ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/06/29

今日読んだついのべの中から個人的にお気に入りの作品を選んでみました。 ついのべ #twnovel とはツイッター小説、つまり140文字以内で書かれた短いお話です。
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雪月 @setugetufuka

夜になると仔羊が来る。「僕と遊んで」と私の夢の中を走り回るから、おかげで毎晩寝た気がしない。 #twnovel 急に羊が来なくなった。ゆっくり寝られる筈が、なんだか寂しい。眠れずにいると羊の声がした。「今日は眠り誘い隊として来たよ。柵を飛び越えられるようになったんだ。僕を数えて」

2012-06-29 00:18:50
汐見一穂 @ipposhiomi

真新しい手はあまりにも小さかったから、傷つけてしまいやしないかと思った途端に触れることさえできなくなってしまった。戸惑う僕の想いを知ってか知らずか、彼が僕の手に触れる。親指を握るのが精一杯な小さな手。これからよろしくという、これはきっと彼からの握手なのだ。 #twnovel

2012-06-29 00:44:05
にゃおっく @_nyaok

#twnovel 日暮れて、山の女神はゆったりと身を横たえた。豊かな谷間からこぼれ落ちた髪は脈々と川を為す。緑は芽吹く。彼女は海を眺めていたが、今は睫毛を露に濡らし静かに寝息を立てたまま。うたた寝の間に星は流れ、鳥や虫や獣が行き交う。果実は生る。艶やかな唇に、巡る季節の花が咲く。

2012-06-29 00:55:59
layback @laybacks

タバコの煙がきれいな輪になってプカプカと浮かんでいます。それを見てドーナツは言いました。君はいいな。どうして? 空を飛べるなんて素敵じゃないか。すぐに消えちゃうんだぜ。それでもぼくたちよりは全然いいよ。ドーナツがはき出したため息は、きれいな透明の輪になりました。 #twnovel

2012-06-29 01:42:00
にわとりとり @niwatori29

彼女の寝言に返事をし続けていたせいで、彼女は完全に狂ってしまった。夢と現実の区別がなくなり、起きていても夢みたいなことを話す。「お赤飯干さなきゃ」「うん」「海、い」「うん」「はさみ」「うん」。そして彼女は静かに眠る。僕には寝てる君と起きてる君の区別がつかない。 #twnovel

2012-06-29 02:06:19
女子高生風タチバナ @Tachibanashi

真夜中に目が覚めた。しかしどうにもおかしい。時計の形、ベッド脇の本の題名。部屋の中が少し違う。どうやら夢の中らしい。妙に目が冴えており、そのまま夢の中で起きていた。そのまま夢の中で普段通りの生活をしていた。結婚をして子を成した。もう50年ほど夢から覚めない。 #twnovel

2012-06-29 03:09:25
あまたす @amatasu

書くというのは魔法だよ。心は見えないが、書けばそれが誰にでも見えるんだから。若い頃に文筆家を志していた祖父は、それが口癖だった。その祖父の形見分けで、私は万年筆と原稿用紙をもらった。次の日、気がつくと原稿用紙は文字で埋まっていた。そこには確かに祖父の心があった。 #twnovel

2012-06-29 03:20:58
銭喰 @zeniqui

#twnovel ウサギを一羽二羽と数えるのは、その昔彼らには翼が生えていたからだ。素早い脚に臆病ゆえ明晰な頭脳と多くの知識を取り入れる大きな耳。そこに大空を制す翼もあったウサギを人は畏れて、鮫をけしかけ翼を奪わせ、ウサギの権力者を月に追放した。今夜も彼らは、月から我々を見ている

2012-06-29 07:35:45
キヨシロウ @kiyoshiro_aoi

#twnovel 失恋してぽっかり空いた心の穴から部品がひとつ転げ落ちて、彼女の心は揺れ動かなくなった。僕は彼女がなくした部品の替りになろうと決心した。初めは軋むだけだった心も少しずつ動きだし、やがて彼女は新しい恋に出会った。よかった。役目を終えた代替品の僕は彼女の心から消えた。

2012-06-29 11:04:52
Hiroyuki inoue @hiro_kinako

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今から駅で人身事故が起き、丸一日運休になると教えてくれた。じゃあ出掛けるのやめる。バイト休む口実になるし。そう言うと彼は首を振った。「お前が出掛けなければ事故は起きないぞ」

2012-06-29 11:42:07
正井/文フリ東京し-43〜44 @kelmscott_masai

書を読む事を禁じられた娘がいる。娘の巨人的想像力が夜寝床を抜け出して世界を作り変えるからだ。巷には世界のヴァリアントが溢れ、娘はまたそれを読んだ。「心配ない」と校訂に追われる司書が笑う。「そのうち索引ができます」と。すでにこの世にはナポレオンが存在しない。 #twnovel

2012-06-29 18:09:48
birdboiled @birdboiled

#twnovel 夜の森の奥に、旅人が倒れていた。夜の気を吸いすぎたんだろう。そりにのせ、森の外へ月砂の道を戻る。木陰に寝かせ、木漏れ日をすくって口の中に注ぐ。喉に流れ込んだ日の光にむせて、旅人は夜の気を吐きだし、薄く目を開いた。「夢をみていた」いや、夢になるところだった、だよ。

2012-06-29 18:53:56
すわぞ @suwazo

#twnovel 姉さまの嫁入りが決まった。夏になったら、山を降りてヒトの集落へゆく。そこの若長が姉さまの夫になる。「兄さまの血すじを助けてやりたいもの」と姉さまは笑う。淋しいけれど仕方ない。三百年前にヒトになって山を降りた兄さまの、孫の孫の孫に、姉さまもヒトになって嫁いでゆく。

2012-06-29 18:55:47
おはなし手帖 @ohanasitecho

【紙】 紙売りから「いたずらなまでに白い紙」を買った。 太陽みたいに白い紙。最初に何を書こうか描こうか。 迷った末に真夜中のインクで音符をひとつ。 記したすぐに紙は跳ねて道へ飛び出す。 あわてて追いかけると音符の紙は踊りながら紙売りのポケットへするりと入った。 #twnovel

2012-06-29 19:07:19
ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

最初に猫になったのは君だったか。段々と猫でいる日が増え、人の男女として会うこともなくなった。僕が人でいるのも今日が最後だろう。君が産むかわいい子猫の父猫になれるのが嬉しい。このペンを置いたら窓を開けに行く。二匹は窓から出てゆき、二度とこの家に帰らない。 #twnovel

2012-06-29 19:31:22
あまね @gyakumei

#twnovel 囚人が30人逃げ出し、38人が連れ戻された。よくよく囚人の身元を確認してみると、逃げ出した囚人はそのうち15人だけだったので、間違えて収監した23人を釈放したが、釈放するはずの5人がまだ刑務所内に残っており他の囚人に身分を売ったという。さて逃げ出した囚人は何人?

2012-06-29 20:44:27
藍 真史 @shin1960

#twnovel 男は自分の人生を記録し続けていた。若い頃から毎日日記をつけた。パソコンや携帯電話が普及すると記録には写真や音声が加わった。ある日男は愕然とした。自分の最後を記録する事は不可能だ。僕の記録にピリオドを打ってくれませんか。このプロポーズにこたえる女性は未だにいない。

2012-06-29 20:59:30
七歩 @naholograph

蛙の子は蛙。言葉の意味に悲しくなって、蛙は鷹を産みました。蛙の子は鷹。蛙が鷹を産む。可愛いわが子を愛しく見つめ、母蛙はふと思います。例えこの子が何者だって今と変わらず愛せたわ。私は何を憂いていたの?それが全てのはずなのに。悟る蛙を鷹は咥えて空へと消えていきました。#twnovel

2012-06-29 21:16:07
@sakula511

#twnovel 彼は誰とでも楽しく過ごせる人だ。気づけば人懐っこい笑顔で話題の中心にいる。嫉妬するのは愚かなこと。分かっているのにどうしようもない。「あんなやつ」何度口にしても彼を嫌いになる呪文にはならない。「あんなやつ」そうつぶやいた分だけ、私は彼を好きになる。

2012-06-29 21:56:08
roardel @roardel

王家の生き残りは私たち姉妹だけ。姉の私は男に負けじと帝王学を学び、鎧兜に身を包んで王国を守った。なのに臣民が崇めるのは浮名を流す我が妹。何たる不条理。が、彼女が男児をなした時、私は知った。王の第一の責務は、王の血筋を絶やさないことだと。無人の大広間で私は泣いた。 #twnovel

2012-06-29 22:14:57
(ゆないキズト) @Kyzt__

「月の眼が私達を見てるわ」ベランダに立って、彼女は言った。「月に眼があるなんて、初めて知ったよ」僕は話を合わせた。「あの眼が私達を見ている限り、地球は危機なのよ。私達は自由になれないの」「…部屋に入ろう」僕は彼女に促す。彼女は素直に従った。確かに私達は不自由だ。 #twnovel

2012-06-29 23:19:59
いでゆのまち @ideimachi

#twnovel 元気よすぎる江戸っ子の妻に閉口し、かぶる猫を買った。使うと嘘のようにしおらしい。猫をくたりと頭に、三つ指ついて僕を迎える。憧れの亭主関白を始めた。でも…何か足りない毎日。やっぱり猫を外した。「ご飯できたよ!」溌剌と笑顔の妻。うなずいて僕も笑う。猫は床で大あくび。

2012-06-29 23:32:06
水木ナオ @nayotaf

殺風景な部屋だった。布団も無いとぼやいたら、キングサイズのベッドが入った。料理も出来ないと呟いたら、食材と調理道具が揃った。着の身着のままと嘆いたら、クローゼットが服で溢れた。酒が飲みたいと零したら、一升瓶がずらり並んだ。ここから出たいと叫んだら、足を斬られた。 #twnovel

2012-06-29 23:38:05