“それ”は世界中の全ての人の恨みを一身に背負っていた。“それ”がどれだけ悲劇的な存在であるか知る者は少ない。しかし知っていたとしても、恨みの矛先は変わらず“それ”に向けられたことだろう。 #366days 不条理を前にして、恨みの矛先を向けるべき相手など、抑々存在しないのだから。
2012-07-02 00:09:12予言の日まであと半年。最期の1年を折り返し、多くの者がもう半年しかないと嘆く中、まだ半年もあると嘯く者もいた。けれど半年は、何かを為すにはあまりに短く、何も為さずにしてもきっと短すぎて。 #366days 泣いても笑ってもあと半年。それはきっと、否が応にも生き様を問われる時間。
2012-07-03 02:23:26首相は計画の公表を決断した。公表が早すぎては徒に混乱を煽りかねないが、さりとて遅すぎては意味がない、その計画は――「我々は今、予言の日に備えシェルターの建設を進めています。しかし――収容能力が足りません」 #366days 予言の日に向けた足掻き。全ての人を救うには遠く及ばない。
2012-07-04 01:20:23突如示された選択肢に人々は戸惑っていた。確かにシェルターに引き籠れば、隕石の脅威から逃れられる可能性は高くなる。だが首相はこうも言っていた。「どのシェルターを選ぶかは、皆さんの自由です」 #366days 隕石の落下地点は未だ不明瞭。生き残るための選択も、誤れば死への片道切符に。
2012-07-05 01:00:40賢明な者たちは首相の発言の真意に気付いていた。もし人類の半分を滅ぼす要因が隕石なら、確かにシェルターへの避難は有効だ。しかしそれがもっと別次元のものだとしたら?例えば――未知の病原菌だとしたら? #366days 生き延びるために前提さえ疑え。そんな声なき声を、確かに受け取って。
2012-07-06 01:31:53ネットでは喧々諤々の議論が繰り広げられていた。シェルターに入るべきか否か答えを出せずにいる中、誰かが言った。「どんな未来が訪れようと互いに助け合う――そんな仲間を作りませんか?」 #366days 顔も知らぬ相手だからこそ助け合える。そんな理想が実現できるかどうかはこれから次第。
2012-07-07 01:36:42七夕の夜に皆は奇跡を願った。今日のような日々が、明日も来月も――来年も続きますように。ほんの少し前までそこにあって当然だった未来は、今や暗く鎖されている。だから今日だけは星に願いを。 #366days どれだけ祈っても届かない願いはある。奇跡とは、叶わないからこそ奇跡なのだから。
2012-07-08 01:12:50有権者たちは自らの行動に意義を見出せずにいた。予言の日に死ぬにせよ生き残るにせよ、待ち受けているのはきっと絶望ばかり。ならば今日の投票にどれだけの意味があるのだろう。 #366days 未来は何も変わらないかもしれないし、何か変えられるかもしれない。せめてより良き未来を目指して。
2012-07-09 01:52:16父親が亡くなり、いつまでも落ち込む少年を励ましたくて、少女は少年をギュッと抱きしめた。「辛い時は泣いたっていいんだよ?」初めは驚いた様子だった少年も、やがて少女の腕の中で嗚咽をあげる。 #366days 情けは人のためならず。一番辛い時に支えた人に、気づけば自分が支えられていて。
2012-07-10 00:31:16少年は決して泣くまいと誓っていた。「強く、生きろよ」それが父から貰った最期の言葉だったから。けれど抱きしめてくれる少女がとても温かくて――今だけは、溢れる涙が止められそうにない。 #366days こんな世界でも強く生きたい。そう想う者が弱さを見せるのも、きっと間違いではなくて。
2012-07-11 01:48:13薄情者はこれまで、自分の置かれた状況を辛いと思ったことはなかった。どんな状況であれ、ただあるがままを受け入れる。そこに不満や憤りはない。それは自らの命の刻限を報された時にも変わらなかった。 #366days 世界をただ受け流す。それは楽な生き方であっても、きっと幸せからは程遠い。
2012-07-12 00:22:38幼女は薄情者の生き方を察していた。そしてそれはすごく――寂しい生き方だなと思った。生き方を変えさせるなんて大それたことは言わない。けれどほんの少しでいい。貴方にもらった幸せを、返してあげられないかな? #366days 幸せにしたいと想われること。それだけできっと、望外の幸せで。
2012-07-13 01:08:45「お前さ、学校に来て何かすることあるわけ?」「別に。ていうかお前こそあんのかよ」「ねーけどさー、家にいてもやることねーし」「だよなー」男子高校生たちの夏の日は、こうして過ぎていき―― #366days 世界が変わっても変わらないものもある。たとえ嵐が訪れる前の泡沫の夢だとしても。
2012-07-14 00:44:08ツンデレは散りゆく花火に想いを寄せていた。「咲くまでに時間がかかる割には散る時は一瞬でーーまるで今の私みたいね」自嘲気味に呟く彼女に「たとえそうだとしても、俺は散った花のことも絶対に忘れないよ」幼なじみは告げた。 #twnvday 大切な人を失った世界。それでも何か残ると信じて。
2012-07-14 23:02:36唐変木は悶絶していた。(何を言ってるんだ、昨日の俺!恥ずかしすぎるだろ!)自分の心を偽ったわけではないが、穴があったら入りたいとはこのことだ。それに――(もっと他に、かけてやれる言葉はなかったのか?) #366days 否応なく積み重なる失敗。それもまた、明日を生きる糧の1つで。
2012-07-16 00:54:41花火職人は生涯最期になるであろう花火作りに取り組んでいた。彼が作る花火は荘厳にして優美。原理を突き詰めれば炎色反応を利用した化学に帰結するはずなのに、生み出される芸術は魔法としか思えなくて。 #366days 炎の魔術師が魅せる奇跡。結実するのはほんの一瞬でも、その成果は永遠に。
2012-07-17 01:45:45偽善者は卒なく日々を過ごしていた。死を嘆く人が求めているのは同情。そう悟った彼は、分かりもしない気持ちに共感した振りをしてみせていた。なぜってそれが、誰も傷つけずに済む楽な生き方だから。 #366days 薄っぺらな表情に隠された空虚な心。彼の行為を優しさとは呼ぶ人は誰もいない。
2012-07-18 02:51:28偽悪者は周囲との諍いを引き起こしながら生活していた。彼には余命を宣告された人の気持ちはわからないし、分かった振りをする気にもなれない。だから今日もあえて人々に問い続ける。「そこで諦めていいのかよ?」 #366days 言っていることは間違っていない。さりとて、正しいとも限らない。
2012-07-19 02:28:24役立たずは、自分の不甲斐なさを嘆いた。何も言われなければ動こうとせず、言われたことすら満足にこなせない。こんな自分が生き残るくらいなら、絶対に周りの優秀な人たちが生き残るべきなのに。 #366days 必要以上に自分を卑下するのは、もはや罪悪。せめて胸を張って生きられる生き方を。
2012-07-20 00:12:56球児は白球を追いかけていた。届けと願い伸ばした手を白球は無情にもすり抜け、球場の歓声はどこか遠い世界の出来事のように彼の耳朶を打つ。待ってくれよ、これで終わりだなんて嘘だろ?これが最期の夏なのに。 #366days 勝者の影には必ず敗者。如何な個人の事情も頓着されない、残酷な掟。
2012-07-21 01:05:44橙色の炎が吹き上がり、やや遅れて轟音が響いた時には、カメラマンは夢中でシャッターを切っていた。いつかはこの目で見てみたいと思っていた。それを最期に一目見ることができてよかった。あとはこの感動を形にするだけ。 #366days 切り取られた世界の形。思い出の一瞬を永遠に閉じ込めて。
2012-07-22 01:42:22探偵は遂に怪盗を追い詰めた。捕り逃せば次はない、その一念で掴んだ最期の好機。「ここが年貢の納め時のようだな」歯噛みする怪盗に探偵は――「受け取ってくれ、俺の気持ちだ」彼女のために誂えた指環を差し出した。 #366days なぜ宿敵を愛してしまったのか。それは探偵自身にも解けぬ謎。
2012-07-22 23:45:35怪盗は開いた口が塞がらなかった。確かに探偵からは、他とは違う並々ならぬ熱意を感じていた。でもそれが恋煩いだったなんて誰が予想できる?監獄か人生の墓場か。私はどちらを選ぶべき? #366days 逃走劇の果てに芽生えた感情。どうやら怪盗は、とんでもないのものを盗んでしまったらしい。
2012-07-23 23:53:21恩知らずが受けた恩に報いることはなかった。むしろ恩を仇で返すかのように自己本位な行動が目立つようになっていた。どうせもうすぐ最期を迎えるんだ、今更少しくらい嫌われたって構わないさ。 #366days 最期は1人かもしれない。だからと言って、それが人を裏切っていい理由にはならない。
2012-07-25 01:15:14