山本七平botまとめ/『百人斬り報道が「事実」とされる理由』~いまだに虚報記事を訂正しない毎日新聞~

山本七平著『私の中の日本軍(上)』/不安が生みだす「和気あいあい」/276頁以降より抜粋引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】「戦犯の証人」とは、あらゆる方法で「逃げ」を打ち、親切そうな言葉は並べても自分は絶対に関わり合いになるまいと伏線を張り、ああ言えばこういうで断言は絶対せず、言質は絶対にとられず、しかも何らかの印象を巧みに残す事である種の「心証」を与えて身の安全を計り(続<『私の中の日本軍』

2012-03-03 04:25:57
山本七平bot @yamamoto7hei

2】続>全ての責任は結局被告だけに負わせ、自分は口をぬぐって知らんぷりしているだけでなく、ちょっと見ると被告の為大いに弁護したかの様に見せかけるのが実にうまい人間の事である。

2012-03-03 04:56:00
山本七平bot @yamamoto7hei

3】確かに浅海特派員(註: #百人斬り 報道記事を書いた記者)の「証言」は、向井少尉の側、即ち「殺される側」に立って、大いに有利な証言をしているかの様に見える。だがこの証言と~略~向井少尉の手記を読み比べられればよい。二人の間には、はっきりと深淵がある

2012-03-03 05:25:57
山本七平bot @yamamoto7hei

4】これが本当に「殺される者」と「殺される側に立つ」と仮称する者との、どうにもならないギャップである。浅海証言の底にある絶対の前提は「身の安全」であり、すべてが一種の「逃げ」である。それはそれでいい――それが本当に自分の生命に関わる事なら

2012-03-03 05:55:59
山本七平bot @yamamoto7hei

5】しかし、もしそれが自分の職業や地位や将来性を意味する「身の安全」なら、それは絶対に許されない人の命は、一新聞社、一新聞記者の面子と替え得るものではない。浅海証言には確かに美辞麗句はある。

2012-03-03 06:25:57
山本七平bot @yamamoto7hei

6】しかし決定的なのは「①同記事に記載されてある事実は、向井、野田両氏より間きとって記事にしたもので、その現場を目撃したことはありません」だけである。そしてその中で決定的なのは「記載されてある事実」という言葉と「聞き取って記事にした」の二つであろう。

2012-03-03 06:56:06
山本七平bot @yamamoto7hei

7】人間が何かを聞く場合、聞く方に二つの態度がある筈である。即ち「事実として聞いた」のか「フィクションとして聞いた」のか、という問題である。ところが氏の証言は「同記事に記載されてある事実は~略~両氏より聞きとって記事にしたものでその現場を目撃した事はありません」となっている。

2012-03-03 07:25:59
山本七平bot @yamamoto7hei

8】この証言は確かに非常に巧みで、典型的な「戦犯の証人」の証言の仕方で、どっちにころんでも浅海特派員には全く責任はありません、という結果になっている。従って、これでは偽証ではないかといわれれば、氏は「冗談じゃない。『記載されてある事実』はあくまでも事実だ、と証言したのではない

2012-03-03 07:56:06
山本七平bot @yamamoto7hei

9】話をきいただけで、現場は目撃していないと証言しているではないか」と言えるのである。しかし問題はそこなのだ。~略~浅海特派員は、この事件における唯一の証人なのである。そしてその証言は一に二人の話を「事実として聞いたのか」「フィクションとして聞いたのか」にかかっているのである。

2012-03-03 08:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

10】いわば二人の命は氏のこの証言にかかっているにもかかわらず、氏は、それによって「フィクションを事実として報道した」といわれる事を避けるため、非常に巧みにこの点から逃げ、絶対に、この事件を自分に関わりなきものにし、全てを二少尉の責任に転嫁して逃げようとしている

2012-03-03 08:56:08
山本七平bot @yamamoto7hei

11】しかし、もう一度いうが、そうしなければ命が危かったのなら、それでいい――人間には死刑以上の刑罰はない、人を道連れにした処で死が軽くなるわけでもなければ、人に責任を転嫁されたからといって、死が重くなるわけでもないのだから。しかし、死の危険が浅海特派員にあったとは思えない

2012-03-03 09:26:12
山本七平bot @yamamoto7hei

12】それなら一体なぜこういう証言をしたのか。確かに浅海氏が小説家で、これが「東京日日新聞(註: #毎日新聞 の前身)」の小説欄に発表されたのなら、この証言でもよいのかも知れぬ。しかし氏は新聞記者であり、発表されたのはニュース欄である。

2012-03-03 09:56:09
山本七平bot @yamamoto7hei

13】新聞記者がニュースとして報道するとき、実情はどうであれ、少なくとも建前は、その内容はあくまで「事実」であって、この場合、取材の相手の言ったことを「事実と認定」したから記事にした筈だといわれれば、二少尉は反論できない

2012-03-03 10:26:10
山本七平bot @yamamoto7hei

14】従って、全てを知っている向井少尉が頼んだ事は「建前はそうであっても、これがフィクションである事は三人とも知っている事なのだ。しかし二人は被告だから、残る唯一の証人、浅海特派員にそう証言してもらってくれ」と言っているわけである。

2012-03-03 10:56:05
山本七平bot @yamamoto7hei

15】それを知りつつ、新聞記者たる浅海特派員が前記のように証言する事は「二人の語った事は事実であると私は認定する。事実であると認定したが故に記事にした。ただし現場は見ていない」と証言したに等しいのである。

2012-03-03 11:26:20
山本七平bot @yamamoto7hei

16】即ち浅海特派員(註: #百人斬り 報道記事を書いた記者)は向井少尉の依頼を裏切り、逆にこの記事の内容は事実だと証言しているのである。この証言は二人にとって致命的であったろう。唯一の証人が「二人が語ったことは事実だ」と証言すれば、二人が処刑されるのは当然である。

2012-03-03 11:56:03
山本七平bot @yamamoto7hei

17】これではこの処刑は軍事法廷の責任だとはいえない。~略~一体、この二人の「血の責任」は誰にあるのか。私は、最終的には、やはりこの記事を掲載した新聞社にあると思う。取材・原稿は記者の責任であれ、掲載は社の責任だと思う。

2012-03-03 12:26:15
山本七平bot @yamamoto7hei

18】そしてこれが「証拠」たりえたのは「新聞記事は事実の記載であってフィクションの記載ではない」という事が、断固たる一つの前提になっているからである。

2012-03-03 12:56:07
山本七平bot @yamamoto7hei

19】もう一つは、この記事が「戦犯の証拠」として昭和22年4月にすでに連合国側で問題とされているのを知りながら、22年12月、二人が処刑されるまでの八ヵ月間、この記事を再調査することなく放置しておいた点にも責任があると思う。

2012-03-03 13:26:08
山本七平bot @yamamoto7hei

20】当時なら、今とちがって幾らでも証人はいた筈だ。しかし今となってはもうどうすることも出来ない――私が何を言ったところで、処刑された人間は生きかえって来ないし、私の言うことは黙殺すればそれですむ。勿論この問題はすでに法律的な問題ではあるまい。

2012-03-03 13:56:07
山本七平bot @yamamoto7hei

21】しかし、もし本当にその意思があるなら、今でも出来る事はある筈である。この事件は、今では中国語圈、英語圈、日本語圈、エスペラント語で事実になっているしかし明らかに記事の内容自体は事実ではない。従ってこれを事実と報じた人々はまずそれを取り消して二人の名誉を回復してほしい

2012-03-03 14:26:13
山本七平bot @yamamoto7hei

22】独裁国ですら、名誉回復という事はあるのだから。そして二人の血に責任があると思われる人もしくは社は、遺族に賠償してほしい。戦犯の遺族として送った戦後三十年はその人々にとって、どれだけの苦難であったろう。

2012-03-03 14:56:07
山本七平bot @yamamoto7hei

23】人間には、出来る事と出来ない事が確かにある。しかしこれらは、良心とそれをする意思があれば、出来る事である。もちろん私に、そういう事を要求する権利はない。これはただ、偶然ではあるが、処刑された多くの無名の人々の傍らにいた一人間のお願いである

2012-03-03 15:26:10