@i_rony_ #twnovel

12/10/01~
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いろにー @i_rony_

玄関先で、君の髪がなびく。「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」その声は目線とは裏腹に弱々しく震えている。僕は白い息で笑って、コートに手を滑らした。君の顔が赤いのは、多分そういうことだろう。 #twnovel

2012-10-29 08:37:30
いろにー @i_rony_

僕は塩だ。優しく甘いスイカの君を、さらに優しくする。君の深い心の傷跡を、さらに深くする。 #twnovel

2012-10-28 07:38:26
いろにー @i_rony_

光の線は、いまや点となって、右に左に揺れ動く。不規則な動きをするその光は、つまり君が生きている証。脈を打つ、涙を流す。指を差す、息を吸う。その光が消えるのは、僕の目を閉じた時だといいな。 #twnovel

2012-10-26 23:19:15
いろにー @i_rony_

パステルカラーに染まった土曜日の午後。アコーディオンの音色と、鳥のさえずりがレモンティーを程よく波立たせる。そう、貴方の声なんて無くても、私はここで生きている。貴方はいつも目的を探していたけれど、そんなものは必要ないの。ここに私がいる、それだけ。 #twnovel

2012-10-26 00:30:42
いろにー @i_rony_

「坂道を走って下ると、僕はもう、ピーターパンだったんだ」彼は満足気な表情で此方に向いた。ふうん、と僕は興味の無い振りをしていたが、彼の言いたいことは分かっているつもりだ。ただ、僕が坂道の上に居るのか、下に居るのか、が分からなかったから何も答えられなかったのだ。 #twnovel

2012-10-25 07:31:05
いろにー @i_rony_

扇子を構えて袂を揺らす表情は、普段の穏やかな彼女のものとは到底思えなかった。そして、憶えのある悲鳴が聞こえた方へ駆け出した。反射的に後を追う。その差は縮まらない。風が耳元を抜ける。正面を向くと裾を掴む手。僕はスピードを上げた。 #twnovel

2012-10-23 22:30:19
いろにー @i_rony_

「雨か、私はわりと好きだな」彼女は輝く粒を背にして、こちらを見ていた。「空もさ、たまには鬱憤を晴らしたくなると思うの。私みたいだな、って」ああ、と溜息にも似た声を僕は漏らし、気付いた。多分、貴方は空で、僕は雨なんだろう。その言葉は口に出さず、心に仕舞っておいた。 #twnovel

2012-10-23 00:28:30
いろにー @i_rony_

街は、僕のことなど気にも留めずに、暖かく眠っている。風が上着の裾をなびかせ、君は影を夜に隠す。淡いピンクと、深い藍が混ざる空。その境目が、およそ分からなくなった頃、いつも僕は君を探してしまうんだ。 #twnovel

2012-10-22 00:25:05
いろにー @i_rony_

「此処には、よく来られるんですか」「ええ、毎日ね」心にも無い冗談を、彼女は余裕たっぷりに返してきた。雨は未だに強く降り続けているが、居心地は悪くなさそうだな。 ビルの庇で雨宿りする二つの影が、静かに笑っていた。 #twnovel

2012-10-21 00:08:51
いろにー @i_rony_

カーテンを開け放つと、朝が一気に雪崩れ込んできた。この窓は、壁の一部分として空を切り取っているようにも、自分が狭い部屋に鎖で繋がれているようにも思わせる。僕はこれから、壁になるのだろうか、窓になるのだろうか、はたまたカーテンになるのだろうか。 #twnovel

2012-10-20 08:51:22
いろにー @i_rony_

雨の降る夜は、近所の大きな交差点、その上に架かる歩道橋に登る。店と街灯のあいだを流れていくヘッドライト。目に映る光の軌跡は、いつまでも僕をとらえて離さない。僕はこうする事でしか自分が生きていると感じられないのだ。もう、此処でしか息を吸えない。 #twnovel

2012-10-19 00:39:39
いろにー @i_rony_

窓際の椅子に座り、窓を背にして大きな欠伸を一つする。ふと振り返ると、朝と夜のちょうど真ん中あたりの、濃紺の空が広がっていた。そこには沈んだ自分の心を包み込むような静けさや、温かささえあった。もうこんなものを見てしまったら、夜には逃げられらない。 #twnovel

2012-10-18 07:10:06
いろにー @i_rony_

夏の太陽、冬の雲、当たり前のようで 君に似ている。手を伸ばしたって届きはしない、遠く、遠く離れた距離。傾きながら空を見上げて、僕が居なけりゃ君もいない、なんて言いたいけど、本当のところはどうなんだろうね。ずっと昔から繋がっていたから、もう忘れちゃった。 #twnovel

2012-10-17 00:17:10
いろにー @i_rony_

風が僕の心に踏み込んだ。言葉も、返事も無しに。さも当然のように。いや、本当のところは当然というか、分かっていたことだった。望みが叶ったとも言えよう。それでも僕は、泣いた。ただ涙を落とすことしか出来なかった。その雫を乾かすために、また風が吹いた。 #twnovel

2012-10-16 14:21:46
いろにー @i_rony_

傾く筈だった陽も、今はその身を鈍色の空に隠している。夏は全て嘘だったのだ、と言わんばかりに冷たい風が音を立てて傍を通り過ぎていった。生まれた時から、空の広い田舎で育ってきた僕には分かる。これは雨の香りだ。すぐにでも降り出すだろう。自転車のペダルを強く踏み込んだ。 #twnovel

2012-10-16 00:08:24
いろにー @i_rony_

其処に居るのか、いいからドアを開けて外へ出てきてくれ。いくら暴れたって、呻いたって、そこは鍵をかけた部屋の中。言いたい事があるんだろう?ああ、いくら呼んでも君には聞こえないようだ、いつまで其処に留まっているんだ。さっきまで君は優しい顔を見せていたのに。 #twnovel

2012-10-15 00:03:27
いろにー @i_rony_

邪魔者は何処かへ行ってしまえ。小さく身体と喉を震わせるだけの奴は、隅に追いやってしまえばいい。周囲の言う事も聞けない子供じみた奴は、その姿を晒してやればいい。そう言いながら俺は背後を振り返り、すぐに膝から崩れ落ちた。いつまでも自身の声が耳の奥に響いていた。 #twnovel

2012-10-14 00:10:16
いろにー @i_rony_

無地のピースに模様が付いた。散らかして眺めているだけでも、その鮮やかな色遣いには心を奪われる。注意深く見ると、繋がるもの、繋がらないもの、それらが良く分かる。しかし何故だろう、僕だけ其処にはいないのだ。僕は真っ白なまま、誰とも繋がることなく傍観して狼狽えている。 #twnovel

2012-10-13 01:08:09
いろにー @i_rony_

風が吹く。同情の風が、心の空白に吹く。僕は走り出せないまま佇んでいた。枯れた木々は、かつて纏っていた装飾を捨て、ありきたりなその姿を晒している。枯葉が足元で舞ったが、やはり見ている人など誰もいない。さあ何をしようか。 #twnovel

2012-10-12 06:45:05
いろにー @i_rony_

風は常に吹き続けている。そして、時代の流れが加速する程、迫りくる風はより強く吹くのだ。当然、誰にとっても等しく吹くのだが、その中には風に煽られないように生きる人もいる。それが正しいのかどうかは分からない。風が何処から吹いてくるのかは知らない。 #twnovel

2012-10-11 06:45:54
いろにー @i_rony_

夜にサラダを作る。誰も居ないところで作る、僕だけが知っているサラダ。数えきれない程の感情を刻んで、千切って、添えていく。古いものから新しいものまで、全てだ。それらが見栄え良く整うことはあまり無いが、構わない。どうせ食むのは自分だけなのだから。夜にサラダを作る。 #twnovel

2012-10-10 00:35:36
いろにー @i_rony_

「そう、黒鍵が白鍵の一段上に居るのと同じだ」彼はその視線で僕の眉間を捉えた。「音を出すためには自分を一段下げなけばならない。皆が同じ高さを保っている時、実は黒鍵という招かれざる客のみが場を牛耳っているんだ。当然だが、その時白鍵がとやかく言うことなんて出来ない。」 #twnovel

2012-10-09 00:03:39
いろにー @i_rony_

短くなった鉛筆は、いつのまにやら折れていた。何も知らない幸せを、知らない君は幸せだ。真っ直ぐ立ててみたところで、いつも倒すのは僕だった。そのうち何処かへ仕舞いこみ、無くなったと騒いでるんだ。その傷は、その傷は、本当に忘れ去られたか? #twnovel

2012-10-08 00:00:45
いろにー @i_rony_

雨が降ってきたみたいだな、そう君の声が聞こえてきたから、思わず笑ってしまった。すぐに「それじゃ流れ星が可哀想じゃない」なんて思ったけど、口には出さないでおいた。顔は暗くてよく見えないけれど、君の子どもみたいな喜び方に、なんだか私も嬉しくなってきたから。 #twnovel

2012-10-07 00:13:46
いろにー @i_rony_

さあ寝るぞと大きな欠伸をしたその時、雨がたたた、と音を立て始めた。何かの訪れを告げるというのに、僕は目を固く閉じて眠った。気付くと小鳥が陽の中で遊んでいる。やけにきらきら輝く世界だ。思わず目を閉じる。つまり、何も変われないまま、僕は取り残されたということか。 #twnovel

2012-10-06 00:05:06