f_zebraさんの核燃料サイクルと高速炉に関する連続ツイート

まとめました。
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Flying Zebra @f_zebra

自分の頭の整理を兼ねて、核燃料サイクルと高速炉についての技術的な側面から整理してみる。まず、核燃料の原材料となる天然ウランはU135が0.7%、残りがU238である。軽水炉の燃料は、天然ウランを濃縮してU235の割合を4%程度まで高めている。残りの96%はU238だ。

2012-09-26 22:18:06
Flying Zebra @f_zebra

新しく作られた燃料はPWRでは約3年、BWRは約4年使用され、燃焼度が45GWD/t程度となった使用済燃料はU235が1%ほどに減り、U238も3%程度がプルトニウムに変わる。Puも核分裂するため、最終的に残るのは1%程度だ。5%程度が、FP(核分裂生成物)となる。

2012-09-26 22:19:17
Flying Zebra @f_zebra

再処理とは、使用済燃料からそれぞれ1%程度のU235とPuを取り出して再利用する工程である。PuはU238が中性子を捕獲して生成されるが、長く照射されるにつれてPu239、240、241、242と質量数の大きな同位体が増える。核分裂するのは、このうちPu239とPu241だけだ。

2012-09-26 22:20:28
Flying Zebra @f_zebra

45GWD/tの燃焼を終えた使用済燃料に残る1%のPuのうち、35%程度は「燃えない」Puである。そのため、再処理によって生産したMOX(混合酸化物)燃料を軽水炉で使う場合は、Puの割合を7%程度(残りはU238)にしておく必要がある。

2012-09-26 22:22:00
Flying Zebra @f_zebra

余談だが、解体核弾頭から取り出したPuはPu239の割合が高いため、MOXのPu割合をもっと低くできるらしい。アメリカやロシアではこうした処理も行われている。

2012-09-26 22:25:05
Flying Zebra @f_zebra

MOXを使った後にさらにもう一度再処理すると、Puの中の燃えない240、242の割合は45%に増える。リサイクルを繰り返すたび、経済性は悪くなる。そのため、軽水炉(熱中性子炉)だけで使っている限りそう何度もリサイクルを繰り返せるわけではない。

2012-09-26 22:26:17
Flying Zebra @f_zebra

Pu240、242が燃えないというのは熱中性子に対する核分裂断面積が小さく、連鎖反応を維持できないということである。全く核分裂を起こさないということではない。ところで、中性子のエネルギーが上がり、高速中性子になるとPu同位体による核分裂断面積の差はほとんどなくなる。

2012-09-26 22:27:40
Flying Zebra @f_zebra

Pu239、241については熱中性子の方が断面積が大きいのだが、高速中性子に対しては全てのPu同位体で連鎖反応が維持できる、つまり「燃える」ことになる。そこに高速炉の意義がある。Puをより効率的に使い、余分な廃棄物を減らすことができるのだ。

2012-09-26 22:28:33
Flying Zebra @f_zebra

高速中性子によるPuの核分裂連鎖反応では中性子増倍率に余裕があるため、炉心の周囲にU238の「ブランケット」を配置して中性子照射すると、そこからPu239を生成し、Puを「増殖」することもできる。これがFBR(高速増殖炉)だが、ここでは増殖については触れない。

2012-09-26 22:29:46
Flying Zebra @f_zebra

高速中性子は、Pu以外の超ウラン元素、いわゆるMA(マイナーアクチニド)についても効率よく補足され、核分裂を起こす。MAは核廃棄物を最終処分する際には大きな問題となるが、高速炉を上手く使えば半減期の短い核種に変換しつつ、エネルギーを得ることも出来るのだ。

2012-09-26 22:30:22
Flying Zebra @f_zebra

MOXを軽水炉で利用するプルサーマル(Puを「熱」中性子炉で燃やす、という和製英語)だけではリサイクルの効率は悪いが、それでもウラン原料及び濃縮にかかるエネルギーの節約になるだけでなく、最終処分する廃棄物の絶対量も減らすことができる。

2012-09-26 22:31:18
Flying Zebra @f_zebra

また、高速炉が利用できるようになれば(「増殖」は置いておくとしても)更にウランの利用効率を高め、利用価値のないPu240、242が無駄に蓄積されることもなくなる。最終的な廃棄物の減量にも非常に効果的だ。

2012-09-26 22:32:21
Flying Zebra @f_zebra

MAの消滅処理については変換に寄与する核分裂断面積が大きいのはよりエネルギーの高い領域なので、効率的に処理するにはMAを炉心の中心近くに配置する必要がある。また、酸化物燃料より金属燃料が好ましく、現在の設計でそのまま実現できるわけではない。

2012-09-26 22:33:06
Flying Zebra @f_zebra

超えなければならない技術的なハードルはいくつもあるが、最終処分した廃棄物の管理期間を数万年から300年程度まで短縮できる効果は大きい。プレート境界近くの変動帯に位置し、地盤条件が必ずしも良くない我が国にこそ必要性の高い技術だと思う。

2012-09-26 22:34:03
Flying Zebra @f_zebra

再処理や高速炉にはこれまで多大な時間と莫大な予算が注ぎ込まれてきた。成果は確実に出ているが、納税者に分かりやすいメリットを示すところまでは出来ていない。将来実用化できるにしても、まだまだ多くの時間と予算が必要だろう。諦めて手を引く、という選択はもちろんあってもいい。

2012-09-26 22:34:57
Flying Zebra @f_zebra

ただ、これまで積み上げてきたものを棄てるという決断は、それによって失うもの、将来世代に数万年間の廃棄物管理を押しつける結果となり得る可能性、我が国のエネルギー政策の選択肢を縛ってしまう危険性、そうしたことをしっかりと認識し、覚悟を持って成されなければならない。

2012-09-26 22:35:32