#366days　３月まとめ

相応恣意 @aioushii

最初に気づいたのは博士だった。“それ”に予言を願う者の中には自らの死期を問う者も少なくない。しかしいつからかその答えを望んだ2人に1人は、共通のある日に死ぬと予言されるようになったのだ。 #366days これを全人類で試せばどうなる？折しもその時博士にはそれを試す手段があった。

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人々は気付き始めていた。なんの根拠もないまま漠然と実感していた運命の日。しかし死を予言された人たちが現実に絶望して自殺を試みても、その悉くが失敗しているのを見れば、ただの偶然とは片付けられない。 #366days 直接証拠はまだない。それでも状況証拠の積み重ねで見える真実もある。

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母親は初めての――彼女にとって最期となる雛祭りの飾りつけをした。無邪気に笑う娘はまだ言葉を話せず、その行く末は分からない。だから彼女は決めた。雛人形は後で流してしまおうと。娘に降りかかる災厄全てを流すために。 #366days 母の願いは届くのか。未来は蓋を開けるまで分からない。

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考古学者は興奮していた。彼女が長年追っていた不自然な歴史の空白。その謎の答えが、今、目の前にある。もし人類の半数が死滅すれば、歴史の空白も必然。あとはそれを証明するだけ！ #366days 気づくことと、そこから有効な手立てを見つけることは別問題。それに彼女が気づくまでもう暫し。

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中二病患者は不敵に笑った。世界は予言に惑わされ、混乱の坩堝に迷い込んでいる。いよいよ俺が動く時が来たようだ。さあ、俺の中に眠りし真の力よ、今こそ目覚め給え！ #366days 待ってるだけで問題が解決するなら誰も苦労しない。そんな容易なことにさえ気づけないなら、彼は誰も救えない。

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姑は憤っていた。私の可愛い息子は死んでしまうのに、あの小賢しい嫁が生き残るなんてどういうことなのよ！自分勝手に募らせた怒りは嫁いびりとなって発散される。しかし姑は気づかない。嫁の目に宿る昏い焔に。 #366days 人を呪わば穴二つ。理不尽な行動に待ち受けるのはきっと相応の報い。

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嫁はじっと耐え忍んでいた。姑の仕打ちに今抗ったところで、無益な負の連鎖が続くだけ。だから今は耐えよう。どうしても耐えられなくなったら、一思いに殺してやればいいだけの話なんだから。 #366days 文句を言えなければ恨みたくても恨めない。負の連鎖を断ち切る最も確実で無慈悲な手段。

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悪人は人々を嘲笑った。欲した物は奪い、惚れた女は手籠めにし、望んだことは誰に憚ることなくやってきた彼にとって、死を突き付けられて焦る人々は滑稽でしかない。「たった一度の人生、謳歌しなきゃ損じゃないか！」#366days 誰も頼らぬ孤高な生き様。そんな人生もきっと間違いではなくて。

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善人は己が生き方を悔いていた。人のためにと自分を犠牲にしてきたのに、何の見返りもなくあと10カ月の命になるだなんて。こんなことならもっと我が儘に生きればよかった。 #366days 死は誰に対しても平等。善人も悪人も関係ない。けれどその生き方が本物なら、きっと最期は独りじゃない。

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正直者は恋をした。自分の死をまるで家族のことのように悲しみ、泣いてくれる同級生に、ウブな彼が惚れてしまうのも当然だった。それでも彼は、彼女が皆に優しいことを知っている。ゆえに決めた。「僕はこの想いを隠し通す！」 #366days 正直者の秘密の決意。既にバレバレだとは言わぬが花。

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奇術師は舞台に立った。「さあ紳士淑女の皆様、今宵お見せするは、私の生涯最期、一世一代の大イリュージョン！どうぞお見逃しの無いように！」彼の大仰なセリフに応えたのは、観客席に１人で座る少女の笑顔だった。 #366days １人でもいい。届けたい想いが伝わったなら、それは望外の幸せ。

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自分の芸を見て笑顔になってくれる子供たちに、道化師の胸中は複雑だった。喜んでくれるのは勿論嬉しい。けれどそれは、こんなことで笑顔になるくらい、彼らが娯楽に飢えている証左なのだから。 #366days 誰もが笑顔を失った時、皆を笑顔にできるか。彼の真価が問われるのはきっとそんな時。

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「貴方は何もやり残したことはない？」問われたフリーターは暫し黙考する。夢も希望もなく、漫然と生きてきた彼が最期に唯一望むとすれば――「君に会ってみたいです」そっと画面の向こうの誰かに呟く。 #366days 顔も名前も知らない。それでも一歩踏み出す勇気があれば会えない道理はない。

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唐変木は吹っ切れた。残り少ないアイツの時間を奪っていいのだろうか？悩んでた自分が馬鹿馬鹿しい。「これが今の俺の精一杯だ」渡したのは１輪の赤いバラ。受け取った幼なじみはニッコリと微笑んで、そっと彼に口づけた。 #twnvday 誰かとわがままを共有できること、人はそれを幸せと呼ぶ。

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ツンデレは「そういう飾らないところに惚れちゃったのかもね」と唐変木に囁いた。「俺はお前のそういう捻くれたところ、嫌いじゃないけどな」彼が負けじと口にしたのは、それでも飾らぬ素直な想いだった。 #366days 顔を真っ赤にする2人。永遠には続かないけれど、それ故に輝く青春の一片。

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男性は妻が自分の子供を身籠ったと知って歓喜した。「これで僕がいなくなっても、君は1人じゃないんだね！」嬉しさのあまり、彼はまだ気付けない。妻の表情が憂いを帯びていることに。 #366days 嘘を貫くか、真実を告げるか。たとえ茨の道でも、幸せに至るためと信じて彼女が選んだのは――

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「私も貴方と同じ日に死ぬのよ」女性が告げた真実に夫は驚愕した。「君は何を言って……」「しっかりして！」動揺する夫を彼女は叱咤した。「私たちは、この子を育ててくれる人を探さないといけないのよ！」 #366days 遺すべき未来を予め誰かに託せるなら、死の宣告は必ずしも無為ではない。

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暴食家は飽くなき食への関心を加速させた。彼は元来、あらゆる食材が美味いか不味いか、自分の舌で確認しなければ気が済まない性質だった。そんな彼の前に横たわるのは「意外に不味いじゃないか」物言わぬ少女だった。 #366days 告げられる命の制限時間。禁忌を破る者が現れるのもまた道理。

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強突く張りは納得した。彼に設けられた命の期限は、この世の全てを欲した報いに違いないと。故に彼は心を入れ替えた。もう報いは受けたのだ。これ以上の自重は必要ないだろう？ #366days 傍から見れば紛れもなく詭弁。本人にとっては疑う余地無き真理。どちらにせよ被る迷惑に変わりはない。

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焼き餅焼きは頬を膨らませた。「そりゃ私だって彼氏がモテたら嬉しいよ？でもさ、君には私以外の女の子に目を奪われてほしくないからさ……目をくり抜いちゃおっか！」手足を縛られ口を塞がれた男に抗う術など無い。 #366days 命の期限が加速させた想い。歪であっても、きっと1つの愛の形。

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怠け者は明日から本気を出すことにした。どうせ先の長くない未来だ。今更ジタバタしたって始まらないだろう？男は嘯くが、今年に入ってから同じ言葉をずっと繰り返していることは、誰もが知っていた。 #366days 明日からと言って全てを後回しにする。そんな男にいつになったら明日が訪れる？

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ワンマン社長は独善振りに磨きをかけた。「誰もが死を嘆き、労働に倦んでいる今こそが商機！」社員たちは馬車馬のように働かされ、1人また1人と辞めていく。 #366days 愚鈍なリーダーだけでなく、傲慢なリーダーにも人は従わない。過ぎたるは及ばざるが如し。気づくのはいつも失ってから。

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色魔は情欲に溺れた。そこに愛などない。あるのはただ、死への漠然とした恐怖と空っぽの胸に吹き荒ぶ寂寥だけ。その虚しさを埋めたくて女を抱くと言うのに、心のスキマは拡がるばかりで。 #366days 何のために女を抱くのか。手段が目的になっていることにも気づかず、男は今日も情事に耽る。

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怒りんぼは激情に駆られた。「私を放ったらかさないでよ！」叫んで手近にあった灰皿で夫を殴りつける。それきり夫はピクリとも動かない。「なんで？私より長生きするって……」 #366days 声を聞かなかった者に訪れるのは、死ぬ日など分からぬ普通の人生。声を聞いた者ほどそれに気づけない。