とあるゲーム。

2012年4月22日未明。 笥箪が急に、昔話をはじめた。
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笥箪(すたん) @sutanguoago

昔話をしましょうか。あれは僕たちがまだいたいけな高校生だったときの話。暑い夏の日でした。テスト期間中で学校が早く終わり、暇な平日の午後を持て余した僕と、同じ学校に通う友人タキバヤシ(仮名)くんはあるゲームを考案したのです。→続く

2012-04-22 03:38:56
笥箪(すたん) @sutanguoago

それは通学路を歩きながら、分かれ道の度にじゃんけんをして、右側に立っている方が勝てば右に。左側に立っている方が勝てば左に。三叉路の場合はあいこで直進する。という他愛もないもので、ゴールは学校から曲がり道を二つほど越えた先にある○ワーシティでした。→続く

2012-04-22 03:43:09
笥箪(すたん) @sutanguoago

まずは学校を出て、左にいけば直ぐにその店が見えるのですが、「じゃんけんぽん」右に曲がります。次も、その次も、計ったように二人のじゃんけんの結果は店から遠ざかるような勝敗を繰り返します。気付いたときには市をまたぐ二級河川をわたっていました。

2012-04-22 03:46:44
笥箪(すたん) @sutanguoago

三時を過ぎました。これはあかん。二人は焦ります。いかに時間がいっぱいあり、地方の田舎道とはいえ男子高校生が数十、数百メートル歩くたびにジャンケンをして一喜一憂する姿は奇異の一言に尽きます。ああいっそ・・・「なあもう、やめねぇ?」とどちらかが言えば終わるのに。→まだ続きます

2012-04-22 03:50:23
笥箪(すたん) @sutanguoago

「なあ」ついに片方が口を開きます。「このままだとキリがねぇ。だからそろそろさ・・・」ああ、ついに禁断の一言が口にされようと「特別ルール追加しねぇ?」素直になれない高校生。そうして特別ルールが追加されます。それは三回だけ自由な方向に進めるという・・・→

2012-04-22 03:53:49
笥箪(すたん) @sutanguoago

ひさびさの再会を果たした旧友・・・思いを寄せる女の子・・・ずっと尊敬していた先輩・・・そんな人とだったらずっと一緒に三時間じゃんけんをしながら歩き続けることも可能かな、いやきついですけど、一緒に歩くのは毎日同じ学校に通う席も隣の友人です。話題は開始して早々に尽き果ててます。→

2012-04-22 03:57:46
笥箪(すたん) @sutanguoago

なんでこんなことしてんだろう。という想いを軸に、「なんでこいつ、橋とか上り坂とかしばらく曲がり道もない直線道路の方に進んじゃう側の時に勝ちまくるんだよ」とか「最初のじゃんけんの時点で右に曲がらずに、下らない遊びはここまでにしてぇ~とか言ってお茶濁せばよかった」とか→

2012-04-22 04:01:47
笥箪(すたん) @sutanguoago

ゲーム自体の否定、協力すべき仲間を貶めるような考えが頭を過ぎります。それでも言葉の上では互いを励まし合い「ココマデキタンダカラゴールシタイヨナー」目はだいぶん前から死んでいます。日が沈んできました。普通に学校が終わって下校する中学生の姿も見えてきていました。→

2012-04-22 04:06:26
笥箪(すたん) @sutanguoago

完全に折れた心と鈍痛のしだした足首と空腹を抱えた二人はそれでも前に進みました。忌まわしき二級河川を再びわたり、帰宅ラッシュの車を横目に、ついにゴールの店に続く道路へとたどり着いたのです。「あ、あと三回は直進すればゴールだ!」「しかし選択自由権はあと一回しか・・・」「バカ野郎!」→

2012-04-22 04:10:13
笥箪(すたん) @sutanguoago

「本当に大事な瞬間をそんな反則みたいなもんで掴んで、うれしいのかよ!最後くらい、二人の手で掴み取ってやろうぜ!(このようなニュアンスの妄言)」「ああ!俺がバカだったよ・・・!でも、とりあえずこの道は権利を使って直進しよ?」「うん」→

2012-04-22 04:13:03
笥箪(すたん) @sutanguoago

二人は大きな橋の前で立ち止まります。直進すれば橋をわたり、ゴールへ前進。左でも港側を歩いていけばまだゴールの道はある。右は工業地帯、絶望。僕は左に、タキバヤシは右に立ちます。「「じゃんけんぽん!」」勝ったのは僕でした。→

2012-04-22 04:15:32
笥箪(すたん) @sutanguoago

迂回しながらわたりそこなった橋を眺め、疲れ切った身体を浜風に抱かれます。二人は笑顔でした。もうすぐこの戦いが終わる。そんな確信があったのです。その先何度かあった分岐点も、二人の息はぴったりで、順調に歩みを進めます。そうしてついに、その場所が二人の視界に飛び込んできました。→

2012-04-22 04:18:26
笥箪(すたん) @sutanguoago

僕の家でした。回る換気扇が、僕を誘うように夕食の香りを外へとはき出しています。タキバヤシの顔を見ます。僕は忘れません。あれが「嘘だろ、こいつ」とマジで驚愕している人間の顔なんだなって。僕は笑顔で「ゴール」と呟きました。二人の長い一日がそこでようやく、終わったんです。 fin

2012-04-22 04:23:00
笥箪(すたん) @sutanguoago

そのあとタキバヤシくんは一人で歩いて帰りました。彼、自分でいうのもなんですけど、キレてもよかったんじゃないかな。今だから言える。ごめんね!もう限界だったの私! でも彼とは今でも友達です!ええ。

2012-04-22 04:30:22