第一次聖杯戦争4日目

最終日
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時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

ライダー、ゼノビアは、生前は女性でありながら一軍を率いた将軍だった。彼女のもう一つの宝具は、その兵を使うものである。今や彼女と一つになり、魔力の塊と化した兵士共を相手の体内に送り込み、炸裂させる。それがライダーの宝具、『戦士なる美の女王』であった。

2012-09-22 02:09:44
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ライダーの手が触れると同時に、その魔力がアーチャーに流れ込んでいく。 「アーチャー!だめぇ!」 玲奈は叫び、今まで何度も助けてくれた時のように、アーチャーを手元に呼び戻す。鎖の捕縛から逃れたアーチャーは、玲奈の元に戻るとにこりと微笑んだ。

2012-09-22 02:11:47
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「大丈夫だった!?アーチャー!」 アーチャーは答えず、戦っているセイバーに声をかける。 「すまない……玲奈を、よろしく頼む」 セイバーは何も言わず、黙って頷いた。 「アー、チャー?」 アーチャーは、玲奈の頭に手をおいた。願わくば、この少女に勝利を。そして願わくば……人並みの幸福を

2012-09-22 02:13:19
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げろり、と奇妙な音がした。不審に思った玲奈が顔をあげると、アーチャーの口の端から血が垂れている。 「あ、アーチャー!怪我してる!」 どれだけ厳しい状態でも、玲奈にそう心配されれば答えて来たアーチャーが何も言わない。さっきの音は何だったのか、わからないまま不安に襲われていた時。

2012-09-22 02:15:17
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アーチャーが、口から大量の血液を吐き出して倒れた。ライダーの宝具は、既に成立していたのだった。奇妙にくぐもった音は、彼女の内臓が破壊される音だった。

2012-09-22 02:16:22
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「あ……ああ……」 膝を突きそうになる玲奈。セイバーが叱咤する。 「アーチャーがそうなるまで戦ったのは何の為で、誰の為なのか!私は戦える!貴方の指示さえあれば!」 既の所で膝は折れなかった。大好きなアーチャー。それがこうなったのは誰のせいか。

2012-09-22 02:17:52
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対極に位置する相手のマスターを見る。そしてライダーを。あいつらが、アーチャーを。 「セイバアアアアアアアア!!」 悲鳴に近い叫び。アーチャーと打ち合っていたセイバーの体が消える。 「まずい!」 アーチャーが駆け戻る。ライダーが防御に入る。 「全力で行きます!」

2012-09-22 02:19:29
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令呪によるテレポート。普通の人間であるマスターの直近で、セイバーの全力を振るう。 「『約束された……』」 先程アーチャーが使った物と同じように、しかし規模はあれより遥かに大きい魔力が動く。 魔力も勿論、懇親の力を込めて振り下ろす。 「『勝利の剣』!!」

2012-09-22 02:21:34
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金色の魔力が周囲を破壊する。アーチャーが打った『勝利すべき黄金の剣』よりも大きいその効果範囲は、『黄金の剣』のように逸らす事が不可能であった。その破壊の中心にはユアネスがいるはずで、普通ならばひとたまりもない。…・・・が。

2012-09-22 02:23:21
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

金色の光が引くと、赤の男とマスターの少女はそこに立ったままだった。 「羽が全て消し飛んだか……相変わらず寒気のする威力だ」 先程投影してみせた『熾天覆う七つの円環』。矢を防いだ時は欠損すらしなかったそれが使用不可能なまでに崩壊している。

2012-09-22 02:24:53
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「防ぐには防いだ……だが……それでもこのザマか」 アーチャーはその余波でぼろぼろになっていた。ライダーは一目で再起不能とわかる。 「結局、私とお前の一騎打ちとなるか。奇妙なものだ」 一見すると劣勢であるにも関わらず、アーチャーは余裕たっぷりに笑った。

2012-09-22 02:26:19
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「セイバー、お願い……私はどうなってもいい。空っぽになってもいいから……勝って!」 玲奈が叫ぶ。既に魔力は枯渇していたが、それでも尚勝ってと。 「私は貴方の事を良く知らないけれど、もう長くは戦えないでしょう?……最善手を。私の魔力なら全部くれてやるわ」 ユアネスが言う。

2012-09-22 02:28:40
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

かたや魔力の限界。かたや体力の限界。 お互いに使えるリソースは最早残り少ない。 決着は、次の一撃に。

2012-09-22 02:29:21
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先に動いたのはアーチャーだった。この間合では、下手をすればマスターを巻き込む可能性がある。そう考えた彼は、セイバーを後退させるべく攻勢に出ようとした。彼は知っていたからだ。彼女の最大攻撃『約束された勝利の剣』は、その魔力消費から、二度とは撃てない事を。

2012-09-22 02:30:59
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

その足が、一歩踏み出した所で止まる。 セイバーの剣を、光が取り巻き始めている。 驚いて相手のマスターを見た。 令呪が、赤い輝きを発している。 令呪を消費し、魔力をブーストする。 次に繰り出されるだろう再びの最大攻撃は、最早防ぐ事叶わないだろう。

2012-09-22 02:33:03
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「……切り札は、何度も切るものじゃないわ」 ユアネスが呆れたように言う。いや、諦めたように、だろうか。彼女もわかっているのだ。次の一撃が。 「同感だ。何度も切れるようでは切り札とは……」 待て。勝負を捨てかけたアーチャーの思考が高速で回転する。

2012-09-22 02:34:07
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

切り札。切り札と言ったか。それはこちらも向こうも同じ認識のはず。今、アーチャーのマスターは正規の人ではない。そもそも、正規のマスターであっても、この世界に内包される剣の種類までは知らないはずだ。当然、この少女も。しかし、その言葉はアーチャーに一つの武器を思い出させていた。

2012-09-22 02:35:15
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「アーチャー、貴方と言えど、再度の『約束された勝利の剣』は防げないでしょう」 セイバーは言う。 「確かにその通りだ」 アーチャーも言う。セイバーの目には諦めたように映っただろうか。 「これで、終わりです。『約束された』……」 そう、防げない。だが……発動しなければどうだろうか。

2012-09-22 02:38:33
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

魔力が収束し、巨大な光の剣を作る。あとはこれを振り下ろせば、アーチャーはマスター諸共消し炭になるだろう。振り下ろせば、だ。 「『勝利の剣』!!」 「後より出て先に断つ者(アンサラー)」

2012-09-22 02:40:15
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

誰も知らない事だった。 それは、召喚した玲奈は勿論、今のマスターであるユアネスすらも。良く知った中であるセイバーも、知らないだろう。赤のアーチャーが英霊では無く一人の人間だった頃。繰り返される三日間を経験した事があるという事を。そしてそこには、その宝具の使い手が居た事を。

2012-09-22 02:42:10
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「『斬り抉る戦神の剣』」 球状の物体が刃を形成する。そして、『約束された勝利の剣』を振り下ろしたばかりのセイバーの胸に、一つ綺麗な穴が開いた。 「な……」 時間を逆行する宝具。後より出て先に断つ者。逆光剣、フラガラック。相手に切り札の後に出て、それより先に相手を断つ剣。

2012-09-22 02:44:31
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

『斬り抉る戦神の剣』によって、『約束された勝利の剣』発動“直前”に胸に穴を開けられたセイバー。当然、『勝利の剣』は発動せず光が消えていく。 「……見事、でした」 口の端から血を流し、そう呟いたセイバーは……その体を、土の上に横たえた。

2012-09-22 02:46:01
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

固有結界が解かれる。 ユアネスの体から力が抜ける。 ルーラーが声高に宣言する。 「此度の聖杯戦争……勝者は、ここにいるユアネスとする!」 戦争は、ここに終結した。

2012-09-22 02:47:11
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

「あ……え……」 ユアネスが聖杯の座へと進んでいた頃、大空洞に一人取り残された玲奈。今度こそ、何も残っていない。勝ち上がれば、願いが叶うと思ったのに。 不思議と涙は出なかった。もう何もかも乾いてしまったのだろうか。目の前に、誰かが立った。

2012-09-22 02:48:32
時折何かを綴る機械 @velvetroom_An

監督役、カレン・オルテンシアは、事後の処理をルーラーに任せて玲奈を見ていた。目には光無く、先どころか今すら見えていないようなその少女を。 「玲奈、だったかしら。貴女の願いは何だったの?」 玲奈は呆然とした表情のまま呟く。 「かぞく……家族が、欲しかった」

2012-09-22 02:49:39