山本七平botまとめ/『一知半解人のハッスル』

山本七平著『私の中の日本軍(上)』/扇動記事と専門家の義務/220頁以降より抜粋引用。 *余談ですが、今の反原発運動がまさにこの状態ですね。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】我々には、皆、その時代時代の常識とか通念とかいったものがあり、それを前提にして新聞を読み、ラジオを聞き、テレビを見ている。ところが、もしそれが逆用され、悪用されると、全くあり得ない事をいとも簡単に信じこます事が出来るのである。<『私の中の日本軍』

2012-04-06 05:55:52
山本七平bot @yamamoto7hei

2】「一知半解は知らざるに劣る」というが、当時の日本人はその殆ど全てが軍隊や戦争に対して一知半解であり、そのため文字通り「知らざるに劣る」状態になって、それが米英撃滅論的な世論を生み出してしまったと私は思っている。

2012-04-06 06:25:54
山本七平bot @yamamoto7hei

3】何しろ世をあげての軍国熱があり、遊びといえば兵隊ゴッコ、読むものといえば忠勇美談、武勇伝、殉国美談であり、更に漫画では、犬まで兵隊を演じ、パンダと白黒を逆にしたような『のらくろ』は今のパンダ以上の人気者、その上、中学校に入れば学校教練という正課の「兵隊ゴッコ」があった。

2012-04-06 06:56:00
山本七平bot @yamamoto7hei

4】当時の学校教練は勿論正課の学科で、これの点が悪ければ落第した。恐らくその水準は、ある種の国の民兵程度だったかも知れない。従って当時の日本人は、非常に軍事常識があったわけだが、これがあらゆる面で逆に作用した

2012-04-06 07:25:58
山本七平bot @yamamoto7hei

5】というのは「兵隊ゴッコ」というが、これは正確にいうと「歩兵隊ゴッコ」なのである。軍事教練というが、これは歩兵教練で、大体、中隊単位の戦闘訓練、軽機や擲弾筒の訓練まで正規の学課であった。今では想像もつかないことであろう。

2012-04-06 07:55:57
山本七平bot @yamamoto7hei

6】これが「軍隊=歩兵」という観念をいつしか全国民に植えつけた。同時に当時のマスコミも、いわばこういった読者を対象とするため、この観念をますます強めてしまったことと思う。

2012-04-06 08:27:21
山本七平bot @yamamoto7hei

7】同時にそういった軍事常識に基づいて、少尉といえばすぐそれを「歩兵小隊長」と考えることも、誰一人疑わぬ状態になってしまったのである。いわばこれが当時の「常識」である。常識や通念は勿論虚偽ではない。

2012-04-06 08:56:05
山本七平bot @yamamoto7hei

8】事実「陸軍少尉」といえば、その殆ど全部が「歩兵小隊長」であり、それ以外の者はいわば「例外者」であった。今は勿論だが、当時ですら「砲兵で観通です」などといっても、「軍事常識」の塊みたいな、いわゆる「町の参謀」でも、何やらさっぱりわからない顔をしているのである。

2012-04-06 09:26:06
山本七平bot @yamamoto7hei

9】「エッ、カンツー将校?一体何やるんです」~略~一瞬怪訝な顔をする。そこでいわば測量屋と工事現場の仮設電話屋のような事をするのだといえば「ヘェー、じゃ軍属みたいなもんですな」といわれる。こういう事は珍しくなく、その為軍事知識の普及がなっとらんと憤慨している将校もいた。

2012-04-06 09:56:07
山本七平bot @yamamoto7hei

10】近代戦とはそういったもので、飛行場設定隊といえば、今の宅地造成屋なみに朝から晩までの土木作業だし、自動車隊といえばマル通だし、鉄道隊といえば「動労」だし、船舶工兵といえば小型フェリーのようなものである。

2012-04-06 10:26:13
山本七平bot @yamamoto7hei

11】当時の日本人の軍事常識というものが全く時代離れのした日露戦争並みのものであり、しかも皆がこの一知半解に固執し、本当の実態を見る目を逆に自ら塞いでしまっていた、それが即ち「百人斬り競争」という記事をデッチ上げさせた背景であり、同時にそれは「百人斬り」的行為をして(続

2012-04-06 10:55:58
山本七平bot @yamamoto7hei

12】続>いない軍人は軍人と認めない事にもなった。~略~従って、当時の人が向井・野田両少尉と書いてあるだけで、何の疑いもなくこれを歩兵小隊長向井少尉と同じく歩兵小隊長野田少尉と受けとり、当然の事だから「歩兵小隊長」を略したと考えるのが当たり前である。

2012-04-06 11:26:16
山本七平bot @yamamoto7hei

13】ただ私が関係者の証言で非常に驚いた事は、この人々が平然と「戦意高揚」の為書いたといっている事である。そして恐らくこれが、軍部がこの記事を、即ちもし事実ならば向井少尉を軍法会議に回さねばならぬ程の事が書かれているこの記事を、また向井少尉自身を不問に付した理由であろう。

2012-04-06 11:56:02
山本七平bot @yamamoto7hei

14】前に述べたような典型的な、外部から軍部へのゴマスリ記事を彼らは鷹揚に受け入れたのであろう。しかしその結果、それによって徹底的に苦しめられたのが、一般の日本人であった。外部の人間の上役へのゴマスリが、どれだけ下っ端を苦しめたか。

2012-04-06 12:26:11
山本七平bot @yamamoto7hei

15】「戦意高揚」と筒単に言うけれど、これは「国民を戦争へと扇動する」という言葉とどこに差があろう近代戦の恐るべき実体を隠し、その戦場が「百人斬り」の場であるかの如くに書きたてた事、それが一体どういう結果になったか。

2012-04-06 12:56:07
山本七平bot @yamamoto7hei

16】先日、ある週刊誌の座談会で、戦史家秦郁彦氏が、戦争の末期には「プロは投げちゃって、アマばかりハッスルしていた」と言われたが、これは私の印象ともピタリと一致する

2012-04-06 13:26:02
山本七平bot @yamamoto7hei

17】戦意高揚という名の扇動記事・ゴマスリ記事が、軍事知識の一知半解人を完全にめくらにしてしまったのだ。私が前に「目をつぶされた大蛇が自らが頭に描いた妄想に従ってのたうち回って自滅した」ような印象を日本軍に対してもっていると書いた、その目をつぶしたのは、こういった記事なのである。

2012-04-06 13:56:00
山本七平bot @yamamoto7hei

18】戦後は軍事知識の一知半解人はいなくなったが、新聞、ラジオ、テレビは、別の面での恐るべき多量の一知半解人を生み出しているように思う。一体これがどうなって行くのであろう。知らない事は知らないでよいではないか。知らない事には判断を差し控えて少しも構わないではないか

2012-04-06 14:26:24
山本七平bot @yamamoto7hei

19】同時に、専門家ははっきりと専門家としての判断を公表する義務があると私は思う。と同時に専門家でない者は、専門家の意見を冷静に聞くべき義務があると思う。だが一知半解人は、常にそれができなくなるのである。

2012-04-06 14:55:59
山本七平bot @yamamoto7hei

20】大分前の事だが、源田実氏が「ヴェトナム戦争は、純軍事的に見れば北ヴェトナムの実質的敗北で終ることは明らかだ」といった意味の事をいわれ、当時これが「勇気ある発言だ」と書かれていたのを何かの雑誌で見たが、瞬間、ムカッとしたのである。

2012-04-06 15:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

21】今それを言うなら、なぜ太平洋戦争の前にそれを言わないのか!米・英・中三国との戦争の結果は、貴方には「純軍事的に見れば、はじめから明らか」であったではないか。貴方は軍人ではなかったのか。軍事の専門家ではなかったか

2012-04-06 15:56:00
山本七平bot @yamamoto7hei

22】他国の事に発言するくらいなら、なぜ自らの祖国とその同胞の為に発言しなかったのか。勿論ヴェトナムについて発言する事すら勇気がいるのだから、当時の日本で、日本について同じような発言をする事は、死を覚悟しなければ出来なかったであろう。

2012-04-06 16:26:08
山本七平bot @yamamoto7hei

23】しかし例え代表的な新聞が社説で「対米開戦」を主張しようと、それは本多勝一氏の様に「百人斬り」を近代戦の実態と考え、これを断固たる「事実」と主張しているアマのハッスルにすぎず、それに対して例え一知半解人が双手をあげてこれに賛同しようとそれは専門家の判断基準にはならない筈である

2012-04-06 16:56:04
山本七平bot @yamamoto7hei

24】その場合、専門家は、例えいかなる罵言雑言がとんで来ようと、例え、いわゆる「世論」なるものに、袋叩きに遭おうと、殺されようと、専門家には専門家としての意見を言う義務があり、それをはっきり口にする人が、専門家と呼ばれるべきであろう。

2012-04-06 17:26:13
山本七平bot @yamamoto7hei

25】ただ私は、宮沢浩一教授の『ペンの暴力』という一文を読んだとき、つくづく戦争中を思い出したのである。次にその一部を引用させていただく。【わが国では、各地のいわゆる公害裁判で、原告に加担するマスコミがすでに結論がでているとばかりに、被告の訴訟活動に不当な圧力をかけている。

2012-04-06 17:56:04