茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第704回「主権国家と、核の現実」
- toshihiro36
- 4339
- 0
- 0
- 2
しか(1)東日本大震災で起こった福島第一原発事故は、日本の社会に大きな影を投げかけている。脱原発を唱える人たちと、原発を容認する人たちの間で意見の対立があり、感情的なぶつかり合いにも。故郷の町に帰れない方々がいるなど、甚大な影響を与えた原発事故。その周辺問題について考えたい。
2012-09-03 06:49:42しか(2)人類が原子力の理論的可能性に出会ったのは、アインシュタインのE=mc2においてである。そして、質量欠損の現象が発見されるに至って、現実的な道筋が見えた。第二次大戦中、そのアインシュタインが、ナチスドイツが先に原爆を開発することを懸念して、大統領に書簡を送った。
2012-09-03 06:52:21しか(3)マンハッタン計画によってつくられた原爆は広島、長崎に投下され、一瞬にして何万人もの命が失われた。アメリカは、現在に至るまでもなお、原爆投下は戦争終結のために必要だった、という論理を放棄していない。その後の冷戦の中で、ミサイルを含めた核兵器の開発競争が進んだ。
2012-09-03 06:54:23しか(4)冷戦時代、アメリカとソ連の間では、お互いにもし攻撃があれば相手を殲滅させるという相互確証破壊(Mutually Assured Destruction, 略称MAD)が戦略として議論された。人類の文明を何度も絶滅させるだけの力で対峙することで、かりそめの平和が保たれた。
2012-09-03 06:56:24しか(5)ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結した今でも、アメリカ、ロシアの二大国は大量の核兵器、ミサイルを蓄積、運用している。相互確証破壊(MAD)は緊迫度こそ薄れたものの、核兵器の存在を正当化するロジックとして有効性を失っていない。中国がMADに加わる可能性も取りざたされている。
2012-09-03 06:59:10しか(6)チャップリンは、映画『殺人狂時代』で、一人を殺せば殺人者だが、何万人も殺せば英雄だと述べた。広島、長崎への原爆投下の背後にあるのは、英雄をつくりだす主権国家。ホッブズが述べたように、国家は社会契約を通してリヴァイアサンとなるが、核の文化と結びついた時に凶暴性が増す。
2012-09-03 07:00:56しか(7)原子力発電所の問題は、人類が手にしてしまった「核の文化」の一部分である。第二次大戦は、そのまま、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の戦勝国のみが核兵器を持つという構造に引き継がれ、イスラエル、北朝鮮、インド、パキスタン、そしてイランと核の拡散も止まらない。
2012-09-03 07:02:45しか(8)懸念されるのは、核兵器に関するブラック・スワン・イベントである。従来は、相互確証破壊の下、大国の責任ある政府が管理するという前提に、核兵器の偶発的爆発が抑止されてきた。しかし、どんな管理システムにも脆弱性がある。テロリストが核兵器を手に入れる可能性も否定できない。
2012-09-03 07:04:33しか(9)国家の主権が核の文化と結びついた時に、さまざまな事象が起こる。日本では、原発を減らすないしはなくすことが実現するかもしれないが、世界的に見れば、主権国家が核の文化を手放すことは期待できない。人類が、一度手にした道具を放棄した事例はない。私たちは核の現実の中に生きている。
2012-09-03 07:07:04以上、連続ツイート第704回「主権国家と、核の現実」でした。なお、このテーマとそれに関連した諸点については、9月発売の「新潮45」の連載「日本八策」第八回において、「原子の倫理」(nuclear ethics)というタイトルの下に、論じます。
2012-09-03 07:16:09