ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/31 (ブルームーン)

silf⛩️ @athene1020

あくびをひとつして、私はパソコンの電源を落とす。同時に頭の中にある機械のスイッチに手をのばした。全自動夢投影機。瞼の裏をスクリーンにして幻灯を映し出す、古風な趣の装置である。さてと、今日は何にしよう。小さな頃の旅行か、あの人とのデートか。 #twnovel

おぼろちゃん @oboroose

#twnovel パンが黴びていた。店員は人形なので話にならない。店長を呼び出した。人形だった。本社に電話した。人形がでた。直接怒鳴り込んだ。社長を筆頭にすべて人形だった。パン工場も、同じく。どこまで行ってもニンゲンが出てこない。ふと思う。私の主が最後のニンゲンなのだろうか、と。

Lil'Cany @LilCany

僕が時間跳躍の旅で辿り着いた先は丁度ビッグバンの直前。僕の身体はバラバラになって元素となり原始のポップコーンとして宇宙中に爆ぜた。そう、今生きとし生ける君も虫けらもダイヤモンドも空気も海もこの地球も太陽もこの僕でさえも、全部この僕の亡骸から造られたんだよ。 #twnovel

佐々木匙@やったー @sasasa3396

長靴の中には泥がいっぱいで、歩くたびにひどい感触がする。中には微小な球根が幾つも沈み、そろそろ僕の足に根を張り出す頃合いだ。道ゆく人よ、気が向いたら尋ねてください。「一体なんでまたそんなことを？」僕は笑って答えるでしょう。「さあ、全くわかりません」と。 #twnovel

るんたった @michixan

預言者が神様に「世界の終末を見せて欲しい」と祈った。すると凄まじい風景が幻視となって見える。彼は歓喜し、これを聖書として記録。20世紀も後に、映画監督が聖書の世界の終末を映画で再現して大ヒット。神様もこの映画が好きで、預言者に見せたのは実はこの映像だったのだ。 #twnovel

キヨシロウ @kiyoshiro_aoi

#twnovel 八月が終わり夏休みが終わりセミの鳴き声が止み夏が終わる。しかし俺にとって今日と明日は大して変わらない。変わらない日常が続くだけだ。何か変化がほしい。という話を最近マンネリ気味の彼女にすると、微笑みながらこう言った。「じゃ明日から苗字じゃなくて名前で呼んであげる」

Takao Rival @takao_rival

#twnovel 「無茶を一杯、所望したい」と和服姿の客は言った。「では、こちらの茶をどうぞ」私は茶碗を卓に置く。「茶碗に触れずにお召し上がり下さい」「ふふふ、その程度の無茶か。これが分かるか？ストローだ」私は黙して待つ。直後に悲鳴をあげて火傷の舌を押さえる客。「ですから無茶と」

すなお @Svnao

#twnovel Ｑ.霊感があることで嫌な思いをしたことは？　Ａ.私の場合怖い思いをしたことはないんですが、夫の葬儀の最中に夫の霊が木魚のリズムに合わせてお坊さんの頭を叩いているのが見えて、堪えきれず手を叩いて笑ったところ、親戚の強い勧めで精神科を受診させられたことがあります。

しぃとろん @seatoron

そういえば、今夜は満月。宿題を忘れていた！猫に変身し街の中を歩いて、この街にのどこかに眠っている秘宝のありかの情報を手に入れる。簡単なようで、なかなか手間ヒマのかかる問題なんだ。あたしは鏡の前で自分に魔法をかけた。出かける前にママが一言。「しっぽが3本あるわよ」 #twnovel

tokoya @tokoya

#twnovel 掃除ロボットは日本の狭小住宅には向かない。そう考えた技術者が、新型の掃除ロボットを開発した。小型で掃除能力は低いのだが、複数が協調動作を行う事で高い性能を発揮する。だが商品としては失敗だった。全く売れなかったのだ。その六本足で高速移動する、黒光りしたロボットは。

新矢 晋 @sin_niya

「私は宝石しか食べられないの」王の二ノ姫はそう囀り、エメラルドのサラダやオニキスのプディングを食べていた。毎日大量の宝石がキッチンに運び込まれ消えていき、王国の婦人たちの胸元から彩りは消えた。後の反乱で姫は殺されたが、その腹から宝石は出てこなかったという。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

おいしいカレーを作ったよ。ジャガ芋と人参がごろごろ、豚肉と玉ねぎも沢山。でも、大きな鍋のカレーを、一人で食べるのは寂しいな。そう思ったら誰か来た。「おいしいカレー、分けてにゃあ」ねこだ。一皿よそってあげた。「こんなにおいしいカレー、食べたの皆に自慢するにゃあ」 #twnovel

Hiroyuki inoue @hiro_kinako

#twnovel 小さな駅舎を出ると頼れるのは数えるほどの街灯だけ。つい先日まではまだ明るかった時間帯なのに、気づかぬ間に季節は進んでいる。「夜道を歩く心細さ、男の子には分からないよね」そう言う彼女の手に思い切って触れてみる。夜道でよかった。この気持ち、女の子には分からないよね。

Takao Rival @takao_rival

#twnovel 「お父さん、小説ってなんで小さい説なの？」「昔の中国で君子の為に書かれた書が大説と呼ばれていてね、対して空想の物語を小説と呼んだ訳さ」「ふうん」「この事はあまり他の人には言わない様にね」「え、なんで？」「大切な事は無闇に喋らないんだよ」「この駄洒落親父がっ！」

キヨシロウ @kiyoshiro_aoi

#twnovel 夜の駅前に仏様のような笑顔をした仲睦まじい老夫婦の姿があった。「今日も出迎えありがとう」「いえいえ、どういたしまして」「なあ」「何ですか？」「今日はブルームーンなんだそうだ」「ほう、そうなんですか」「なあ」「何ですか？」「今日はちょっと遠回りして帰ろうか」

layback @laybacks

ある作家のサイン会で質問をした。「僕は趣味で小説を書いていてどうにも気分が乗らない時があります。そんな時先生はどうされますか」「あなたは今お勤めをされていますか」「はい」「では仕事に行きたくないなぁという日はどうしますか」「嫌々ながら出勤します」「私も一緒です」 #twnovel

雪月 @setugetufuka

狐の姉弟が月を眺めていた。姉は人に化けて街で働き、弟を養っていた。明るい性格だったのが、最近はため息ばかりついている。「姉ちゃん、月がきれいだよ」弟が言うと姉は泣き出した。「あの人もそう言ってくれたの。私どうしよう…」弟は訳が分からぬまま姉の背中をさすり続けた。 #twnovel

藍　真史 @shin1960

#twnovel 目覚めたのは別れた妻の部屋だった。酔ったあげくに無意識のうちにたどりついたらしい。妻が水を持ってくる。すまない。時計を見ると深夜の２時。あなたはほんとうに変わらないのね。妻が窓を開ける。夜気が心地良い。ねえ、この月２度目の満月。満月も２度目が美しいらしいわよ。

夢名 七志 @mumei7c

「月が青いですね」返事は無い。でも聞いてくれているに違いない。見開いた目に映える光。雲が過ぎて僅かに色味が変わる。もう一度言ってみようか。横たわる彼女にそっと触れてみる。月光も敵わないだろう、青く透き通る頬。より青い唇。冷たい。空に視線を戻しもう一度言ってみる。 #twnovel

すわぞ @suwazo

#twnovel 古具屋に、品を売りに客が来る。竜の牙の剣を。交渉が始まる前に次の客が来る。竜の鱗の盾を持って。さらにまた客が。竜の眼の指輪を。続いて竜の骨の楽器が。竜の爪の杯が。『やれやれやっと揃うたわ』声が響く。巨大な何かが屋根を破壊して空へ舞い上がる。宝はすべて消えている。

とおる7th @windcreator

夏休みの宿題が終わらないので、過去の自分に警告を送ることにした。文面について考えるが、過去の自分に宿題をさせるのはかなりのMission Impposibleである。諦めた。 #twnovel そういえば、夏休みの初日に差出人不明の怪しい手紙があった。開封してみる。『ドンマイ俺』

黒目ソイソース @ghostsoysauce

金色の月の光が、家路を急ぐ鶺鴒に降り注ぐ。昔は青く見える月のことをそう呼んだのだが、今はひと月に二度目の満月もブルームーンと呼ぶらしい。「ねえいつになったら青い月になるの？」「わかんない。いつだろうね」「わくわくするね」塀の上の二匹の猫に教えるべきなのだろうか。#twnovel

雲心隠月 @endless_12

#twnovel　夏休み最終日。宿題に追われる子供が一人。「あと二十分しかない！」「どうして？まだ朝まで時間あるだろうが！」　宿題戦争に巻き込まれた叔父さんは不思議そうに聞く。「ネットが発達したから日付と同時に期限が終わるんだよ！」　進化とは無常である。

橘　颯 @so__w

巧く出来ないのですと婦は云う。はくはくと忙し無く動く唇に己が其れを重ねれば、確かに出来てはいない。巧く出来ないのです。そう綴る幽き聲は今にも絶えなんとしている。気の迷いであろうよとの宥めにも首を振るばかり。息が巧く出来ないのですと、機械仕掛けの婦は喉を掻き毟る。 #twnovel

内田沙良 @Uchida_Sara

夜更かしをしてから眠れなくなり三日が過ぎた。お昼を食べ少し寝て、仕事帰りのバスでうとうと。テレビの音で目が覚めてベッドへ行き、気付くと停留所で立ち上がる。夢と現実を理解する為、手首に印もつけた。「別れよう」と彼氏から聞いた時、手首に印はあっただろうか。 #twnovel