ヨウカイスレイヤー第五話より「ファンタズマゴリア・ケイム・フロム・ジゴク」

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ヨウカイスレイヤー・第五話「フラワリング・サツバツ・ナイト」より「ファンタズマゴリア・ケイム・フロム・ジゴク」

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サンズ・リバー。死の淵にある者が見るとされる、そして死者が渡るとされる川。ほとりにはヒガンバナが咲き乱れ、周囲に有毒な匂いを放っている。その付近には霊的な存在が多数浮遊している。当然その川に橋などなく、渡ってジゴクへ行くには死神の操る船に乗らねばならない。1

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ゆえにこの地は年中水の流れる音で包まれており、酔狂な自殺志願者が乗り込んでくる以外にこの地へヨウカイや人間が来ることもない。そんな地に今、三人のヨウカイが集まっている。大きな翼をもつ者と、その片翼程度の背丈の者、そして特徴的な日傘を携える者。三者はサンズ・リバーの対岸を見やる。2

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空を軽く旋回し、地上に降り立ったヨウカイ、アヤ・シャメイマルはその翼を収納し着地。そして何かを言おうとし、口を紡ぐ。不可視のキリング・オーラが、そして目に見える紫色のオーラがそれぞれ発散しており、彼女のヨウカイ判断力がウカツに近付くと実際危険だと察知した。漆黒の羽が舞う。3

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流れる水は透明だが、底の見えぬサンズ・リバー。不意に、カジキめいた魚が水面から飛び出す。その魚は突如空中でがくがくと震えだし、漆黒の羽に体を貫かれると、極細のレーザー光線が直撃し間も無く爆発四散した。その間複数のシャッター音が響いた。死骸はポチャリと落下し、すぐに静寂が戻る。4

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アヤはその場で現像される写真を確認する。サンズ・リバーにはゲンソウキョウや外界にはいない魚が住むとされており、この魚もアヤが見たことのない種であった。アヤはポケットから手帳を取り出し、発見日時や発見場所、そして想像の名前と生態を書き込んでいく。5

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しばらくして、対岸から一艘のボロボロな船が現れた。乗員は二人。巨大な鎌を持つ船頭と、彼女を叱りつけている少女だ。アヤは写真と手帳をしまって立ち上がり、横の二人を見た。相変わらず両者からはオーラが発散されており、話しかけられる雰囲気ではない。三人は船の到着を静かに待つ。6

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やがて船が到着し、二人は地上に降り立つ。特徴的な帽子をかぶり、先ほどまで船頭を叱りつけていた少女がアイサツをする。「ドーモ、皆さん。よく集まってくれました。全員が来るものではないだろうと思っていましたが。ヤマザナドゥです」ヤマザナドゥと名乗った少女が深いオジギをする。7

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「ドーモ……オノヅカ・コマチです」船頭も欠伸を押し殺したアイサツをする。「ドーモ、コマチ＝サン。シキ、いや、ヤマザナドゥ＝サン。アヤ・シャメイマルです」アヤはアイサツを返したが、横の二人はアイサツを返さない。タイヘン・シツレイである。8

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構わずヤマザナドゥが話し始める。「このメンバーで集まるのは実際初めてですか。以前は貴方がいませんでした故……」ヤマザナドゥは小柄なヨウカイを横目で見る。そのヨウカイは憮然とした態度で睨み返し、紫色の息を吐く。「……約束事のまとめ直しとなります」9

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「前任者の権限をすべて受け継ぐという形でよいのでは？」「彼女は生まれてから三年とたっていません。全てを押し付けるには荷が重すぎると判断したまでです」「では私めが幾分か」「ではお任せします」「ヨロコンデー」アヤは二人の無関心さを察し、自らこの面倒な役に名乗りを上げた。10

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コマチと名乗った船頭は立ったまま寝ている。もう一人のヨウカイは黙って木にもたれかかり、俯きながらこれまた眠っている。「欺瞞ね」ヤマザナドゥの口調が威圧感のあるものにかわる。「寝たふりなど。本来あなたが引き受けるべきことですのよ、ユウカ＝サン」ユウカは目を開く。11

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「ハッ！嫌よ。こんな実際アカチャンのオモリなんて」「何を言う貴様！」ゴシックロリータめいた装束に身を包んだ小柄なヨウカイの顔に不快の色が浮かぶ。「ファハハハハ！事実を告げただけじゃない。アナタカワイイんだから、そんな顔してると台無しよ」「……チッ、化物め！」12

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両者の間に今にも実際に火花が飛び散りそうなアトモスフィアが漂う。「ヤるの？若輩者風情が」「ケッ、変態のサディストめ」「そこまでだ、ユウカ＝サン、メディスン＝サン」ヤマザナドゥがたしなめに入る。「……」メディスンと呼ばれた少女は紫色の溜め息を吐き、座った。13

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「……分かったわよ裁判長＝サン、ワタシが引き受けるわ」「本意でないのでしょう？」「アヤ＝サンに任せられないと思ったまでよ」ヤマザナドゥの挑戦的な問いにユウカは邪悪な笑みを浮かべて答えた。アヤは激しい不快感に襲われたが、利害を考え表情に出さないようにして黙った。14

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「さて」ヤマザナドゥが棒めいた物でコマチの額を強打する。「きゃん！」「貴方達は自らに課された罪を晴らし、また罪を裁く私の補佐という役目を果たす為の戦士です。それを忘れぬように」「理解している」「御意」「オ、オーケーボス」「……」15

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「貴方達は試練を乗り越えたが故、この地へ辿り着くことを許されています。その時の覚悟を忘れてはいないでしょうね」「勿論ですぜ、ボス」コマチが不敵に言う。アヤは口元を手で隠し、横目でほかのヨウカイを見る。「……この中に覚悟のない腑抜けはいないはずだわ」メディスンも続けて言う。16

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「ファハハ！覚悟？持ってないわけ無いじゃない」ユウカは愉快そうに笑う。「傲慢は身を滅ぼします。皆さんはその念を忘れず……」「今日はこれで終わりでしょう？あたしは帰るわ」ユウカがヤマザナドゥの演説を遮る。「アナタの説教は長いわ。聞いてられるヒマは無いの」17

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「……良いでしょう。今回の会合は終了とします」ヤマザナドゥは肩をすくめる。ユウカはすでにいない。「ヤマザナドゥ＝サン、ヨロシクドーモ」「ドーモ」メディスンは立ち上がり、アイサツをしなかった非礼をわびるようにオジギをすると、霊と死が渦巻くこの地を去った。18

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「アヤ＝サン、非礼をお許しくださいね」「とんでもありません」アヤはヤマザナドゥの謝罪を受け入れたが、これはタテマエであった。「では私めもこれで」「オタッシャデ」ヤマザナドゥとコマチはアヤが飛び去る姿を見送ると、乗ってきたボロボロの船に再度乗り込んだ。19

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数刻後。太陽の畑。冬が終わろうとしているこの季節には不釣り合いな、バイオヒマワリが咲き乱れている一角。メディスンとユウカはそこにいた。「ファハハ、つれないわね、アカチャンのお人形さん」「ヒマワリは毒が無いから嫌いよ」「……言葉にまで毒があると嫌われるわよ？」「貴方も嫌いだわ」20

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同時刻、サンズ・リバーを渡る船上。「あの状況で惰眠を貪るとはなんたる怠慢！」「スミマセン」「対した働きをしていないのに居眠りとは覚悟が足りませんね」「スミマセン」「だいたい貴方はいつもいつも……」「……」「……聞いていますか？」「ハイ。スミマセンボス」21

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「これから起こる異変は貴方達ダンザイ・シテンノの動きにかかっています」ヤマザナドゥが声を強める。「……六十年ぶりの大仕事です。今こそ、新生シテンノの力を見せつける時が来ました。マッポーの世を正すのです！」「ガンバルゾー！」「ガンバルゾー！」静寂にチャントが響く。22

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同時刻、ハクレイ・シュライン。「ドーモ、レイム＝サン」「帰れ、さもなくばダンマクだ」「アヤヤ、待ってくださいよ。丁度異変の兆候を察知したのでお知らせしようと思ったまでですから」「知らぬ。異変が起きてなければ私が動く必要は無い」「今度オスシソバを奢りますよ」「詳しい話を聞こう」23

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「ファンタズマゴリア・ケイム・フロム・ジゴク」終わり