「気鋭の労務専門弁護士」は矛盾だらけ?「労働者のニーズにもあわなくなった労働法」の突っ込みどころ(by NPO法人POSSE事務局長・川村遼平)
- magazine_posse
- 8742
- 0
- 25
- 15
(1)【労働者のニーズにもあわなくなった労働法】 http://t.co/iMDJrfxM 『社長は労働法をこう使え!』を出版した向井蘭弁護士が労働法について解説しています。主として論理的な矛盾を、時に事実認識として気になる点を自分なりに指摘していきます。全22ツイート。
2012-03-15 20:04:47(2)まずは、タイトルとリード文について。「「経営者のための」ポイント」(リード文)を解説するこの文章が「労働者のニーズにも合わなくなっている」ことを引き合いに出しながら労働法を批判する点に注目です。この時点で方向性は正直に示されています。
2012-03-15 20:05:04(3)本文は、労働者は弱いから契約自由の原則を修正する労働法が必要というお決まりの話から始まります。「憧れの先生のもとで働けるなら時給100円でもかまわない」という漫画アシスタントの例はそぐわない気がしますが、そこは枝葉。本題は、その前提が変わったという主張の混乱にあります。
2012-03-15 20:05:12(4)「労働者はかなり自由に職業を選択できるようになっています。」「意にそわない職に就いたとしても、すぐに辞めることができる」、「過酷な労働をしいられて泣き寝入りせざるを得ないという人はほとんどいない」。これは端的に事実誤認と言ってよいでしょう。
2012-03-15 20:05:18(5)「監獄のような工場に閉じ込められて脱出できないという労働者はまずいません」。確かに、過労死で亡くなった方の多くは密室に閉じ込められているわけではありません。熊沢誠さんが説明したように、それはより深刻な事態と言えるでしょう。なお、(5)が変なのは(4)のせいです。
2012-03-15 20:05:28(6)こうして示された「事実」に基づいて、「こうした現代の社会状況を考えると、一概に「労働者は弱者である」とは言えないのではないか、と思わざるを得ません。」と結論づけられます。戦前と比べて強くなったじゃないか、というロジックでここまで押し切りました。
2012-03-15 20:05:36(7)次に、労働力の需給次第で労働者の方が強いという、契約の自由の修正とは無関係な例が示されます。「人手が足りなくなってしまった使用者は賃金を上げざるを得ないでしょう。こうして老人ホームの賃金はどんどん上が」る、と。介護労働者の低賃金が問題になっているという事実は措きます。
2012-03-15 20:05:43(8)仮に賃金が上がると認めるとしても。彼が「契約自由の原則」を歪める労働法の根拠を揺るがすために持ちだしてくるその根拠(賃金上昇)は、「契約自由の原則」の運動の帰結に他なりません。「Aが機能して困るからAを修正するのは止めましょう」は論理的に破綻しています。
2012-03-15 20:05:49(9)「労働者のご機嫌をとらなくてはならない使用者にしてみれば、自分のほうが上の立場にあるとはなかなか思えない」。立場の低さを嘆くことは使用者の立場の低さの根拠になりませんし、そもそも上の立場だと思えてはいけないから労働法で修正、というのが彼の展開した説明だったはずです。
2012-03-15 20:05:55(10)「比較的楽な仕事は人気があり、安い給料でも働きたいという人はたくさんいます。美容師やネイリストなど、若者に人気のある職業の労働条件も決してよくはない」。これは例に出たアシスタントのケースと同系なので修正の根拠と説明すべきなのですが、特に展開されず放置されます。
2012-03-15 20:06:02(11)「要するに労使の力関係は、……業種ごとに大きく変わってくるのです。工場労働者の保護を目的とした労働基準法で、すべての業種、職種を規制するのは難しいと言わざるを得ません」。低賃金産業として例示したアシスタントも美容師もネイリストも第三次産業なのですが、ここでも看過されます。
2012-03-15 20:06:09(12)ここから、「労働者のほうも、労働法が100%適用されることを望んでいるわけではありません」という話に移ります。経営者のための解説なので以降は傍論のはずですが、であるからこそ、「労働者のためにもなる」と経営者が心地よく読める仕上がりにする必要があります。
2012-03-15 20:06:15(13) 「「生活残業」という言葉があるように、……労働者にとっては、残業して得られる残業代もすでに生活費用の一部になっている」。これは労働法の問題ではなくその機能不全の問題でしょう。残業代を生活費に組み込まねばならないような賃金設定がなされており、法の趣旨に反するからです。
2012-03-15 20:06:22(14)「団体交渉の場で残業する権利を主張する労働組合もあるほどです」。ここが、彼の文章の中で最も検討を要すべきところかと。とはいえ、そもそも現行法で労働時間が物理的に規制されているかのような誤解を招く発言に問題があります。日々の業務で三六協定交わすように助言してると思いますし。
2012-03-15 20:06:32(15)「労働法は労働者の保護を目的としている法律にもかかわらず、肝心の労働者のニーズからもずれつつあるわけです。」労働者の保護と労働者のニーズはずれて当然。彼が説明した通り、「死にたくないから安く働きたい」という労働者のニーズを修正するのが労働法なのですから。
2012-03-15 20:06:39(16)「とくにホワイトカラーと呼ばれる職種はブルーカラー(工場労働者)とは異なり、個々のペースで仕事を進め、その成果が評価されるべき仕事です」。個々のペースで仕事を進められる職種とはホワイトカラーの中でもごく限られたものでしょう。また、「べき」とする論拠はありません。
2012-03-15 20:07:03(17)「深夜まで残業しているけれどもまったく結果を出せない人と、会社にいる時間は短いけれども確実に成果を上げる人がいたら、後者のほうが高い評価を得られるのは当然でしょう」。会社にいる時間が短いのに高く評価されている人なんて、更にごく少数でしょう。
2012-03-15 20:07:10(18)彼はこの「事実」をもってホワイトカラー・エグゼンプションの論拠とするのですが、無駄に残業していると会社が認定する人を帰らせることも、短い時間で高いパフォーマンスを挙げる人に高い報酬を支払うことも、労働法は全く規制していません。したがって法改正の必要性の論拠にはなりません。
2012-03-15 20:07:17(19)ホワエグは「労働者を敵にまわしてまで」と彼が認める通り成立しませんでしたが、事ここに至って、「労働者のニーズにもあわなくなった労働法」というタイトルを自ら放棄してしまいます。今さらホワエグの話を入れなければ使用者も心地よく読み終えられたと思うと、残念でなりません。
2012-03-15 20:07:25(20)括りは、「その結果、「労働者の立場は弱い」という労働法の画一的な考え方が、未だに適用されている」。ホワエグ導入が断念されたこととは因果関係にないでしょう。にもかかわらず結論にこの一文が挿入されることで、やはりここが主敵だと確認できます。結局、労働者のニーズはネタなんです。
2012-03-15 20:07:31(21)思うに、この手の議論が迷走する原因は、労働基準法が「最低限度の基準」を示したものにすぎないという点にあるように思います。本当に彼の言うように「労働者が弱くない」のであれば、劣悪な契約を最低限度の基準へ修正する労基法は、そもそも問題にならない(批判する必要がない)からです。
2012-03-15 20:08:22(終)今回は「こう使え!」という話は一切出ていませんが、連載なので今後出てくるのでしょう。この方が出版した『社長は労働法をこう使え!』もチェックする必要がありそうです。長々すみませんでした。 / 向井蘭『社長は労働法をこう使え!』 http://t.co/8DooCFUJ
2012-03-15 20:08:51