小話／夏風邪ひいたら

佐夜子 @s69_cd

「とりあえず、３日分。薬出しとくから、それ飲ませて大人しくさせとくこった」薬剤の名が記載された画面を、ポインタが動く。カチカチ、とフォルダ内の文字をクリックし、作られる処方箋。「了解した」ちら、とパソコンと目の前の医者を交互に見遣り、頷く。

佐夜子 @s69_cd

「しっかしまぁ…相変わらず仲が良いというか何というか、だな。いつも２人同時に風邪ひいてるだろ」処方箋のデータを受付宛に転送しながら、医者が言う。そして、患者２人の頭を片手でくしゃり、と撫ぜて。「お前さんら、知ってるか？夏風邪は馬鹿がひくもんなんだ」

佐夜子 @s69_cd

その顔には心底意地悪そうな笑みが浮かんでおり。それを目敏く見付けた患者の１人が、すかさず反発する。「ばかは、かんべえ、だ！わたし、じゃ…」そこまで言って、ふらり。隣に座るもう一人の患者に寄り掛かってしまう。「…三成…大声、出しちゃ、ダメだ…」こちらも、ふら、と頭を揺らしつつ。

佐夜子 @s69_cd

２人の顔は熱に浮かされ、息も荒い。「黒田、これ以上は刺激するな。我らの息子を殺す気か」「へいへい、小生が悪かった」診察は既に済んでいる。ならば後は薬を貰い、帰るのみ。「ま、騒がず寝てりゃすぐ治る」パソコンから目を離し、患者２人に医者は言う。「だから、もう来るなよ悪ガキ共」

佐夜子 @s69_cd

診察室を出、受付にて、患者２人と母は会計の時を待つ。「……いえやす、まご。かんべえは、やぶいしゃ、だ…」「はは…三成は、難しい言葉を知ってるなぁー…」「…三成、そのような言葉、何処で覚えた」「ちかが、こないだよんでくれた、ほん…」「あー…元親が買ってきた漫画の…」(後で元親殺す)

佐夜子 @s69_cd

「さあ、帰るぞ」会計を済ませ、駐車場へと向かう。１人を抱き、１人と手を繋ぎ。病院を出る。外に出れば、じわじわ、と照り付ける陽射し。「…孫市、」ふと繋がれた手の方から。「ワシ…アイス食べたい……暑い…」外と内の熱に負けた、素直な要求。それを伝えるように、きゅ、と繋いだ手も強く。

佐夜子 @s69_cd

「ふふ…良いだろう」弱った子に甘えられれば。何でも叶えてやりたくなる、それで、元気な姿を取り戻せるなら。「まご…わたしも」「勿論だ。但し、食べたらすぐに寝ろ。騒ぐな。それが条件だ」そして、車に乗り、帰途に着く。道すがら、３人分のアイスを買って。