成エンジンのソフトウェア開発と格闘する一方で、この「訓練された身体」を前提に、鍵盤と発声を対応させる「規格」を念入りに考えた。声を譜面に書けて、誰でもそれを練習できる規格。

2012-03-23 19:20:21
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)こうして出来上がった「兄弟式日本語鍵盤音素変換標準規格」では、濁音や二重母音を含め1オクターブの中で日本語のすべての音素が表現できて、左手だけでコトバが指定できる。もちろん和音の転回形にも対応するので奏者は弾きやすいフォームが選べる。

2012-03-23 19:20:27
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)右手はピッチ(抑揚)や音量をコントロールするのだが、鍵盤の半音単位では大雑把すぎることがすぐに分かる。そこで「和音平均化アルゴリズム」を考案し、ピッチベンドホイールなど触らずに半音以下の微分音程も表現できるようにした。

2012-03-23 19:20:54
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)さらに声の表情を豊かにするため「声帯緊張度」パラメータや民謡や演歌のコブシを表現する「はるみモジュレータ」なども追加して行った。

2012-03-23 19:21:10
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)結局このシステムの利点は、音楽じゃなく「発声」そのものを伝統的な意味で「記譜」でき「作曲」できること。じっさいフォルマント兄弟は、都々逸や民謡の「歌唱を作曲」し、記譜し、ピアニストの岡野勇仁さん@pianoyaに演奏してもらって来た。

2012-03-23 19:21:44
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)とはいえ、楽譜や楽器を経由しないで、まったく独自のインターフェイスを開発し、徹底的に訓練して「身体化」してしまう方向性も、もちろん興味深いと思っている。ボカロファンの情熱をもってすれば、超絶技巧の名人がおのずと現れて、さらに競争が起こって、きっと現実になるだろう…と思う。

2012-03-23 19:22:08
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)そういった名人が何人も生まれて、ニコ動で絶大な賞賛を浴びて、その先何が起こるのだろうか?バンドメンバーにギターやベースがいるのが当たり前のように、VOCALOIDキーボード奏者がボーカルを担当するような現象が一般化するのかな?

2012-03-23 19:22:38
佐近田展康 @sakotsubu

(承前)あくまでぼくの想像の範囲なんだけど、そうならないように思える。最大のネックになるのがキャラクターの「声」とキーボード奏者の「顔」との関係じゃないかな。

2012-03-23 19:24:39

以下、フォルマント兄弟の人工音声演奏。