【ここまできても】福間健二 k2factory02
ここまできても、夜は夜。やすらぐ草原をそっと横切り、千の目に見守られながら、言葉も交わしたことのない人を恋しく思う。夢の踊り場。いちばん敏感な部分に舌をつけようとして引っぱたかれる。でも、あわてない。呼吸をラクにして、ビートをとって。(ここまできても1) #k2factory02
2012-05-10 06:23:55一、二、三、四って、ミッシーのどの曲だった? トンネルが脈打つこの夜のどこかで、だれかがふとってふとって階段を転げおちる夢を見ている。そのいきおいで反抒情の空を飛んでしまえ。何がこわれる。人を追いつめて許す装置、大きなものから順番に。(ここまできても2) #k2factory02
2012-05-11 08:09:47いま、なにかするときのぼくの遅さに苛立つもうひとりのぼくが大きくした、きたない、きたない溝。そこで身をかがめてふるえる、物語を失った連結器たち。でも、この夜の匂い、光、音。勝負はまださ。笑う脊椎、一番から十二番まで数えられる?(ここまできても3) #k2factory02
2012-05-12 09:16:48知っている顔。でも、だれなのか。その瞳に映るトンネルの壁を背中から抜けるとそこはぼんやりと明るい「世界」。だれのクレパス、だれの感受性、だれの無意識が描いたのか。体が浮いて、透明になって、やばい! 心を見せない大泥棒に夜を盗まれた。(ここまできても4) #k2factory02
2012-05-13 08:27:02地上には、花。散って、無理に笑みをつくるヒロインの、土色の誤解とせつない努力。ぼくの姿が見えないのは、体を空色に塗っているからだと気づく。変装と脱走の名人に教えてもらった方法。マッシュルーム工場ではじまった恋を思い出しても有効か?(ここまできても5) #k2factory02
2012-05-14 08:00:59その恋を編集して、主人公が破滅しても終わらない物語にする。いま、なにかをするということ。あるいは、なにかをしないということ。報いられない線は、「世界」を撫でる手を失っても悲しくないことが悲しいと言った。朝になれば別な線を追っている。(ここまできても6) #k2factory02
2012-05-15 07:42:06めざめる。いつも部分的に。いいことじゃないとしても、夢のなかで会った顔の、目のイメージが残った。放浪する者の目。子ども時分から慣れていた鳩、山猫、補導員たちのつくる、単純でも複雑でもない構造から脱出し、そのあとの記憶を失っている目。(ここまできても7) #k2factory02
2012-05-16 09:21:49それ以上、それを追わないで、朝の日課。散歩する。いつもすれちがう人たち。あいさつなし。少しずつわかりかけていることがあって、ぼくは、この数日、左膝が痛い。やってくるものを想像しながら、かわいい夢を見る「男性詩」。何を塗って何を隠した?(ここまできても8) #k2factory02
2012-05-17 06:27:03散歩から戻り、朝ごはん。トースト、ジャム入りヨーグルト、コーヒー。朝の連続ドラマ「梅ちゃん先生」。新聞の、高橋是清の物語も読む。がんばるなあ、破滅しない主人公たち。回想と観察。でも、生きなおしていい過去はない。ここまできても、朝は朝。(ここまできても9) #k2factory02
2012-05-18 07:54:24夜は千の目をもち、朝は砂漠だ。見えてくる、隠れているもの。溝から這いだした連結器が言う。「きょうは何したらいい?」聞きたいのはぼくの方だ。「何してくれる?」「長い散歩に行こう」「でも、ちょっと膝がね」「大丈夫、背骨を笑わせて歩けば」(ここまできても10) #k2factory02
2012-05-19 08:31:00