神楽山洋子と僕

原 沙良葉 @harasaraha

予想外の言葉に２度瞬く。そういう不思議が多い街だと分かってはいたけれど、実際にこういう店で買い物をするのは初めてだ。「えっと、両目から０．１ずつですか」あっけにとられたまま口から出たセリフは馬鹿らしく響いた。 @boy___k1 #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

@boy___k1

ふ、あっはっはっは、そうだ、両目から0.1。頂けるかな？目を大きく開くお客さんの新鮮な反応に思わず吹き出してしまう。こういう店は初めてらしいな。なに、すぐに終わるよ。@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

原 沙良葉 @harasaraha

笑われてしまった・・・。少し肩を落としながら構いません、と返事をする。彼女がそうまでして僕に残したかったものが気にかかったし、何より純粋に視力を代金として支払うという事実に興味があったからでもある。 @boy___k1 #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

@boy___k1

いや、笑って悪い。眼鏡を外してもらって良いかい？よしよし。ではちょいと失礼。前髪をぐいとかきあげ額を全開にする。見開く大きな目と視線を繋げる。瞬間文字通り石のように固まった男の瞳孔を人差し指ですいすいとなぞった。@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

原 沙良葉 @harasaraha

前髪をかきあげられ瞳をなぞられた瞬間、ふと何かが軽くなったような、感覚がした。え、何が、と思う間もなく男がひどく色気のある笑みを浮かべる。 @boy___k1 #空想の街　#黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

@boy___k1

流れる水色を掬い、口に滑らせ喉に流す。とん、と糸が切れたように倒れこむ男を抱きとめる。はい、終わったよお客さん。一寸疲れたかもしれないがまあすぐに直るさ。眼鏡の期限は、「必要としなくなるまで」。ぽんと包みを渡す。@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

原 沙良葉 @harasaraha

急にどっと重さが肩に伸し掛かってきて揺らいだところを支えられた。僕がこれを必要としなくなるまで、か。現時点で必要としているかどうかも分からないんだけどな。「開けてみても？」問えば好きにしろと返されて、包みを開いた。 @boy___k1 #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

@boy___k1

自信作だ。名残りは残してある。勿論、依頼人の想いも遺してな。せっかくだ、着けてお帰りよ、お客さん。きっと似合う。@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

原 沙良葉 @harasaraha

「ありがとう、ございます」声がみっともなく揺れた。見慣れたベリー色。そうか、彼女はきっと何も見過ごさず生きてきたんだろう。何も見過ごさず行きたいと願ってそれを僕にも分けたかった。「かけて帰ります」ありがとうございます、 @boy___k1 #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

@boy___k1

思った通りだ、良く似合うよ。はいはい、まいど。またどこかでな。表まで付き添って、ひらひらと手を降りながら見送る。幸多からんことを祈るよ。お客さん。@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

原 沙良葉 @harasaraha

玄関先でもう一度お辞儀をして、眼鏡屋に背を向ける。ふとメールの文面が頭をよぎって僕は思わず振り返った。店へ戻りかけている店主の背中に叫ぶ。「また！友人を連れて来ます」新しい眼鏡のレンズ越しに店主が目を見張るのが見えた。 @boy___k1 #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

@boy___k1

なんだなんだ、びっくりするなあ。だが、面白い男だな。口元が自然ニヤリと形を変える。ああ、いらっしゃい。眼鏡屋、いつでもお待ち申し上げております。くっくっく、と喉を鳴らすように笑って、もう一度手を降った。@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #眼鏡屋

原 沙良葉 @harasaraha

瞬間、携帯が震えて慌てて僕は画面を開いた。【良く出来ました】春にしては上出来。眼鏡ちゃんと手入れすること。お次は時計座。今度はお代払ってるから心配しないで。【洋子】　#空想の街 #黒山春樹の３日間

ハコ @amenohakoniwa

芝桜の硝子。割れてなかったら多分こんな感じ。色んな思いが詰まっているのか、一種の芝桜の花びらしか使ってない筈だけど、桃色、白、紫の色が一面に溢れた。　#空想の街 #地下の硝子屋 #黒山春樹の３日間 http://t.co/quuKpr0d

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ハコ @amenohakoniwa

硝子の依頼主に直接渡したかったけど、私が寝てる時間にいらっしゃるかもだし…。「割れてしまってるから、破片全て渡して下さい。全部は要らないなら、好きな破片を選んでもらって。お願いします。」と、おじさんに預ける。　#空想の街 #地下の硝子屋 #黒山春樹の３日間

原 沙良葉 @harasaraha

南区から少し離れたところだったので人力を使った。添付地図を見せずに場所を特定できたので、結構有名な店なのかもしれない。お代というからには次も店なのだろう。メールの仕組みについては考えないことにした。 @rippouhakoniwa #空想の街 #黒山春樹の３日間 #地下の硝子屋

原 沙良葉 @harasaraha

その店は名の通り時計塔の傍にあった。セピア色の空気を感じながら扉を開く。雑貨屋、なのか？この時間だけど開いているのだろうか。 「こんばんは、どなたかいませんか」店の中は眼鏡のせいかそこら中光で満ちていた。 @rippouhakoniwa #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

ハコ @amenohakoniwa

「遅くまで話し込んでしまったと思ったら珍しい時間にお客さんだ…いらっしゃい。おや、もしかして、注文の依頼主の方ですか。ちょうど良かった。先刻届いたばかりだよ。」店主は笑って手招きしながら、カウンターの上に包みを開く。　@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

原 沙良葉 @harasaraha

注文の方かいと問われて咄嗟に頷く。こちらにも注文が行ってたのか。電話じゃなくて手紙で依頼っていうのは彼女らしいのだろうか。「えっとありがとうございます。品物を受け取りに来ました」小さな包みに手を伸ばす。 @rippouhakoniwa #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

ハコ @amenohakoniwa

ぷか…ぷか…(隣の小部屋で一服中。)「…こんな時間にお客さんか。」ハコは路地に面した大きな硝子窓から人影を見て呟いた。「あれ、あのひと…？」@to_rakei　#空想の街 #地下の硝子屋 #時計座 #黒山春樹の３日間

原 沙良葉 @harasaraha

持ってみると大きさに比べて随分重たかった。てっきり雑貨（キィホルダーか何か）だと思っていたので面食らう。ふと、誰かの視線を感じたような気がして辺りを見渡したが、誰の姿も見つからなかった。 @rippouhakoniwa #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

ハコ @amenohakoniwa

「これね、うちの職人が失敗するなんて珍しいのだけど、作ってみたら…割れてしまってたんだと。手を切らないように破片は加工はしてあるらしいから大丈夫。全部持ってっても良いし、お気に召した破片だけでも良いよ。」　@to_rakei #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

原 沙良葉 @harasaraha

割れたってことは割れる素材の物なのか。「開けてもいいですか？」頷かれたので包装を開く。かちゃりと音がして芝桜の花びらが舞う硝子の破片が姿を現した。彼女は、これを買った時に既にこうするつもりだったのだろうか。 @rippouhakoniwa #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

ハコ @amenohakoniwa

「どうぞ、そのままお持ちに。…ハコ、依頼主に御挨拶くらいしたらどうかね？」隣の部屋からハコはおずおずと出てくる。「硝子職人のハコです…あの時は済みませんでした。橙のコートの方がこの依頼主だったんですね。なんだか、不思議。」@to_akei　#空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座

原 沙良葉 @harasaraha

そろり、と出て来たのはフェスタでぶつかった少女だった。「ありがとうございます、」と答えた声が揺らいだ。たった、たった５日前のことだ。彼女は俺の隣を歩いていたのに、繋いだ手は暖かかった、のに。 @rippouhakoniwa #空想の街 #黒山春樹の３日間 #時計座