山本七平botまとめ/「アントニーの詐術⑥」/~集団ヒステリーを起こさす「問いかけ・一体感」の詐術とは?~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/アントニーの詐術/101頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】ここでアントニーの原則の「②問いかけの詐術」に入ろう。一体「問いかけ」とは何であろうか。原則からいえば「自分に理解不明のことをだれかに質問すること」が問いかけのはずである。<『ある異常体験者の偏見』

2012-06-30 07:21:28
山本七平bot @yamamoto7hei

2】従ってアントニーとアンチ・アントニーが並立していて、聴衆がどちらを正しいと判定しているかわからない時には、アントニーが聴衆に問いかけてもおかしくない。

2012-06-30 07:58:30
山本七平bot @yamamoto7hei

3】しかしアントニーは、一方向に向って、一定の基準で編集した事実を並べ、それで聴衆の判断を規制して、一定の方向へ導こうとしているのだから「問いかけ」なぞある筈はない――しかし問いかけている。用心した方がいい、こういうあやしげに問いかけをする者は必ず扇動者なのだから。

2012-06-30 08:22:21
山本七平bot @yamamoto7hei

4】「①編集の詐術」はまだいい、しかし②が加わったら必ず扇動者である。一体この「問いかけ」の実体は何であろうか。簡単にいえば、実はそれは「問いかけ」でなく、わざと結論をいわないことによって、聴衆の「判定の規制」を誘発する方法なのである。

2012-06-30 08:58:22
山本七平bot @yamamoto7hei

5】このアントニー型の「問いかけ」は、絶対に「質問」と同一視してはならない。いうまでもなく、一定方向に編集された「事実」は既に一種の「並列的な」「確定要素」の「連続」になっている。そしてその一つ一つの「事実」は確定要素という点では、数字と同様な動かしがたい要素となっている。

2012-06-30 09:21:15
山本七平bot @yamamoto7hei

6】従って事実+事実+事実……という図式は1+1+1という形に似ているわけである。1+1=2は子供でもわかることだが、これをわざと「1+1ではないでしょうか?」という言い方をする。これが詐術なのである。

2012-06-30 09:58:17
山本七平bot @yamamoto7hei

7】聴衆は内心で「2だ」とする。ところがこの場合、2以外の答えは出ない。しかし聴衆は「自分で、自分の自由意思で、自分で判断して、自分で結論を出した」と錯覚するのである。そしてその錯覚を見とどけてから「更にプラス1ではないでしょうか」と「問いかけ」る。聴衆は「3だ」と結論を出す。

2012-06-30 10:21:29
山本七平bot @yamamoto7hei

8】このようにして次々と「更にこの事実があります」「更にこの事実があり」即ち「プラス1、更にプラス1」という言い方をし、その間に「例え〝一方的″な様に見えても、事実をただ述べていくとそういう結果が出てきてしまうのは当然ではないでしょうか」といってそのときの総計を相手に確認させる。

2012-06-30 10:58:26
山本七平bot @yamamoto7hei

9】聴衆は自分で確認したのだから、この総計は自分で動かせなくなる。そうやっていくと数字の総計はついに臨界値に達し、そこで連鎖反応を起し、ついに爆発するわけである。

2012-06-30 11:21:23
山本七平bot @yamamoto7hei

10】ところがここにアンチ・アントニーがいるとそうはいかない。アントニーが「1+1ではないでしょうか?」というとすぐアンチ・アントニーはそれに反する事実をあげて「(-1)+(-1)ではないでしょうか?」というからである。従ってこれをいわれては扇動者はどうにもならない

2012-06-30 11:58:18
山本七平bot @yamamoto7hei

11】そこで、アンチ・アントニーを黙らすため、あらゆる手段をとるのである。その一つがいわゆる「きめつけ」「レッテルはり」「罵詈讒謗」「ダマレー」等で、これは軍人的断言法の直接話法の一つの型だが、実は最も拙劣な例で、立派(?)な軍人はもっと巧みであった。

2012-06-30 12:21:52
山本七平bot @yamamoto7hei

12】ここまでくれば後は起爆剤があればよい。そして起爆剤の役をするのが③一体感の詐術である。もっともこの③は大体①編集の詐術②問いかけの詐術と並行して用意されていく。ただこの一体感の詐術は軍隊では殆ど必要がない。一団の人間が共通して死に直面すれば否応なく一体感を持たざるをえない。

2012-06-30 12:58:37
山本七平bot @yamamoto7hei

13】またマニラや南京の法廷の場合も同じである。傍聴人ははじめから被害者と一体感をもっている。そこで、前述のように扇動という意思が、裁判官、検事に全くなく、従って③が欠落していても、扇動されたと同じ結果になってしまうのである。従って「大久保清」の裁判ではこういう状態にはならない。

2012-06-30 13:21:47
山本七平bot @yamamoto7hei

14】なぜなら被害者と傍聴人は、全く一体感がないからである。これが前に、こういう状態にはならない場合もあるといった理由である。アントニーの場合は、群衆は、その前にブルータスの演説をきいているから、被害者シーザーとの間に何の一体感もなく、いわば文字通り「傍聴人」なのである。

2012-06-30 13:58:28
山本七平bot @yamamoto7hei

15】従っていかにして一体感を錯覚さすかということが、アントニーにとって最も重要な点であり、また実はこれが、扇動の最も重要な点なのである。言うまでもなく殺されたのはシーザーであって群衆でない。その証拠に群衆はアントニーの演説を聞いているわけである。

2012-06-30 14:21:40
山本七平bot @yamamoto7hei

16】だがただ聞いているだけでは何のエネルギーも起らないから、②「問いかけ」によって彼らに自分で判断し、自分で結論を出したかのような錯覚を抱かせるべく判断を規制すると共に、更にこれに対し「シーザーの痛みを痛みとし」「殺されたシーザーの側に立ち」自分達は何の被害もうけていない(続

2012-06-30 14:58:21
山本七平bot @yamamoto7hei

17】続>安全地帯の第三者なのに、あたかも「シーザーの被害は自分たちの被害」であるかのように思いこませ、そこで「殺された側に立つ」と錯覚させ、それによって「生きている」のに「シーザーの死を自分の死」と感じて、その死を払いのけようと、シーザーの加害者へと殺到する。

2012-06-30 15:21:27
山本七平bot @yamamoto7hei

18】それを自らの意思と決断で行ったように思わせる為「問いかけ」で誘導する、という方法がとられるわけである。アントニーはまず「遺言状」の内容をほのめかし、シーザーの遺産相続人が「ローマ市民」であるような、ないような、それを読むような、読まないような態度で皆の注意をひきつけ、(続

2012-06-30 15:58:15
山本七平bot @yamamoto7hei

19】続>「遺産相続者」という事で、群衆を「第三者」ではなくしてしまい、まず一体感の第一歩へと引き入れてしまう。そうしておいて、まず着衣の上からシーザーの傷口を一つ一つ説明し、誰がこれを刺し、誰がここを突き、と説明していって、まるで群衆が自分が刺されたかのように錯覚して、(続

2012-06-30 16:21:37
山本七平bot @yamamoto7hei

20】続>「シーザーの痛みを自分の痛み」と感じてきたところで、いきなりその着衣をはぎとって「ごらんあれ、これこそ彼自身、これこの通り反逆者どもによって斬りきざまれたシーザーを……」といって死体そのものを示す。すると全員が「殺されたシーザーの側に立つ」結果になる。

2012-06-30 16:58:26
山本七平bot @yamamoto7hei

21】この辺がいわば「殺人ゲーム的ハイライト」だが「創作記事」でもあれだけの集団ヒステリー状態になるのだから、実物を見せられれば、爆発寸前になるのが当然であろう。ところがアントニーはここでわざと群集を抑える。

2012-06-30 17:21:53
山本七平bot @yamamoto7hei

22】抑えれば抑えるほど爆発力は大きくなるから、まずブルータスを弁護するような、しないようなことをいって「彼らの声を聞こうではありませんか」といったまことに「民主的?」な詐術の問いかけをする。

2012-06-30 17:58:18
山本七平bot @yamamoto7hei

23】ついでそれに対しては「シーザーの傷口に語らせよう」といい、いわば、アントニーと群衆の間のやりとりが一種の増幅装置のようになって、集団ヒステリー的一体感を極限までもりあげ、そこで最後に、じらしにじらした「遺言状」を公開して、シーザーは全財産を諸君に寄付し、(続

2012-06-30 18:21:48
山本七平bot @yamamoto7hei

24】続>それは子々孫々まで諸君のものだ、といって両者を「一体にし」、そうやって群衆を、一斉にブルータスとその一党に殺到させるのである。これが「③一体感の詐術」であって、ここに扇動は完了し、群衆は「自分の意思」で行動し、アントニーは身を隠してしまう。

2012-06-30 18:58:19
山本七平bot @yamamoto7hei

25】人間が集団ヒステリー状態になる一番大きな原因は「共通する死への恐怖」である。これに直面すると、人々は時間の前後がわからなくなり「危険があった、死があった」という事と「危険が来る、死ぬかも知れぬ」という事との差がわからなくなる

2012-06-30 19:22:21