サツバツ・ナイト・バイ・ナイト #4

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

同時刻。マルノウチ・スゴイタカイビル屋上。 26

2012-05-06 20:11:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

西のガーゴイルの口に右手を引っ掛け、ビル壁面にロッククライミングめいた姿勢で張り付く男あり。両足は壁を地面のように固く踏みしめ、左手は大気やエテルやニンジャソウルの流れを感じ取る感覚蝕腕のように脱力して垂れ下がり風に揺れる。ニンジャ装束は赤黒。口元のメンポには「忍」「殺」。 27

2012-05-06 20:17:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

数年前、このビルの中階層でサツバツたる惨劇が起こった。マルノウチ抗争である。そして彼、ニンジャスレイヤーが生まれたのだ。このビルは彼の妻子の墓標であり、彼はいわばその墓守である。暗黒非合法探偵の仕事を開始してからも、彼は夜毎、必ずこのテリトリーへと戻った。そしてザゼンした。 28

2012-05-06 20:21:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ソウカイヤが健在であった頃は、彼の首を狙い、絶え間なく刺客が送り込まれてきたものだ。ラオモトの命を受けた実力者もいれば、昇給を狙う無謀なサンシタもいた。だが、それも昔の話だ。いまや、ネオサイタマの死神にしてソウカイヤの破滅と呼ばれ恐れられる彼に、敢えて戦いを挑む者は少ない。 29

2012-05-06 20:27:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

メンポと覆面の狭間に覗くニンジャスレイヤーの鋭い眼は、西の方角を睨みつけていた。彼方にはニチョーム・ストリート。今宵は空の様子がおかしい。軍用機がいつになく多い。飛行ルートが変更されているのか。湾岸警備隊の大型武装ツェッペリンが、カイジュウめいた巨体で曇天を西へ泳ぐ。不穏。 30

2012-05-06 20:35:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブブブン、ブブブン、と覚束ない羽音を鳴らしながら、バイオアブが飛んできてカラスに啄ばまれた。この高さまで虫が昇ることは、実際珍しい。インセクツ・オーメン……不吉な報せを意味する、平安時代のコトワザだ。詩聖ミヤモト・マサシに死の予兆を伝えたのも、アブとハチであったと伝わる。 31

2012-05-06 20:48:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは、静かにチャドー呼吸を繰り返す。そして動かず。ニチョームが襲撃される確証は、未だ無い。この状態で動けば、逆に彼らを危険に晒す。ネザークイーンの政治力は高い。それを信じよう。ソウカイヤ、ザイバツ、アマクダリ……三組織に不可侵条約を結ばせてきた、その手腕を。 32

2012-05-06 20:59:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが、この胸騒ぎは何だ?」フジキドはそう口に出していた。ソウカイヤの刺客、ヒュージシュリケンとアースクエイクによってドラゴン・ドージョーを破壊された、あの夜の記憶がフィードバックする。だらりと垂れた左手が、湧き上がるカラテによって固く握り締められた。 33

2012-05-06 21:06:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはシャチホコ・ガーゴイルの上に飛び乗り、アグラ・メディテーションの姿勢を取った。チャドーの呼吸を続ける。ドラゴン・ゲンドーソーの教えを反芻する……次いで、私立探偵タカギ・ガンドーの教えを……。フジキド・ケンジは眼を閉じ、しばし沈思黙考した。風が吹きぬけた。 34

2012-05-06 21:10:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

同時刻。ニチョーム・ストリート38番地。「本格派な」「心呼ぶ」「エモーショーン」などのロマンスを重点した清楚なノボリが立ち並ぶ、ハードレズビアン・ゴシックポルノショップ「フラ・ダ・リ」のショウウインドウ前。 36

2012-05-06 21:33:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニチョームの深みに達しかけていた6人の無軌道大学生らも、ゼン・トランス前で鳴り響いたバンの激突音、そして雑踏の間に野火の如く広がる緊張感に気付いた。彼らは特殊性癖の持ち主ではない。このストリートを歩く若者の多くは、怖いもの見たさで集う、彼らのようなノーマル者たちだ。 37

2012-05-06 21:47:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

6人のうち3人は男子、3人は女子である。「コワーイ!」「スゴイコワーイ!」女学生はTVプログラムや映画から学んだキンタロアメ的言葉を吐く。「「ダイッジョブダッテ!」」白のサイバーポロシャツから精悍な腕を覗かせる2人の男子が、軽薄な儀式めいた定型文で笑い、彼女らを抱き寄せる。 38

2012-05-06 21:54:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

女子大学生のもう一人……アサリはまだ入部したばかりで、困惑している様子だ「……あ、危ないんじゃないですか?物騒な場所だって聞きましたけど……」「ダイッジョブダッテ!」もう一人の男子先輩が笑う。しかしアサリの反応が思わしくないため、知恵を振り絞った。「僕はカラテ10段だ!」 39

2012-05-06 22:02:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの真面目だったアサリが、何故このようないかがわしい街で、しかも無軌道大学生らと行動を共にしているのか?……親友ヤモト・コキと別離した後、大学へと進学した彼女は、何か奇跡めいた巡り会わせを求めてオリガミ部を探した。だが不運にも、アサリの進学した大学にオリガミ部は存在しない。 40

2012-05-06 22:09:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オリガミ部を作ろうかとも思ったが、入学早々からそんな目立つ行動を取れば、即ムラハチだ。しばらく燻っていた彼女だが、いつまでも高校生めいたオボコ・アトモスフィアを漂わせていては、友達ができないのではないかと恐れ、運動部に入ることにした。体を動かせば悩みも晴れるかと考えたのだ。 41

2012-05-06 22:13:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ALAS!ここで彼女は、ネオサイタマの大学に広く存在する暗黒トラップに引っ掛かってしまったのだ。中学時代にケマリの経験があった彼女はケマリ部に入部した。何故かケマリ部が2つ学内に存在することに気付かぬまま。1ヶ月経っても何故かケマリは行われず、代わりにこの歓迎会に誘われた。 42

2012-05-06 22:23:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

変わらなくちゃ。もう高校生じゃない。新しい友達ができるかもしれない。無邪気にもそう考えたアサリは、これまでの自分から一歩踏み出すために、思い切ってライトサイバーゴス系ブランド「電動」で全身を固め、今夜の歓迎会に参加した。無論、その容姿はぎこちない……傍目にも、自分自身でも。 43

2012-05-06 22:31:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「チャメシ・インシデントさ!僕らが守る!ヤクザだってカラテで倒す!サムライ!」男子先輩が笑う。雑踏も落ち着きを取り戻してきた。「でも」顔を上げたアサリは、男子先輩の背後に映るオブツダンとセンコウのどぎつい猥褻動画を思わず直視してしまい、大型サイバーサングラスの下で赤面した。 44

2012-05-06 22:48:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アサリ=サンってスゴイマジメだよね、頭が良さそう」「もしかして、アタシ達、スゴイバカに見えてるかな?アサリ=サン、高校時代、何部?」「オリガミ部……」「「マジメー!」」無軌道女子大学生らが笑った。アサリは足が震えてきた。何か自分は間違ってしまったのではないか?ムラハチか? 45

2012-05-06 22:52:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあまあ仲良くしようよ!ユウジョウ重点!お酒が足りないんだ」最年長のジョックス男子が、サイバーグラスの下で白い歯を覗かせながら笑った。その言葉に、アサリは何かを抉られる感覚を覚えた。「僕らでもお酒が飲める店があるはずだよ……ほら、あそこなんてどう?……えっと……絵馴染?」 46

2012-05-06 23:01:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2012-05-06 23:02:07