子ゾンビまとめ

最近道端で野良ゾンビによく会うなあと思ったので即興で書いて流したのをまとめたった
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🍞小麦粉🍞 @ymnxxxxx

学校の帰り道。雨の中壊れかけの傘を振り回して歩いてたら、段ボールに入った子ゾンビが俺を見上げてた。喋れないみたい。片足が無くて、もぞもぞと身を捩らせてじっと俺を見てた。「…うちのマンション、ゾンビ禁止だから…だから…」人間の言葉がわかるわけもないのに、何言い訳してんだ俺

2012-06-21 00:28:53
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ゾンビでも寒いのかな。子ゾンビの少し窪んだ目に、なんか責められてるような気がして。「壊れてるけど…」振り回して骨が突き出た傘を、そっと子ゾンビを覆うように置いた。もぞもぞもぞ。「え、え…なに?」お母さんに、野良ゾンビは汚いから触っちゃだめよって言われてたのに。

2012-06-21 00:32:41
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「エ"ェ"ェゥ"」喉にあいた穴から変な音が漏れた。「何お前、しゃべってるの?」身を乗り出した勢いで、俺の腕を掴んでいた子ゾンビの指がぽろりと落ちた。けいれんかもしれないけど、でも、カクリと首を縦に振った。「…俺の言葉わかる?」こくり「ほんとに?」こくり「………すげえ」

2012-06-21 00:37:52
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人間の言葉がわかるゾンビがいるなんて!興奮してつい、俺からがっしりと腐った手を握り締めてしまった。「すごいよお前!テレビとか出れんじゃねえ?ははは」硬直してるのかぴくりとも表情は動かないけど、少しすかすかの首を傾げた子ゾンビもなんだか楽しそう。

2012-06-21 00:43:18
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どうしよう、持って帰りたい。うちで飼いたい。隣のクラスの克明がゾンビ沢山飼ってて、羨ましかったんだ。でもうちのマンションはゾンビ禁止だし、クリーニングして許可証貰わないと駄目だけどそもそも金ないし。でも、無理、絶対親父怒る…

2012-06-21 00:48:10
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まだゾンビが人間を食べてた時代、爺ちゃんはゾンビに襲われて死んだんだって親父が言ってた。この国は腐ってるんだって。親父が野良ゾンビを見かけたら石を投げつけてるのを俺は知ってる。ゾンビ愛護団体にバレたらまずいから、誰にも言ったことはないけど。

2012-06-21 00:53:26
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ほんとは知ってる。ゾンビが、ゾンビは最初人間だったんだって。でもそれは言っちゃいけない真実だ。それを隠すような教育を、歴史の勉強を俺たちは受けてきた。俺がまだ小さい時に、叔母さんがこっそり本当のことを教えてくれた。爺ちゃんを襲ったゾンビが、元は、婆ちゃんだったって。

2012-06-21 00:57:26
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聞いた時、俺はすごく悲しくなって泣いてしまった。「…誰かに言ったらお前、多分酷い目にあうよな…」やっぱり家に連れて帰っちゃ駄目だ。他の誰かに見つかったら、駄目だ。窪んだまぶたから覗いた目が俺を見てる。張り付いた髪を撫でたら、頭皮が少しずり落ちた。

2012-06-21 01:02:47
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感情があるなんてそんな筈ないのに、俺がそっと手を離すと子ゾンビは悲しそうに空気を漏らした。「可哀想だけど、俺はお前を飼ってやれないんだよ。ごめん。でも…隠すことなら、出来るから」びしょ濡れになるのも構わずに、俺はゾンビをゆっくり抱き上げた

2012-06-21 01:07:49
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内臓がないのに重い。「う…どぶの匂いがする…」ごとん、と残っていた足が落ちた。それを拾わず、傘もおきっぱなしで俺はふらつきながら歩きだす。適当に折り畳まれてた子ゾンビの手が、俺の首にまわされる。腐った肉がべちょりとして本当に気持ち悪い。くすくす笑うと、また空気が漏れる音がした

2012-06-21 01:14:29
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ぽろぽろと肉片を幾つか落としながら、ようやく廃都市のビルについた。「ここなら大丈夫、誰もよりつかないよ…」床にゾンビを置いた俺は小さな棚に腰掛けた。ここはペットショップと言うらしい。昔、ゾンビを飼ってなかった頃は犬や猫を飼っていたんだと。食べ物を飼うなんておかしな時代だったんだな

2012-06-21 01:22:38
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「まるでゾンビショップみたいだなあ」俺が見回すと、ゾンビも頷きながらけいれんした。外はもう真っ暗で、雨の音しか聞こえない。「…まあ、これでお前、大丈夫だよ。誰かに撃たれたり、解剖されたりしないからさ」よかったじゃん。そう言って笑いかけても、白みがかった目はまばたき一つしない

2012-06-21 01:27:32
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「…何で何も言わないんだよ」「ここまで連れて来たじゃん」「だって…うちじゃあ本当に飼えなくて…」「だから、仕方なくて…」いつまでもここにいられない。俺は帰らなくちゃいけない。可哀想だったから、俺は出来る限りの事をしてやったんだ。可哀想だったから。

2012-06-21 01:33:03
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気付いたら俺は泣いてた。びしょびしょの髪から垂れたんじゃない水滴が乾いた床に幾つもしみを作ってく。わかってる。わかってるんだ。俺は、可哀想なこいつに優しくしてやってなんかいないんだ

2012-06-21 01:36:44
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こいつの身は安全かもしれない。こいつは一人じゃ立てないけど、崩れない限り床の上でもぞもぞしてられる。何も食べないで平気だからここに置いといても大丈夫。渇いて干からびても、死なない。何日も何週間も何ヶ月も何年も。ずっと、死ねない。

2012-06-21 01:41:41
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「俺って残酷だよね」こいつが本当は何年存在しているのかも俺は知らない。子ゾンビは、いつまでも子ゾンビのまま。一生コンクリ剥き出しの天井を見続けてろって言ってるようなもんだ。世話出来ないからって、こうして安全な所に隠しにくるのが優しさなはずがないだろ

2012-06-21 01:45:34
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「エッウ"エ"エェ…」涙でにじんで見えなくてごしごしと手の甲でこすったら、子ゾンビはかくかくと首を横に振ってた。はずみで頬を流れた雨水が、涙みたいに見える。「ちょ…あんま動くと駄目だろ?お前、腐ってんだから、もげちまうよ」それでも首を振るから、近寄って手で頭を押さえつけた

2012-06-21 01:52:31
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おとなしくなった子ゾンビはごきげんなのか、喉を鳴らしながらまぶたをけいれんさせる。「…まったくお前は、もう…」つい笑ってしまった。ますますこいつと離れづらくなってきてる。克明がゾンビを家族みたいだって言ってた時は馬鹿にしてたはずなのに。「…帰りたくないよ…」

2012-06-21 01:58:24
🍞小麦粉🍞 @ymnxxxxx

もうすぐ夜が来る。飼いゾンビは夜になると、外を出歩いちゃいけないことになってる。そして人間も。何故なら、ゾンビは夜に特殊な建物以外の場所にいると凶暴化して人を食べてしまうからだ。だからゾンビ避けが出来てないうちのマンションは、シェルターの中にある

2012-06-21 02:03:36
🍞小麦粉🍞 @ymnxxxxx

そして今俺たちがいる廃都市も昔ゾンビに襲われて消えたシェルター外の隔離区域だ。「こんなにちっさいけどお前も人間を食べるのか?」子ゾンビは俺の手を頭に乗せたままゆっくり首を横に振る。「なんだあ、お前になら食べられてもいいって思ったのに……うそだってば」

2012-06-21 02:08:16
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なんかちっさい子供が怒るみたいな、そんな目で見られた気がして慌ててうそだって言った。ぽんぽんと額を撫でると、ふすー、と空気が抜ける。何も言わないこいつ。一人でぺちゃくちゃ話す俺。短いようで長い時間が、心地よかった。

2012-06-21 02:11:41
🍞小麦粉🍞 @ymnxxxxx

どれくらいの時間がたったかわからないけど、遠くから聞こえたサイレンに肩がはねた。あと30分。あと30分で日が暮れてしまう合図だ。はっとして子ゾンビを見たら、薄暗い中で子ゾンビは俺の手をぎゅっと握ってきた。中指のだいにかんせつから先が、崩壊した

2012-06-21 02:17:55
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白い目が俺を見てる。それを見てる俺も子ゾンビを見てるんだから、お互い見つめ合ってたんだろう。「うん?」何か言いたがってるみたいに思ったんだ。だからしわしわの手が俺の手を動かしても、俺はなんも言わなかった。こいつには腐った血しか流れてないから、めちゃくちゃ冷たい

2012-06-21 02:23:44
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子ゾンビは握っていないほうの手で何か探すみたいに床をまさぐった。手だけばたばたと動かすのはさすがにちょっとホラーかも。しばらくそうしていて、いきなり何かが床を摺る音がした。手に掴んだらしい何か。それをゆっくりと、俺の手に握らせようとしているみたいだった

2012-06-21 02:30:01
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「わ、」それが何かわかって手を放そうとした瞬間、強い力で握り込まれた。「なに、なんなの…」割れたガラス。分厚いから俺が握ってる所は全然けがしないですむんだけど、先は、きっと刺さるととても痛い。「…待って、待ってよ…待ってってば!俺に何させようとしてんだよ!」

2012-06-21 02:35:54