神楽山洋子と僕

原 沙良葉 @harasaraha

頬杖をついて喧噪の中流れる放送部の放送を眺めて、一体誰がこんなものを見るのだろうと思って見まわした時に目があったのが彼女、神楽山洋子だった。ベリー色の眼鏡に派手な橙のコートを着て、ひどく生真面目な表情で僕の目を除き返す彼女はまるで子供のようだった。 *空想の街

原 沙良葉 @harasaraha

つまるところ、彼女はちょっと風変わりでとてもキュートな女の子だったってことだ。姫とまではいかないけど、ヒロインくらいならいける感じ。時計塔を抱く水路の駆け巡る街によく似合う、風変わりで可愛い僕が惚れた女の子。これは１年前、僕が彼女、神楽山洋子とすごした７日間のお話。 *空想の街

@keitoura1123

おはようございます。ただいまの街はとてもいいお天気です。予報では一日ずっとお天気が続くらしいです。夕方からある時計塔フェスタが楽しみです！（情報窓口：堂坂みかこ）　#空想の街

@keitoura1123

【定期アナウンス】時計塔フェスタについてです！東地区・橘通りで例年のように春花火をご覧になれます。花火打ち上げは２０時から。１７時前後から時計塔から橘通りにかけて出店、時計塔広場には特設ステージも立ちます。出店・ステージ出演募集中です！（情報窓口：佐々木類）　#空想の街

@keitoura1123

え？あ、えっと、街の天気予報士さんから連絡が入りました。本日１０時からソラクジラが南から北方向へ、２時間ほどかけて街の上空を横断するそうです。しばらく陰りますが雨の心配はいっさいない、とのことですので洗濯物はそのままにしておいてください。（情報窓口：堂坂みかこ）　#空想の街

原 沙良葉 @harasaraha

ひらり、とコートを翻して彼女は電車から降りたった。「久しぶり」笑いもしない真面目な表情が相変わらずで不覚にも僕は泣きそうになった。「髪伸びたね、」「うん。願掛けだから」ちぐはぐな返答も相変わらずだ。「いらっしゃい」そう言うと彼女は破顔した。　#空想の街　#神楽山洋子の休日

@keitoura1123

南区の方ではもうクモクジラが上空に差し掛かっているようです。お暇な方はぜひ家から出てクモクジラを見てみてください。とっても大きいですよ！（情報窓口：堂坂みかこ）　#空想の街

原 沙良葉 @harasaraha

「この街は相変わらずね」「そう？」大真面目な表情で彼女は時計塔を見上げた。この街のシンボルであり誇りでもある時計塔だ。「ああ、もうすぐクモクジラが来る」「ねえ」僕の言葉を無視して彼女は時計塔のてっぺんを指さす。そこには網をかかげる少年の姿があった。　#空想の街　#神楽山洋子の休日

原 沙良葉 @harasaraha

「で？どこか行きたいとこある？」彼女のスーツケースを引きながら僕は尋ねた。カラフルな市松模様のそれは見た目より軽い。「花が欲しい」「花？」「塔の傍に花屋があったでしょう」「そうだっけ・・」「あったわよ」眼鏡を押し上げて彼女はちろりと僕を見た。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#狐

原 沙良葉 @harasaraha

可愛らしい店員さんから芝桜の苗を受け取って、彼女は再び歩き始めた。踵がこんこん、と通りを打つのは彼女の機嫌がいい時の癖だ。「ご機嫌だね？」「そう？」小首を傾げる彼女の髪を笑ってつまんでみせた。「荷物置きにいく？」「ん。近場の駅って何処だったかしら」　#空想の街　#神楽山洋子の休日

原 沙良葉 @harasaraha

電車の座席で彼女は思い切り体を捻って外を眺めていた。こういう時話しかけると機嫌が悪くなるのは１年前に学習済みだ。「ねえ」「うん？」「お腹空かない？」振り向いて、橙のコートの袖を弄りながら彼女は僕の目を覗き込んだ。「そうだね、お昼の時間だ」　#空想の街　#神楽山洋子の休日

原 沙良葉 @harasaraha

「ありがとうございました」店員に見送られて駅へ向かう。「こんなパン屋があるなんて知らなかったなあ」「街の住人の癖に知らないなんて」ちろりと僕を横目でみる彼女。「僕が疎いのは知ってるだろ」「海行きたいなあ」相変わらず会話はちぐはぐだ。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#魔法のパン屋

原 沙良葉 @harasaraha

駅を出て立ち寄った店で、彼女は黄金のキャンディを購入したようだった。「キャンディ好きだったっけ？宗旨替えしたの？」「ルグッグ蜂蜜は好きなのよう」音をさせて飴玉を噛んだ彼女は僕を見て笑った。僕が知らないのに適当に相槌を打ったのはお見通しだったらしい。　#空想の街　#神楽山洋子の休日

原 沙良葉 @harasaraha

「海の匂いがする人」「え？」すれ違った花柄ワンピの女性を見て彼女はそう言った。橙のコートとスカートが翻る。「ああ、さっきの人」綺麗だったねと言うと片眉が跳ね上がった。「ああいう人が好み？」「さあ」答えながら手を握ると彼女は視線をそらした。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ぷっち

原 沙良葉 @harasaraha

指を絡めるも反応は返ってこなかった。照れているのだと思う・・・たぶん。彼女の風変わりなところは好きだけど、どう思ってるのか読めないのだけが困る。ふと、飴を噛む音が止んだ。「いい天気だね」ぽつりと彼女が言った。「うん？」「海行こうか」「・・そうだね」　#空想の街　#神楽山洋子の休日

原 沙良葉 @harasaraha

西区からのんびり徒歩で東区へと向かう。マルケーはもう堪能したから！というのが彼女の言い分だった。もちろん、僕に拒否権は残されていない。「鐘の音はいかがですか？」売り子の声に彼女は指に力を込めて目を細めた。「やっぱりこの街は素敵ねえ」　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#鐘売りの子供

@keitoura1123

時計塔フェスタの屋台の準備がはじまっています。…怪我しないようにお願いします。(情報窓口:佐々木類) #時計塔フェスタ #空想の街

原 沙良葉 @harasaraha

時計塔下は既に出店やステージの準備でざわついていた。徒歩で移動したせいで結局海には行けなかったけれど彼女は満足しているようだった。「あ、蜂蜜」昼によく聞く声の青年が蜜を売っている。「買ってく？」「・・重くない？」今さら何を。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ルグッグ蜜蜂の巣箱

原 沙良葉 @harasaraha

「うわ」思わず声を上げたのは一瓶が異様にでかかったからだ。今さらとか言ったが確かにこれを持って移動は無理だ。「これは、」それでも普段買わないキャンディを買う程には彼女がこの蜂蜜を好きなのは分かっていて。「・・・どうする？」　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ルグッグ蜜蜂の巣箱

和伊啓太 @waikeita

「すみません、今日は出展者向けに準備をしてゐたもので、ごめんなさい。瓶さへお持ちくださいましたら、そちらに詰めさせてもらひますよ！」ネバは出来る限りの笑顔を眼鏡の男の子と白スカートの女の子に向けた。 @to_rakei #空想の街 #神楽山洋子の休日 #ルグッグ蜜蜂の巣箱

原 沙良葉 @harasaraha

顎に手をかけふむと彼女は頷いた。「つまり容器があればいいんでしょ？」「そうだけど、きみ瓶なんて持ってないだろ？」にやと彼女は笑って、下げていた鞄から大きめの化粧水の瓶を取り出した。「え、」そして排水溝に中身を全部、捨てた。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ルグッグ蜜蜂の巣箱

原 沙良葉 @harasaraha

「おいおい・・・」ふふと笑った彼女は洗ってくる、と言葉を残してお手洗いへ走っていった。破天荒というよりも、既に非常識の域に達しているよう気がする。そこまでして蜂蜜が欲しかったのだろうか。帰る前に、もう一瓶くらいなら買ってあげてもいいかもしれないな。　#空想の街　#神楽山洋子の休日

和伊啓太 @waikeita

「えつと、良かつたんですか？　良かつたのでしたら、洗つてここに詰めさせてもらひますが、あの、問題ありませんか？」ネバは化粧水の瓶と女の子の顔を交互に見た。 @to_rakei 　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ルグッグ蜜蜂の巣箱

原 沙良葉 @harasaraha

戸惑う青年はなかなかに好青年らしい。走っていく彼女の背中を指して僕は苦笑してみせた。「ああいう子なので。お気遣いありがとうございます」こんなやり取りも１年ぶりなんだなあと、ふと感傷めいたものが一瞬胸を過ぎた。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ルグッグ蜜蜂の巣箱

原 沙良葉 @harasaraha

「なに感傷してるの」帰ってきた彼女がちろり、とお得意の流し目で僕を見た。「あ、のなあ、」「これ一杯分、芝桜で」見抜かれるのも振り回されるのもいつも僕の方なのだ。髪を耳にかけた彼女が少し俯いたことにその時の僕は気が付かなかった。　#空想の街　#神楽山洋子の休日　#ルグッグ蜂蜜の巣箱