ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/11

今日読んだついのべの中から個人的にお気に入りの作品を選んでみました。 ついのべ #twnovel とはツイッター小説、つまり140文字以内で書かれた短いお話です。
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@omoigoto

この女性は磁石のようだ、と僕は思った。彼女は僕を導いてくれているように見えて、本当は僕の人間的な、本能的な何かを狂わせているのではないか。「どうかした?」彼女は首を傾げながら、僕に向かってにっこりと微笑む。僕のグラスの氷が静かに音をたてた。 #twnovel

2012-08-11 01:40:49
みお @miobott

#twnovel 手には伝説の刀を、体に伝説の鎧を。まるで狼のごとく猪のごとく敵を屠った彼こそが、伝説の勇者であった。しかし悪の滅びた世界に伝説は不要である。追われ追われた彼は深い森の奥で一本の木となる。「それが儂よ」人の顔に似た古木が、新しい勇者に向かって自嘲気味に呟いた。

2012-08-11 09:32:56
蒲公英 @haruka_tanpopo

ベビーカーの中でぐずる子供を抱き上げ、ショッピングバッグと場所を交代させる。幸福と憂鬱が表裏一体の閉塞感を、夫は知らない。帽子の中の汗は、首筋を辿って背に届いた。どこかに行きたいねとまだ話せぬ子に呟くと、腕の中が指差した先には、まっすぐに伸びる飛行機雲。#twnovel

2012-08-11 11:58:05
@wakuitugumi

#twnovel 一人の老人が「貴方の本ですよ」と白い表紙の本を男に手渡した。男が手にした途端、真っ白だったページに次々と文字が浮かび上がる。目紛るしく繰られるページが最後になった時、男の意識がぷっつりと消えた。落ちた本を広い老人は「ベストセラーになる人生ではなかったね」と呟いた

2012-08-11 15:49:24
すわぞ @suwazo

#twnovel 地球の滅亡は北極から始まった。滅亡前線はゆっくりと南下してきている。聞くところによるとまるきりの虚無だそうだ。ところで、現在、桜前線は逆に北上中である。近所の公園で僕はお茶を飲みながら待っている。願わくばこの樹に、滅亡前線より先に桜前線がたどりつきますように。

2012-08-11 18:54:33
@KizukCQ

#twnovel 都会に嫁いだ私は毎年子供を連れて帰省する。祖父母に次いで隣家の跡取りである幼馴染に挨拶に行くのも恒例の行事だ。「よく来たな!」破顔する幼馴染がよもや他人だなんて子供達は思ってないだろう。でもきっとそれは私も同じ。変わらぬもてなしに私は帰省を肌で実感している。

2012-08-11 19:56:26
竹田康一郎 @tahtaunwa

#twnovel「当機は、地上の視界不良のため、引き返します」乗客達から失望の嘆息。1年ぶりに子供や孫に会えるはずだったのに。「あれを見ろ!」その時、窓外を見ていた乗客が叫んだ。暗い地上に迎え火の列が滑走路をつくっていた。「予定通り着陸を開始します」機内は亡者達の歓声に包まれた。

2012-08-11 20:25:54
銭喰 @zeniqui

#twnovel 甲子園に出場したことがある父は厳しい人だった。家ではいつも小瓶に入った甲子園の土を片手に説教をした。高校に上がり野球を辞めたとき、僕は小瓶の土をこっそり庭の花壇の土と入れ替えた。あの時の僕は全てを父のせいにしたかったのだと思う。今年の夏も、花壇には花が咲いている

2012-08-11 20:47:07
碓地海 @taichiumi

自室の窓から花火を見ていた。ひときわ大きな花火が咲き、残った燐光をぼんやり眺めていると、そのうちのひとつがふわふわとこちらにやってきた。「私、このままだと消えなくちゃいけないの」小さな妖精が上目遣いで言う。戸惑いながらも、僕はその儚い存在を部屋に招き入れた。 #twnovel

2012-08-11 21:02:56