「春琴抄」まとめ

W大学某講義の簡易説明
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野菜 @Dannymydog

今日は谷崎潤一郎「春琴抄」、この人は“好きこそものの上手なれ”を地で行く、ヘンタイの中のヘンタイだから、みんなもこの人の小説読んで勉強しようぜっていう

2010-06-29 22:20:35
野菜 @Dannymydog

1.コンバンハ、今日は谷崎潤一郎の「春琴抄」についてやります。

2010-06-29 22:21:32
野菜 @Dannymydog

2.信者乙、とか思うかもしれないけど、この作品は日本文学史における最高峰の作品です。もし、各国の文学者を戦わせて優劣をつけるとしたら、日本の代表は間違いなくこの人。フランスには勝てないかもしれないけど、全く勝負にならないレベルではない。そのくらいのスゴさと言ったら分かるかな?

2010-06-29 22:22:01
野菜 @Dannymydog

3.皆さんも、「母国語で谷崎の小説が読めるという幸せ」を噛みしめて欲しい。

2010-06-29 22:22:19
野菜 @Dannymydog

4.さて、前置きはここら辺でやめにして解説に移ろう。読んでない人の為に簡単に内容を説明すると、薬問屋の盲目の娘と、そこに丁稚奉公に出た主人公の恋愛物語って感じかな。谷崎の小説は主題自体は単純なの、でも文体は鬼ムズカシイので、そこに先ず“ギャップ”がある。

2010-06-29 22:23:30
野菜 @Dannymydog

5.その文体の難しさを完全に使いこなしているのは、ひとえに谷崎の言語力からくるものでしょう。なんと、こいつは15才で英語で「プラトン全集」読んでます。これは夏目漱石なんかと同じです

2010-06-29 22:24:07
野菜 @Dannymydog

6.谷崎の小説はある基本概念の上に立っています。それすなわち“偽+悪=美”というものです。カントの提唱する“真=善=美”と対照的ですね。(ちなみに、三島なんかも“偽+悪=美”のタイプです)

2010-06-29 22:24:57
野菜 @Dannymydog

7.谷崎は小説の中で、主人公の立場を貶めることによって好きな女性を神格化し、マゾヒズムを通して「外部としての女」を発見した作家です。

2010-06-29 22:25:35
野菜 @Dannymydog

8.ここで言う“マゾヒズム”は、皆さんが想像するSMのそれなんかとは少し違う。「えむえむっ!」の砂戸太郎はあくまで、“素材論的次元”のマゾであって、この「春琴抄」における主人公=佐助とヒロイン=春琴の関係は“精神主義的次元”にとどまっている。

2010-06-29 22:26:15
野菜 @Dannymydog

9.しかし、谷崎の“小説”としてのマゾヒズムはその二つのマゾのどちらとも違う、“形態論的次元”におり、この次元ではSとMは非対称になる。(参考文献として、ドゥルーズの「マゾッホとサド」を読むことをお勧めする)

2010-06-29 22:26:44
野菜 @Dannymydog

10.先ず、サディストの特徴として、「・性急であること・累加すること・直截的であること」等が挙げられる。ここから“対象の破壊”(拘束、拷問、殺害)へとつながる。この時、加虐の対象を見る“視線”が特徴的で、そこには一定の“距離”が置かれる。

2010-06-29 22:27:19
野菜 @Dannymydog

11.マルキ・ド・サドの言葉に「人間の最も自然な状態は“肉塊”であることだ」というのがある。これに例を見るように、サディストは距離によって対象を物質化するのである。(最終的には殺すことによって“物質化”)

2010-06-29 22:27:55
野菜 @Dannymydog

12.一方マゾヒストの特徴は「・遅延させること・宙吊りにすること・迂回すること」等が挙げられ、それによって時間の潤色化がなされる。方法としては“約束や契約を交わす”等があり、マゾヒストは対象を“遠ざけながら近づける”のである。総じて彼らは“間接的”なのだ。

2010-06-29 22:28:52
野菜 @Dannymydog

13.そして、その“間接性”こそがそのまま“言葉”の特徴でもある。言葉に触れるということはそもそも“マゾい”ことだったのである。

2010-06-29 22:29:24
野菜 @Dannymydog

14.ちなみに、マゾヒストが感じる手段として最も重用するのが“触覚”で、ここへと物語の鍵“盲目であること”は繋がるわけだ。

2010-06-29 22:29:58
野菜 @Dannymydog

15.「春琴抄」の文章は、{「私」という第三者の登場→照女が語る伝聞・偽書←これに対する「私」の考証という形で描かれている。実にまわりくどい。そして、文体は日本回帰擬古典とでも言うべきとも言うべき難解なもの。これが先程言った“形態論的マゾヒズム”小説の正体だ

2010-06-29 22:30:55
野菜 @Dannymydog

16.しかし、単にややこしいだけではダメ。例えば「盲目物語」を見て欲しい。これは全編“ひらがな”のみで書かれていて、非常にややこしい。はっきり言って読めたもんじゃない。これでは遠ざけながら“近づけて”ない。

2010-06-29 22:31:13
野菜 @Dannymydog

17.遠ざけながら近づける、そのために谷崎は“奥ゆかしさ”というものを使った。詳しくは“谷崎潤一郎「陰翳礼讃」”を読むことをお勧めする。まあ、身も蓋もないことを言ってしまうと、ややこしいのに分り易い(生々しい)のは、結局のところ谷崎の才能なのねん

2010-06-29 22:31:43
野菜 @Dannymydog

18.最後に、内容の細かいところをちょっとやってそろそろお終いにするよ。スタンスとして、極力ネタバレはしないようにするけど、どうしようもない所は勘弁してね

2010-06-29 22:32:07
野菜 @Dannymydog

19.先ず、作品の“外”と“内”の関係について。春琴抄の舞台は1800年代の大阪で、ヒロインの春琴はそこの問屋の娘だったね、日本史をやってる人ならピンときたかもしれないけど、これは“大塩平八郎の乱(1837年)”とモロに被ってる。平八郎は大阪の問屋を襲ったよね?

2010-06-29 22:32:52
野菜 @Dannymydog

20.この幕府を揺るがす大事件は、小説の中に全く描かれていない。これこそが“盲目の主題”で、テクストの外にある現実的な出来事を見ないということ、これは事実上、「谷崎潤一郎の芸術至上宣言」ともとれる。そして同じことが「細雪」でも言える

2010-06-29 22:33:59
野菜 @Dannymydog

21.ここで若干のネタバレをさせてもらう、物語の終わりの方で、春琴が何者かに襲われて顔がゴニョゴニョになっちゃうよね?第三者の「私」は春琴のことを恨めしく思った第三者の犯行だろうと類推しているけど、まだ断定はされていない。果たして、春琴がケガして一番特をしたのは誰かな?

2010-06-29 22:34:46
野菜 @Dannymydog

22.こういう想像の余地も「春琴抄」には残されているわけですよ。だんだんと谷崎が読みたくなってきましたか?

2010-06-29 22:35:08
野菜 @Dannymydog

23.あ、先日の三島との関係を忘れてました。

2010-06-29 22:35:25
野菜 @Dannymydog

24.簡単に言うと、「谷崎の小説は迂遠さが特徴」なのに対して、「三島の小説は直接的なのが特徴」ということ。三島は村上春樹なんかと同じで、文章が分り易い。だから外人はハルキムラカミやユキオミシマを絶賛するわりに、タニザキを読まない。いや寧ろ“読めない”

2010-06-29 22:36:15