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トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
書籍 文学 ニンジャスレイヤー
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NJSLYR / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
第2部「キョート殺伐都市」より 「トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア」#2
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キョート城敷地内に建つ幽閉塔の一室。オーガニック・タタミが敷き詰められ、虜囚のリラクゼーション効果を高める。床の間、チャブ、掛け軸……物々しい特殊合金製の小窓を除けば、最高級オイラン旅館を思わせる広々とした作り。スシを食し終えたユカノは、安らぎフートンの中に横たわっていた。 1
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五枚重ねのフートン・マットレスはニルヴァーナの如き優しさで彼女の身体を包み込み、トンボの墨絵と「安らぎ」のショドーが繰り返された最上級フートンが羽のような軽さと温かさで彼女を抱いている。ショウジ戸を挟んだ廊下にはボンボリの柔らかい灯りが揺れ、番のニンジャが巻物を読んでいた。 2
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ジジジ、と何かが焼け焦げる小さな音。蛾がボンボリの中に飛び込んだのだろうか。一瞬だけ赤さを増した炎がショウジ越しに忍び込み、「不如帰」と書かれたショドーに格子型の影を落とす。ユカノのニューロンに去来するのは、パラゴンに告げられた言葉と、老朽ディスクめいて断片化した自らの記憶。 3
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(((……マルノウチ抗争の目的のひとつは、他ならぬ貴女だった……)))響くパラゴンの声。ユカノは天井を見上げ、逃げ場の無い迷路を彷徨うかのように、木目の道を目で追った。見事な木目のヒノキ一枚板が右から左へと続き、少しだけパターンの異なった板材が、その上下にループしている。 4
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(((パラゴンの言葉は毒だ……私を混乱させようとしている……平安時代から生きているなどと……)))ユカノは残響を否定する。記憶を手繰る。記憶のレイヤを下る。シャドー・コン。イッキ・ウチコワシ闘志時代。アワビの森。ドラゴン・ドージョー……秘密を守るために何度かその場所を変えた。 5
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テツオ……フジキド・ケンジ……サラマンダー……アンサラー……ドラゴン・ゲンドーソー……時系列を遡るたびに脳内映像の粒子は粗くなるが、縁者たちの顔が順にソーマト・リコールする。何の破綻も無い。ユカノは安堵の息をつく。これこそが自分だと。だが次の瞬間には、別の戦慄が彼女を襲った。 6
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数名の弟子の顔が続き、しばしの空白。若い男の顔。名前すら知らぬ父親だろうか、とユカノは考えた。だが、ニューロンは無慈悲にも電気信号を伝え、その男がゲンドーソー自身であることを告げた。ユカノは記憶の潜行を止める。実際、その先のレイヤには修復不能なほど断片化された暗い闇があった。 7
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気丈なユカノも心細さを覚えた。何か寄る瀬はないのかと。だがゲンドーソーは死に、サラマンダーは爆発四散した。ならばフジキド・ケンジは……彼はまだ生きているのか?そのはずだ。強大で邪悪なニンジャソウルを憑依させている。容易くは死ぬまい。生き地獄を生きているのだ。その原因は自分に? 8
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ニューロンは混濁を始める。重圧。途端に、猛烈な眠気が襲う。思考停止の甘い誘惑。朝目覚めた時には、全てが解決されているという得体の知れない確信。不甲斐なさに対する怒りが、辛うじてそれに抗う。何か音はないか、と考えた。こんな時に己を鼓舞する楽はないかと。だが何も思い出せなかった。 9
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キョート城、晩餐の間。奴隷オイランたちが弾くパイプオルガンの荘厳な調べの中、ロード・オブ・ザイバツとパラゴンがたった二人で夕食をとる。オーガニック和牛ステーキを切るナイフの音が静かに響く。卓上ボンボリの照明だけが、闇の中に彼らの姿を浮かび上がらせる。 11
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「ムフォーフォーフォー……」顔を露にしたロードは、銀製のフォークで肉の一枚を口元へ運ぶ。ほとんど歯を噛み合わさずとも、肉は口の中で溶けてしまう。最高級の和牛は、肉の味をいつまでも愉しみたいと願うカチグミ老人たちのためにバイオ品種改良を重ねられ、冒涜的なまでの柔らかさを誇る。 12
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「パラゴンよ、あのユカノとやら……我らが捜し求めていたフィメール・リアルニンジャに相違ないのだな?」「いかにも、マイロード」パラゴンが恭しく答える。彼はギルド内でロードの素顔を知る唯一の下僕である。そしてその事実すらも秘匿されているのだ。「ムフォーフォーフォー、苦しうない」 13
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「ムフォーフォーフォー……絶滅したとばかり思っておったが……結局はアラクニッドの……占いの通りであったか。……記憶はどうか?」「戻っておりませんが、支障はありますまい。いざとなれば、力づくで事を運びますゆえ……」「ムフォーフォーフォー……ムフォーフォーフォーフォー……!」 14
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ユカノは正座し、反省していた。自分が神話級ニンジャであったとしても、ゲンドーソーの孫娘であったとしても、運命に流され不甲斐ない姿を晒していることに変わりはないのだと。「ここは気分が滅入ります、何か音楽を」そう告げると、不夜番をしていた青二才のニンジャは慌てて階下へ向かった。 16
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ユカノは息をついた。眠っていたならば、目覚めた時には別人のように変わり果てているのではないかという、漠然とした不安があったからだ。その直後、大鴉が小窓の外に舞い降りたのかと、彼女は錯覚した。平安ゴシック様式めいた、刺々しい小窓の外に。だが実際には、虚無僧笠のニンジャだった。 17
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いくつもクナイ・ベルトを巻いたその年若きニンジャ……シャドウウィーヴは、シツレイにならぬよう奥ゆかしい足どりで再び階段を登った。ユカノの見張りは当初ダークニンジャに任せられていたが、ゲンドーソーの仇である彼がいらぬ刺激にならぬようにと、シャドウウィーヴにマルナゲされたのだ。 19
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「奴隷オイランの奏でる曲はお嫌いと申しておりましたので……」シャドウウィーヴはショウジ戸の前で正座しながら言った。そして正しい作法でショウジ戸の端を少しだけ開き、赤漆塗りのオーガニック木籠を差し入れると、すぐに戸を閉じた。「……これは?」「笛と、小さいオコトと、タイコです」 20
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「私に自分で奏でろと?」ユカノは思わず笑った。先程までの思い詰めた悲愴な雰囲気が消え、いくぶん人間らしくなっていた。大鴉はすでに、影も形もなく消えていた。「シ、シツレイだったでしょうか」シャドウウィーヴは焦った。ダークニンジャから与えられた栄誉ある任務に、泥を塗ったのかと。 21
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「普通、貴方が奏でるものでしょう」「私にそのような才能はありません……御座いません故……」シャドウウィーヴは畏まった。「おや、これは……?」ユカノは何か黒い電子機器を見つける。スイッチを捻ると、サイバーテクノが流れ始めた。「レディオも入れておきました」「気が利いていますね」 22
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ユカノは気晴らしにチューニング・ダイアルを回す。激しいノイズ交じりの音楽やニュース、ペケロッパ・カルトの違法煽情放送などが聞こえた。シャドウウィーヴはこれを手柄と考え、胸を撫で下ろした。そしてこの任務の責任の重さと、己の衝動の間に強い葛藤を覚えた後、堪えきれずにこう聞いた。 23
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「醜いものでしょう、ガイオンは……人間社会は。腐臭を放つ骸です。吐気がするほど汚くおぞましい、一度焼き払われるべき世界なのです。理想世界のために。……どうか、シツレイでなければ教えてください、貴女の眼から夜はどんな色に見えているのか。人間社会は、どれほど下劣に見えるのかを」 24
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コメント

オスツ🍣 @alohakun 2012年6月18日
トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア #1 http://togetter.com/li/318236 トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア #3 http://togetter.com/li/322623
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