秒針は止まらない

原 沙良葉 @harasaraha

そう言って芽衣ちゃんは、最後まで辛そうな笑顔で校庭を出て行った。　#空想の街 #秒針は止まらない　いつの間にか雨が降り始めていた。

原 沙良葉 @harasaraha

ひどい、雨。いつの間に降ってきたんだろう。校庭に雨が落ちるざあざあという音が私をくるんでいる気がした。思い出した、発見というよりその記憶は最初から私の中にあった、んだと思う。雨に濡れながら私は動けなかった。　#空想の街 #秒針は止まらない

原 沙良葉 @harasaraha

びしょ濡れのまま午後に一度訪れたその家の前に立って、ふと僕は今の時刻に気が付いた。知人ならともかくこんな時間に訪ねるなんて非常識極まりない。僕もどうやら混乱しているらしい。ふ、と自嘲の笑みが浮かぶ。被害者面して何が混乱だ。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「おわっ、たー！」ちら、と時計を見る。「わ、もうこんな時間…！しぃくん、電車とか平気？」「ん、それは大丈夫。それより…雨の方が心配かな」集中してたせいか気付かなかったが、耳を済ませばそれなりに雨が降っていることが窺い知れる。 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「なんで今日お母さんいないんだろ…傘、使ってください」「ありがとう」「いえ、遅くまで付き合わせちゃってごめんなさい。ありがとうございます」ガチャ、と少女は玄関を開けて固まる。「しぃちゃん？」「……め、芽衣センパイ！？」 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

「ああ、こんばんは」扉を開けて硬直した少女に苦笑した。喋るにしてもインターホン越しで済ませるつもりだったのだけれど、ほとほと間が悪い。「昼間といい、急に押しかけてすまないね。お客さんかな？邪魔をしてしまっただろうか」　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「しぃくん、何と言おうと芽衣センパイを家の中連れてきてくださいっ、玄関でいいですから」（風邪ひいちゃう！）ドタバタと少女は家の中へ駆けてバスタオルを探す。「…ということなので、入りませんか？」少年は芽衣を傘に入れながら言った。 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

「いや・・・」傘をさしかけてくれた少年に躊躇う。「別に大した用事じゃあないんだ。こんな時間にお邪魔するのも申し訳ない。彼女に言付けだけしておいてもらえないか。リュカを頼む、とだけ」多分僕の顔など見たくもないだろうから。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「…わかりました。その代わり、これ持って行ってください」す、と傘を渡す。「しぃちゃんの傘ですけど…こうしないと俺がしぃちゃんに怒られちゃいます」少年は穏やかに笑った。 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

「ありがとう」傘を受け取って笑顔を作る。「突然訪れて傘だけ借りるなど失礼極まりないがお借りするよ」今のリュカを支えられるのは彼女しかいない。心配などと言う資格はないが彼女に頼んでおきたかった。「じゃあ僕はこれで」踵を返した。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「…お気を、つけて」芽衣のつくる笑顔がどこか苦しげに見えて、少年はそれしか言えなかった。傘が少し遠ざかると、ドタドタと足音が近づいた。「めっ、芽衣センパイタオルを！ってぎゃー！今度はしぃくんがびしょびしょ！」 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

少女は少年を玄関に引き入れてバスタオルをかけると外へ飛び出そうとした。「しぃちゃんストップ！」「わっ」手を捕まれる。「それじゃしぃちゃんが濡れるよ」「でも」「……リュカを頼む、だって」 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「うー…」ぐす。少女の目には涙。「きっとあの時と関係してるよね。…私、頼ってもらったのに、何もできてないよ。苦しそうな顔しか見てないよ」俯く少女の頭にタオルをかけてぽんぽんと頭をたたく。「何かしたいと思って、実行したよ。その優しさできっと充分」 #空想の街 #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「あとは機会を待つだけだよ」「かな？」「ん」ごしごしとタオルで顔を拭いて、少女はよし、と呟いた。「も少し残ろうか」「え？」「仕上げに箱でも作ろう」少年は靴を脱いで、再び少女の家に上がった。 #空想の街 #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

どうやって家に戻ったのか、分からない。ただ、違うんだって言いたかった。芽衣ちゃんを傷つけたいんじゃなかった。だって、だって私が悪かったんだ。私がもっと気をつけてたら、遥の命を絶たせたのは。布団の中で天井を見つめて。なんだか頭がくらくらした。　#空想の街 #秒針は止まらない

原 沙良葉 @harasaraha

熱ね、と呆れたお母さんの声が遠い。ふわふわした感覚は熱のせいかと納得。考えなければいけないことはたくさんあるけど、纏まらない思考にほっとした。仕事は休みね、という声に叔父さんへの申し訳なさだけが浮かぶ。そのまま眠りに落ちた。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

昨日はよく眠れなかった、と少女は欠伸をもらす。明日、一度連絡をとってみたら？という少年の言葉を思い出した。「とりあえず、リュカさんにメールしてみよう…」『いつでも構わないので時間あったらお会いしませんか？』 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

ぴぴぴ、と枕元の携帯の音で目を覚ました。メールの着信、目を、覚ましたくなかったな、と思った。寝る前より意識がはっきりしてきていて、いやだ。何も考えたくなくて、私はもう一度目を閉じた。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「…うぅ、どうしよ」少女はケータイを開いたり閉じたりしながら、部屋の中をうろうろとする。なんだか時間がゆっくりに感じる。疲れてるのかも、忙しいのかも。しつこくはしたくない。…散歩に出よう。家の中はなんだか狭い。 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

角が立たないように事態を収めるのはこの僕でもかなり大変だ。オダの助力と親の口添えがなければとてもじゃないが収まらないだろう。警察での聴取を終えて僕は帰路を辿っていた。まだ書かなければならないものも会わなければならない人も多い。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

どうすればリュカを癒せるのか僕には分からなかった。一連の出来事とフォローで僕も疲弊していた。まだ半日もたっていないというのに。こんな想いをきっとリュカは１か月も抱えていたのだろう。遥への思慕とリュカへの罪悪感で死にそうだった。　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

少年は少女の家へと向かっていた。（何も約束はしてないけど、色んな人が心配だし）「あれ？」向こうに見えるのは、「飯島芽衣、先輩…？」さて、話し掛けていいものか。「…行くしかない、よね」あんなに小さな背中は、放っておけない。 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

「こんにちは」明るい声にびくりと肩を震わせた。にこり、と笑っていたのは昨日の少年で。「・・・驚いたな」咄嗟に笑みを浮かべる。「昨日は自己紹介もせずにさっさと帰ってしまって悪かったね。しぃちゃんの友人かい？僕は飯島芽衣という」　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

朔月みりあ @miria_saku

「能登洲高校の生徒で知らない人はいないですよ」俺でさえ覚えてるんですから、という言葉は飲み込んだ。「しぃちゃんの友人…ですかね？」あはは、と曖昧に笑う。「俺は良ければしぃくんと呼んでいただければ。…自分でいうのも変ですけど」 #空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女

原 沙良葉 @harasaraha

ああ、能登州の生徒だったかと少年と見返した。我ながら注意力が落ちている。少し考えれば分かったろうに。「しぃくんか、よろしく。僕のことは好きに呼びたまえ。僕は家に帰るんだが君はどこか行くのかい？方向から見るとしぃちゃんの家かな」　#空想の街 #秒針は止まらない #デコ少年と平凡少女