アメリカ法上の法執行(逮捕)における有形力の行使について

ヨシュア・ドレスラー著、星周一郎訳「アメリカ刑法」(レクシスネクシスジャパン、平成20年)413頁~425頁から、アメリカ法上の法執行(逮捕)における有形力の行使についてまとめてみました。なお、ここでは、自己防衛、他人防衛、財産防衛、住居防衛等には触れていません。また、警察官による逮捕行為が主たる対象となっており、私人による逮捕や、犯罪防止(現に行われている犯罪を阻止する行為)については限定的に触れています。投稿者には英米法の素養経験は特にありませんので、引用の趣旨、全体の理解が誤っている可能性もありますがご了承ください。
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penben @penben2020

おそらくもっと適切な書籍があると思うが、手持ちのドレスラー著・星訳「アメリカ刑法」(レクシスネクシス、平成20年)を参照してみる。

2012-06-05 19:50:32
penben @penben2020

同書413頁。14世紀までの初期コモンローでは、法執行官は、何らかの重罪を犯したと法執行官が合理的に確信した者に対して、生命に関わる有形力を行使する権利があった(おそらく、義務ですらあった)。

2012-06-05 19:53:06
penben @penben2020

法執行官は、たとえ生命に関わる有形力が、重罪犯人を拘置するために不必要であったとしても、重罪犯人を殺すことが正当化された。この極端なアプローチは、重罪犯人は社会と戦いを交える無法者であるとする前提に基づいたものであった。

2012-06-05 19:54:11
penben @penben2020

しかし、このルールは修正された。「必要性」という要素が、現在ではこの抗弁の構成要素として含まれている。それゆえ、生命に関わる有形力は、最終手段としてのみ許される。ただし、被疑者が犯した重罪は暴力的なものに限られず、かつ、

2012-06-05 19:58:12
penben @penben2020

逮捕するか逃亡するのを防ぐために必要であると相当な理由を持って確信した場合には、生命に関わる有形力を行使することができる。対象犯罪が暴力的でないものも含まれている点で、通常の「犯罪防止の歳の生命に関わる有形力の行使に関する通常のコモン・ロー上のルール」よりも、範囲は広い。

2012-06-05 19:59:42
penben @penben2020

なお、以上は警察官(法執行官)の行為に関するルールであり、私人についても、一定の要件の下で、重罪犯人を逮捕するために生命に関わる有形力を行使することもできるが、認められる範囲は警察官に認められるものよりも狭い。

2012-06-05 20:01:14
penben @penben2020

しかし、こうしたコモンロー上のルールは、批判を受けてきた。その理由はいくつかある。1.銃撃戦に巻き込まれ、罪のない者をあまりにも頻繁に殺害しまたは重傷を負わせすぎているというものである。傍観者に対する統計的研究はほとんどないのであるが、4都市の新聞記事から得られたデータに基づいた

2012-06-05 20:03:19
penben @penben2020

ある研究によると、報道された殺害事件または傷害事件の数は1977年から1988年にかけて著しく増加し、2年間に4都市で250人の傍観者が殺害されるか重傷を負わされた。

2012-06-05 20:04:44
penben @penben2020

また、警察官が生命に関わる有形力を行使することが、警察とコミュニティーとの関係に好ましからざる影響を与えることもある。この問題は二つある。2.警察官による発砲は、人種的理由に動機づけられているように見えることもある。

2012-06-05 20:10:00
penben @penben2020

人種的マイノリティの間には、警察官とマイノリティコミュニティとの間の軋轢が主たる原因となって警察官の行動が濫用的であるとの確信があるとの実証研究や、白人コミュニティと非白人コミュニティとの間には、警察官の有形力の行使に対して著しい姿勢の相違があることを示す研究がある。

2012-06-05 20:10:05
penben @penben2020

3.また、警察官による発砲は、「すぐに発砲したがる」法執行官の行為の帰結だと思われることもある。ある研究は、1989年におけるおよそ700件の銃撃に関する報告書を再検討したところ、警察官は「ジョン・ウェイン・シンドローム」に陥っており、

2012-06-05 20:12:10
penben @penben2020

それらの事案のうち75%では、不適切に武器を発砲していたと報告されている。

2012-06-05 20:12:14
penben @penben2020

さらに、前述のコモンロー上のルールに対する批判者は、ルールの根底にある正当化根拠、つまり、「重罪犯人は、必要性の有無に関わらず、いつでもその生命を奪取することのできる無法者である」という前提が欠けているし、

2012-06-05 20:16:29
penben @penben2020

謀殺罪のみが死刑になりうる(必要的ではない)現在では、重罪犯人の生命を剥奪することは必須ではないから、街頭での「死刑執行」は、必然的な手続を単に迅速化しただけである(剥奪理論)ということはできない。

2012-06-05 20:17:26
penben @penben2020

おそらくこうした批判の帰結として、アメリカの大多数の都市における法執行当局は、1970年代の終わり頃から、警察官の武器の使用を、死ないし重大な身体傷害が加えられるおそれがある状況に限定するという政策を展開し始めた。

2012-06-05 20:19:39
penben @penben2020

この転換は、1985年には、Tennessee v. Gerner事件連邦最高裁判決で注目されることになった。

2012-06-05 20:23:33
penben @penben2020

同事件は、不法目的侵入が疑われた15歳の少年がその現場で警察官に追跡され、18メートルの高さのフェンスの下でうずくまり、その段階で警察官は少年が武器を持っていないことを「合理的に確実」であると判断した。ところが、

2012-06-05 20:24:08
penben @penben2020

少年がフェンスを登りだしたので、警察官は、フェンスを越えたら身柄拘束を免れることになると考え、「警察だ、止まれ」と叫んだが、少年は止まらなかったので、警察官が発砲し、少年にあたって死亡した、というものである。

2012-06-05 20:24:15
penben @penben2020

テネシー州法では、「何らかの重罪(不法目的侵入はこれに該当する)で被疑者を逮捕するために生命に関わる有形力を行使する」ことは正当化されるため、警察官の行為は正当であると考えられた。

2012-06-05 20:27:21
penben @penben2020

しかし、少年の家族は、警察官の少年に対する生命に関わる有形力の行使は、「不合理な捜索および押収」を禁止する合衆国憲法修正4条に違反するとして連邦訴訟を提起した。

2012-06-05 20:27:25
penben @penben2020

連邦最高裁判所は、警察官は、逮捕を遂行するために生命に関わる有形力を行使した場合、1.被疑者が警察官または他人を死ないし重大な身体傷害の著しい脅威にさらしていると確信したことに、相当な理由があり、さらに

2012-06-05 20:29:30
penben @penben2020

2.生命に関わる有形力が、逮捕するか逃亡を防止するために必要であるというのでない限り、不合理な捜索および押収を禁止する修正4条に違反する、と判断した。

2012-06-05 20:31:37
penben @penben2020

必要性という要素に関しては、実行可能であれば、生命に関わる有形力を行使する前に被疑者に対して警告が与えられなければならない。また、前述の第1の条件は、

2012-06-05 20:35:03
penben @penben2020

「被疑者が武器で警察官を威嚇した場合、または、重大な身体傷害を加えることに関係する犯罪を犯したか、または、重大な身体傷害を加えることに関係する犯罪を犯したか、それを加えると脅迫したと確信すべきことに、相当の理由がある場合」に充足される。

2012-06-05 20:35:10
penben @penben2020

以上が判決の判旨である。連邦最高裁は、被疑者の利益と社会の利益を比較衡量し、「すべての重罪犯人が死亡することは、それらの者が逃亡することよりも望ましいというわけではない」「警察官は、被疑者に発砲して死亡させてまで、武器を持たず危険でない被疑者の身柄を抑えることはできない」とした。

2012-06-05 20:37:29