山本七平botまとめ/「アントニーの詐術④」/~集団ヒステリーに対峙することの難しさ~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/アントニーの詐術/91頁以降より抜粋引用。
5
山本七平bot @yamamoto7hei

1】虚報『百人斬り競争』のため処刑された野田少尉の「遺書」を読むと、南京の軍事法廷もこれらと非常に似た雰囲気であったことがわかる。<『ある異常体験者の偏見』

2014-05-25 15:21:04
山本七平bot @yamamoto7hei

2】私はこの雰囲気をある程度知っているだけに、向井・野田両少尉の中国人弁護人隆文元氏には、ただただ感嘆するとともに、全く偉い人もいたものだと思い、一種「まいった」という気になってしまった。 …ただただこういう人が本当に勇気のある人なんだなあー、と思い、頭を下げた。

2014-05-25 15:21:46
山本七平bot @yamamoto7hei

3】同一所属、同一役柄、同姓といった理由で人を処刑されることは許されるのか、 それは正しいことなのか。 私の念頭からは常に「シナ」が離れない―― 「ちがいます、私は砲兵の山本で憲兵の山本ではありません」 「砲兵でも憲兵でもかまわない、絞首台にぶら下げろ」

2014-05-25 15:22:49
山本七平bot @yamamoto7hei

4】チッソの係長が土下座をさせられている写真を見る。 チッソは今では日本軍である。 確かに水俣病の患者は恐るべき被害をうけた人達である。 しかしマニラの市民も恐らく南京の市民も多分それより…恐ろしい被害をうけている。 その係長はかつての私のように加害者集団の同一所属なのだ。

2014-05-25 15:24:47
山本七平bot @yamamoto7hei

5】「チッソの山本」かも知れぬ。 ではこの「チッソの山本」を土下座さす権利が誰にあるのか、 あるというなら「砲兵の山本」を絞首台にぶら下げる権利が誰かにあったのか。 あると思う人はあると言っていい。 ただ自分がその立場に立たされたとき、逃げてはいけない。

2014-05-25 15:25:42
山本七平bot @yamamoto7hei

6】土下座させられているチッソの係長の傍らに立って、見るも痛ましい被害者の方を向き、またその被害者の側に立つという人々の怒号のただ中にあって 「あなた方は被害者であっても、この人を土下座さす権利はない」 といい切る勇気のない人間、顔をそむけ、見て見ないふりをして(続

2014-05-25 15:26:51
山本七平bot @yamamoto7hei

7】続>その傍らを通りすぎる人間、いやそれどころか、被害者の後ろから大声をあげて正義家ぶっている人間には、この隆文元氏の勇気は想像する事もできないであろう。 そして想像することも出来ないから、氏の「申弁書」を読み、野田少尉の「遺書」を読んでも誰も何も感じないのであろう。

2014-05-25 15:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

8】考えてみられるがよい。 その地は南京である。 公開の法廷には黒山のように群衆が集まっている。 その殆どが自分の親子兄弟を殺された人々である。 その前に向井・野田の二少尉が立つ。 面白半分に『殺人ゲーム』を行い、次々に人を殺して数をきそった男、(続

2014-05-25 15:28:36
山本七平bot @yamamoto7hei

9】続>人々の目は大久保清や森恒夫を見る群衆の顔よりすごい―― なぜなら、彼らはそのようにして自分の親子兄弟が、なぐさみのため殺されたと信じているのだ、 日本の新聞が報じたのだから、それは動かすことのできない証拠であって、はじめから「自白」しているに等しい。

2014-05-25 15:29:23
山本七平bot @yamamoto7hei

10】その傍らに立って、その二人を弁護するのが、それがどんなに勇気のいることか。 到底、土下座させられたチッソの係長の傍らに立つ比ではない。

2014-05-25 15:29:59
山本七平bot @yamamoto7hei

11】それは立場を逆転させて、 もし今アメリカ人がこのような事を日本人にし、その二人が日本の法廷に立たされ、傍聴席がその遺族で埋まった場合どうなるか、 を想像されればよい。 いや、朝日新聞にあの『殺人ゲーム』が報じられた時の一種の集団ヒステリー的状態を思い浮べられればよい。

2014-05-25 15:31:05
山本七平bot @yamamoto7hei

12】その時ですら、二人を弁護できた日本人が一人でもいたか―― 幸い、いた。 『「南京大虐殺」のまぼろし』の著者鈴木明氏である。 いれば良い。 たとえ一人でもいればそれでいい。 一人いたということと一人もいなかったということは、実は、数の差でなく絶対的な差だからである。

2014-05-25 15:32:24
山本七平bot @yamamoto7hei

13】マニラのことを思い、南京を連想し、また『殺人ゲーム』報道時のことを思えば、集団ヒステリーの攻撃にさらされたとき、これに対抗することが実に困難なことはわかる。 何しろ剛直なブルータスが逃げ出したのだから――。

2014-05-25 15:33:08
山本七平bot @yamamoto7hei

14】従って軍隊がこれを逆用して攻撃に使えば…実に強く、これに対抗する事は非常に難しい事は誰にでもわかるであろう。 そして これが実に「命令」以上に強い拘束力をもちながら「一兵に至るまで」自らの意思で突撃しているので、命令されているのではない という錯覚を抱かすのである。

2014-05-25 15:34:35
山本七平bot @yamamoto7hei

15】従って全員が「自主的」「自発的」に死地へ飛び込んでいるような形になるわけである。 そして同じように自主的・自発的に捕虜を殺したり住民を殺害したりした者が、さて戦争が終って「戦犯」となると―― そして 「誰の命令でやったか」 と問われるとどうも何か変で(続

2014-05-25 15:35:56
山本七平bot @yamamoto7hei

16】続>「誰かに命令された」筈なのだが、 実は、だれも「命令は、していない」 というまことに奇妙なことになってしまうのである。

2014-05-25 15:36:37
山本七平bot @yamamoto7hei

17】何しろ当時はアメリカ人は全部「鬼畜」で、アメリカ兵は「獣兵」で、現地の対米協力者というのはいわば「チッソ」で、親英米派はその「係長」のようなものだから、よってたかって、撲ったり、蹴ったり、土下座させたり、殺したりするのは当たり前の事としている者が圧倒的多数であった。

2014-05-25 15:37:24
山本七平bot @yamamoto7hei

18】何しろ戦場では兵士や下級幹部は双方とも確かに被害者で、バタバタ殺され手がとび足がとび、頭が変になり病気になったり餓死したりしている。従って自分達は被害者だから加害者にそれ位するのは当たり前だと思っている。だがその瞬間、自分が同じ様な加害者になっているのに気づかないのである。

2014-05-25 20:21:37
山本七平bot @yamamoto7hei

19】この関係は、戦場にいくと非常にはっきりした形で実に明瞭に出てくる。 銃器をもった人間は、自分はあくまでも人間だと思っている。 そして銃器をもっている相手は猛獣だと思っている。 ところが相手もそう思っている。

2014-05-25 20:23:30
山本七平bot @yamamoto7hei

20】すなわち戦場では、お互いに銃器をもち、お互いに、自分は人間で相手は猛獣だと思っているわけである。 「人は人に狼(ホモ・ホミニ・ルプス)」 という諺はおそらくこの関係を的確に表わしたものであろう。

2014-05-25 20:24:19
山本七平bot @yamamoto7hei

21】だから皆お互いに猛獣に対するような態度で相手に接し、自分は人間で相手は猛獣だと思っていても、その瞬間自分も人間でなく猛獣になっているとは思えないわけである。 従って相手を「鬼畜」といったら、そういった者も「鬼畜」になっていると考えてまずまちがいない。

2014-05-25 21:40:21
山本七平bot @yamamoto7hei

22】いわば「鬼畜」「鬼畜」という事によって自分が「鬼畜」になってしまうから、撲ったり、蹴ったり、上下座させたり、殺したりをいとも平然と正義感にあふれて、堂々とできるようになってしまう。 そして「戦犯」となる。 「誰の命令か」といわれると「さて…」という事になるわけであった。

2014-05-25 21:41:14
山本七平bot @yamamoto7hei

23】そこで私に相談に来るわけだが、私は学生から軍隊へ直行したから何も知らない。 従って皆が相談に来たのは、私か目当てはなく、私のボスにそれとなく聞いて相手の考え方を打診してくれということであったと思う。 私はある事情で米軍将校の私的な仕事をやらされていた。

2014-05-25 21:42:18
山本七平bot @yamamoto7hei

24】最初のボスはL中尉でユダヤ人で本職はニューヨークの弁護士…二代目はS中尉でアイルランド系、本職はカンサスの警察署長であった。 いわば弁護士と警察署長だからこういう人から何かを聞き出してくれれば何とかなるかも知れないと思ったからであろう。 溺れる者はワラでも掴むのである。

2014-05-25 21:43:29
山本七平bot @yamamoto7hei

25】幸い二人とも親切な人だったから、一生懸命いろいろときくのだが、さて、こちらの言うことがさっぱり先方に通じないのである。 …そのとき思い出したのが、学生時代、居眠りしながら聞いた講義の中の「シナ」であった。 謎をとく端緒は、ここにあった。

2014-05-25 21:45:10