山本七平botまとめ/「アントニーの詐術⑥」/~集団ヒステリーを起こさす「問いかけ・一体感」の詐術とは?~
- yamamoto7hei
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26】一番良い例が関東大震災で、表へとび出して恐怖に震えている人は生きている、生きているから恐怖している、死者は恐怖を感ずることさえない。自分が恐怖しているのは生きている証拠でそして屋根の下でないから、死は既に過ぎ去った、危険はまぬかれた、ということは理屈ではわかっていても、(続
2012-06-30 19:58:2427】続>人の死を目前にし、その人を死に至らしめた恐怖を共感して、死者との「一体感」が成立すると、その「死の恐怖への共感と死者との一体感」が、逆に、自分の死が目前に迫ったような錯覚になり、その目前に迫った死の恐怖から逸れようとして集団ヒステリー状態になり、(続
2012-06-30 20:21:5328】続>その「架空の迫った死の恐怖」を排除しようとして、その「死」を連想させる者を排除しようとする。その為「シナという名をその胸からえぐり出し」「山本という名を消す為、同姓の者を絞首台に送る」という結果になる。そして③一体感の詐術とは、この関係を人為的に起させる論理なのである。
2012-06-30 20:58:1829】それはアントニーの演説に余すところなく記されている。イギリス人は一番「扇動」に乗りにくい民族だという話をきいたが、こういうものを小さい頃から読ませられれば、確かに扇動されにくくなるだろう。
2012-06-30 21:21:5030】余りにその実体が見事に描かれているから、これさえ知っていれば誰かが扇動しようとしても、その実体はすぐ見破ることができるであろう。…扇動されにくい、という事が彼らを「発令者が全責任を負う明確な命令でなければ動かない」者にしたのであろう。しかし日本軍はそうではなかった。
2012-06-30 21:58:1831】そしてそれが、戦犯という問題になると「命令された」「いや、命令は、していない」という押問答になってしまう。これは結局、群衆はアントニーに命令されたのかどうか、という問題と非常に似てくるのである。
2012-06-30 22:21:4932】以上が「扇動の論理」または扇動者がそれを意識しない場合には「軍人的断言法の迂説的話法」の概要だが、こういう状態をもう全く飽き飽きするほど見せつけられ、その度に、殺したり、殺されたり、ぶら下げたり、ぶら下げられたり、という状態に接してきた人間には、(続
2012-06-30 22:58:3033】続>これはもうどうにもならないのではないかという、一種の暗い絶望感に襲われることもある。…ラジオからまことに幼椎きわまる見えすいた「アントニーの論理」が流れ出てきて、その「アントニーの劣等生」のような人間の演説でさえ、また時にはシェークスピアが吹き出しそうな演説にさえ、(続
2012-06-30 23:21:3434】続>人々がワッと騒ぎ出す声を聞くと、その騒ぎの中から「シナか、なに、別人のシナか。かまうもんか、シナなら殺してしまえ」「砲兵も憲兵もあるもんか、山本ならぶら下げてしまえ」という声がきこえてきて、「もう、こりゃ、ダメなんだ」という気さえする。
2012-06-30 23:58:2035】「殺される側に立つ」という錯覚で自分の殺人や暴行を正当化しては、人は人を殺し続けて来た――『百人斬り競争』はその典型ではないか。「『南京大虐殺』のまぼろし」の上に、その仕上げとして、向井・野田両少尉の死体を積みあげたのは、結局、日本人自身ではないか。
2012-07-01 00:21:0936】そしてそれを防ごうとした人間は、結局、中国人の隆文元氏だけではないか。こういう人を見ると私は一瞬ホッとして「大丈夫だ、人間はまだ大丈夫だ、こういう人がいるのだから」という気がする。
2012-07-01 00:58:3137】一体、扇動された集団ヒステリーの謎とは何なのか、それは、動物的恐怖なのである。いわば「判断停止」の「馬の目」をしながら、異状なエネルギーはもっている状態なのである。その顔を見てきた者には、そのときの顔を見ればわかる。
2012-07-01 01:21:5238】そしてこの動物的恐怖に対抗しうるものは、別の形の動物的恐怖による応酬ではなくて、結局、隆文元氏のもっていたような「人間の勇気」しかないのである。確かに、それしかない。(終わり)
2012-07-01 01:58:16