海難法師

怪奇の種の小泉より、8話目の『海難法師』で御座います。
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小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私はツーリングが趣味で、休日になると愛車に跨って、景色の良い所を走っていた。 しかし、今はもうツーリングはしていない…。 いや、する事が出来なくなってしまったのだ…。

2012-09-06 05:26:19
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

これは数年前の話である。 夏季休暇を利用して、大海原を一望出来る海岸線を走っていた。 天気も良く、真っ青で綺麗な海が眼前に広がり、心が洗われて行く様で心地良かった。

2012-09-06 05:26:37
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

しかし急に雲が広がり、先程の天気の良さが嘘の様に周囲が薄暗くなり、空模様が怪しくなった。 いつ雨が降りだすか解らないので、何処か雨宿り出来る場所は無いかと辺りを見渡して見る

2012-09-06 05:27:01
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

しかし、何も無い海岸線である。適当な建物は見当たらない。 そうこうしている内に、ポツポツと降り出して来たので、慌てて雨を凌げそうな場所探した。 すると、道路から少し下った海岸沿いにプレハブ小屋が見えたので、そこに避難する事にした。

2012-09-06 05:27:17
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

近づいて声を掛けてみるが、返事は無く人の気配も無い。 恐る恐る、ドアノブを回してみると鍵は掛かっておらず、ドアが開いた。 どうやら漁師が納屋として使っているらしく、網や漁の道具が置かれていた。

2012-09-06 05:27:33
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

雨が止むまでの間、お邪魔する事にした。 その間もドンドンと天気が悪くなり。空は益々暗くなっていく。 どうやら風まで吹き始めたらしく、外では唸る様な音がし、小屋を揺らしだした。

2012-09-06 05:28:06
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

風雨は激しさを増し、嵐の様になった。 小屋から出る事が出来ずジッと身を潜めていると、海岸から何かズルズルと引き摺る音が聞こえてきた。 『ズルズル…。ズルズル…。』 その不気味な音は確実に、私の居る小屋の方へと向かって来ていた。

2012-09-06 05:28:37
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

「誰か来たのかな?」私は小屋の持ち主かも知れないと思い。 「すみません。雨宿りしたくて、勝手に上がらせて貰いました。」と、話かけた。 ところが返事は無い。

2012-09-06 05:28:44
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

「聞こえていないのかな?」と考えていると『コンコン』とドアを叩かれた。 私はもう一度「すみません。雨が止むまでお邪魔させて貰ってもいいですか?」 と、問い掛けるが返事は無い。

2012-09-06 05:29:02
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

「何か変だな。」と思った途端。 『ドンドン! ドンドン!』と、狂った様にドアを叩かれた。 「ヤバイ! 早く鍵を掛けなくては。」身の危険を感じ、急いでドアへと駆け寄った。

2012-09-06 05:29:18
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

その時だ。 ゆっくりとドアノブが回りだした。 私は得体の知れない恐怖に駆られて、体をドアに押し当てながら目一杯、力を込めてドアノブを掴んだ。

2012-09-06 05:29:35
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

人間とは思えない力でノブを回し、中に入ろうとして来ている。 恐怖と不安から、心臓が止まるのではないか。と思いながらも必死に抵抗をして、何とか鍵を掛ける事が出来た。  その後も『ドンドン! ガチャガチャガチャ!』と、外に居る者は狂った様に、ドアを開けようとしていた。

2012-09-06 05:30:04
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

しばらくすると静かになり、開け様とするのを諦めたかと思った、その時だ。 何か得体の知れない黒い液体が、ドアの下の僅かな隙間からジワジワと流れ込んできた。  それと同時に小屋の中に異臭が立ち込め、ウッ! と吐きそうになるのを堪えた。

2012-09-06 05:31:22
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

そんな私の事などお構い無しに、その黒い液体はドンドンと流れ込んでくる。 そして、その液体は不自然に蠢き、何かの形になろうと隆起し、固まりだしていく。 それは徐々に、ハッキリと解る形へと整っていく。 そう、人の形へとなっていっているのだ。

2012-09-06 05:31:50
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私は「それを見ては駄目だ!」と思いながらも、視線を逸らすことが出来ずにいた。 眼前でそれは、もう表情すら解る位に鮮明な形になり、私はそれと目が合ってしまった。 その瞬間、目の前が真っ白になり、意識が遠のいていった。

2012-09-06 05:32:19
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

『ドンドン!』という音がして、私は目を覚ました。 辺りは真っ白で何も見えない。 まだ目が慣れていないせいだと思った。 「オーイ、誰かおるんか?」と、年配の男性だと思われる声が、小屋の外からしてきた。

2012-09-06 05:33:03
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

「すみません。雨が止むまでの間と思って居たのですが、どうやら眠ってしまったみたいで…。」と返事をした。 ガチャという鍵の開く音がし、男性の声も小屋の中から聞こえてくる。

2012-09-06 05:33:44
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

「そうか~。もう雨も止んどるし、ええ天気になっとるよ。」と言われたので。 「それは良かった。ただ、まだ目が慣れないせいか、視界が真っ白になってて…。」と私が言い終えるか否か。 「兄ちゃん、その目どうしたんや!? 真っ白になっとるで!」と言われ、すぐ病院へと連れて行かれた。

2012-09-06 05:34:03
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

医者が言うには、私の両の目は末期の白内障になっており「手術しても視力が戻るか解らない。」との事だったが、それでも手術をして貰い。 結果、幸運な事に僅かながら視力は回復したのだった。

2012-09-06 05:34:27
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私は今でも、あの時の恐怖を思い出して、寝付きが悪くなってしまう事がある。 しかし、どれだけ夢で見ても、あの時のアレの顔だけが思い出せないのだ。 無意識の部分がそうしているのか、それともショックで完全に記憶が欠損してしまったのか、全く思い出せないのだ。

2012-09-06 05:34:45
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

だが、今となってはアレの正体など、どうでもいい事なのだと思っている。 そう、思い出したくも無い、どうでもいい記憶なのだから…。

2012-09-06 05:35:11